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願いを叶えるは心失くした男  作者: たまぞう
心を蝕む魔を断ち切る剣
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店員ダリル

「ねえ、この人に作ってあげない? ダリル」


 なにやら女の子がカウンターの男に言っている。


「それは、作れということか?」


 ダリルと呼ばれた男は別に感情のこもってない声音で聞き返す。


「そんな命令みたいなこと言わないよっ? でもまあこのままだとこの人死にに行きそうだしさっ。ダリル暇でしょっ?」


 同情してくれてるのかと思ったら、向こうには暇だから作れば? なんて聞いている。そんなノリで作られても魔獣に対抗できるのか?だとしてもどのみち金はない。


「お金の心配ならそんなにしなくていいよっ。いい武器ってのは職人の長年の研鑽だったり、受け継いだ技術だったり希少な素材だったりで、そういうところにも金額が反映されるわけだけどっ、ダリルにはそういうのないからっ!」


 いや、なおさら気になるわ。ないのか、技術!


「いや、別に鉄持ってきたら出来上がったりしないからな?俺もそれなりに手は掛けてるんだ」

「まあ、作ったげてよ。ここ何ヶ月作ってないし、というかまともな作品なんて前にひとつ作ったきりじゃない」


 そんなのまともな腕してるか怪しいどころじゃない。さっき冒険者の腕をうんぬん言われたのが腹立つ気がする。いや、腹立てていいのか?


「分かったよ。まあお前が言うなら仕方ないだろ。というわけで、冒険者よ。有り金出してみな。何作るか考えてみるからよ」


 いや、怒っていいやつだなこれ。


「いやいやいや……あんた今のやりとりでじゃあお願いしますなんてならねえよ? 人の事さんざん言ってくれて、そっちは全くもってダメ職人じゃないか。そんなだから工房に入らずこんなとこで座って……」

「だ、そうだ。作らせてはくれないとのことだ。あきらめろ」


 話を途中で遮り向こうが結論を女の子に聞かせる。

 はぁ……と、女の子のため息ひとつ。


 ここでの買い物は諦めよう。どのみち通用しない武器を持ってもダメならこれまでのナマクラでも手ぶらでも同じじゃないか。


 そうと決めたら行こう。みんなには悪いけど、家族もいない俺なんかはお前らを見殺しにしたまま生きることなんて出来ないんだよ。


「決意を固めたところ悪いんだけどっ。この店でダリルが武器を作るなんて滅多にないんだよっ」

「そりゃ、腕が悪いから作らせてもらえないってヤツだろ?」


 さっきの話からしてそうでしかない。何が言いたいんだか全くわからん。


「ダリルはオーダーメイド専門なんだよっ。数打ちなんて作らないし、自分の趣味以外で自発的に作らないしっ」

「だから、なにを……」

「あなたが倒したい相手を倒せる武器を作ってくれる。それがダリルの仕事ってことっ。それも格安、あなたの有り金で十分なくらいにっ」


 一体どういうことなのか。普通の武器と魔獣用のでは桁がひとつふたつ違うのに、足りるとかわけがわからない。


「何にでも通用する武器は高いけどオオカミ頭だけに特化してれば十分にコストダウンできるのっ」


 なるほど?っていうかなんでオオカミ頭って。


「いや、あなた有名よ? あんなに錯乱してたからもう街中知ってるわよっ?」


 顔が真っ赤になるのがわかる。当然怒りではなく羞恥心。そんなに……いやだからこそこの子はここまで気にかけてくれているのか?


「それは……なんとも恥ずかしいことを聞いたが。だとして本当にそんな物が作れるのか?」

「ダリル、できるよねっ?」


 有無を言わせない何かが感じられるけど気のせいだろう。こんな小さな子があのガタイのいい中年に。


「はあ……とりあえず有り金がいくらでも作ってやる。金額次第で内容は変わるが──オオカミ頭、お前に仕留めさせてやる」


 ドクンッと、心臓が鳴った。知らない男に、女の子に、ここまで現実的に否定されてきた事が、今度はそれをひっくり返した言葉で、肯定された。そんななんの根拠も示されてない言葉ですら縋ってしまうほどに弱っていることを思い知らされて……それでもかまわない。


「この金で、俺に剣を一振り。みんなの仇をとりたいっ。あいつを殺せる剣を頼む……っ!」


 気づけば俺は有り金全てをダリルに預けていた。



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