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クロネコパンダの贈り物

作者: island

現実が舞台のちょっと不思議な話です。あなたならアマ〇〇や楽○で買った商品がこんな人物に届けられたらどうですか?

短いお話です。なにか心に残せたら嬉しいですね。

 今日は快晴雲ひとつない青空が広がっている。梅雨開け宣言もまだ出ていないのに、夏だといわんばかりの強い日差しに照らされてベランダが熱を帯びる。

 9日ぶりにやっととれた休みは、家からでないで身体を休めようとなんとなく考えていた。明日からまた忙しい毎日が始まるからだ。サービス業の繁忙期は一般人の娯楽欲求に左右される。遊びたい、旅行に行きたい、美味しいものが食べたいと、大多数が思うときが忙しいときだ。日本でも有数の避暑地に務める私の仕事は、年間でこれからが最大の繁忙期をむかえる。

 休日くらいは仕事のことを頭から消したいのに、どうしてもどこかで仕事のことを考えてしまう。元々の心配性なのと管理職であることで杞憂が絶えないのだ。

 私はあまり気持ちがやすまらないがせめて身体は休めようと二人がけの長座椅子に腰掛けた。網戸を締めて全開にしてある窓からたまに入ってくる外気は、避暑地ならではの湿気のないカラッとしたものだが毎年当たり前のように更新される最高気温に以前のような涼しさはなくなっている。それでも一人暮らしにはすこし広いリビングと扇風機が耐えられる温度を保っている。

 私が住んでいるのは間取り2LDKの賃貸物件だ。3年ほど前から住み始めたが1人では持て余してしまう。2週間前までは10年付き合った彼女と一緒に住んでいたのだ。


彼女、浅海麻友は大学時代の友人の紹介で付き合い始めた。お互い大学を卒業してからは別々に一人暮らしを始め。お互いの家を行き来するような関係を続けいていた。

 新しいことが大好きな彼女は、就職先もベンチャー企業の企画開発部を希望し就職に成功した。

 社会人最初の頃はお互い覚えることも多くなかなか会うことができなかったが、2年3年とたつに連れ仕事になれて定期的にデートを重ねていった。お互いに結婚を意識しだしたのは20代なかばを過ぎたあたりからだろう、そのうちにどちらともなく一緒に住もうという話になった。2人で同棲を始めた頃は楽しかったが1人暮らしが長かったせいとお互いの仕事の忙しさのサイクルの違いからか、すれ違いが多くなりつい先日彼女の方から出ていくという話になり、別れてしまった。


 1人には広すぎるリビングでスマートフォンを手に取り、適当にインターネットサーフィンをしていると玄関のインターフォンが鳴った。

 私は立ち上がると、気持ち足音を立てずに室内から画面越しにインターフォンに備え付けられたカメラを確認する。頻繁にくる新興宗教の勧誘やNHKの徴収ならスルーしようと考えていると、画面には見慣れた運送会社の制服の一部が画面に写っていた。買い物に行くのが面倒で先日アマゾンで頼んでいたビールが届いたのだと思いインターフォン越しに声をかける。


 私は玄関に向かいながらなにか違和感を覚えていた。


 鍵のかかった玄関を開けるとそこにはクロネコヤマトの制服を着たパンダが立っていた。

まさしくそれはパンダだった。毛むくじゃらの白と黒でできた身体に何サイズかわからない大きなクロネコヤマトの夏用半袖制服を着て、ダンボールに梱包されたビールを軽々と手に持っている。目は小さく黒光りしてその周りに黒い縁取り、その周りは白い毛で覆われていた。玄関枠にはいりきらないその身体に私は声を失い目を剝いた。さっき感じた違和感は写った制服がやたらカメラに近かったせいだった。


 何秒たっただろう私が言葉を失っていると

「お届けものです、印鑑かサインをお願いします。」

 丁寧な、いつもくる配送業者と同じ口調でパンダが話かけてきた。トーンは高くも低くもなくちょうどよい。

 私があまりのことに反応できずにいると

「あの・・。サインお願いします。」

 パンダが困ったように繰り返す。私は停止していた思考回路をどうにか動かす。

 なぜパンダ?パンダが喋ってる?荷物?サイン?

 頭の回路を整理しながらパンダの喋っていることを反芻する。

「ああ、はい」

 私は返事をすると恐る恐るパンダの差し出した荷物にサインをした。パンダは器用に手の爪で伝票を引き剥がす。

「ではこちらにもサインをお願いします。」

 パンダはどこから出したのかもう一つ伝票を出してサインを求めてきた。2枚目の伝票にはサインをする欄の他に(驚いた、驚いてない)記載された2択の丸をする欄がもうけられている。

 目を覚ました私の思考と視線はパンダに向く、いっぱい食わされたのだろう。パンダは小さい目をキラキラ輝かせながらサインを待っている。

 それでも目の前には本物のパンダが立っていることに変わりはないのだが、先程のようなパンダに対する恐れはなくなっていた。私は自然と笑みがこぼれ口元もほころんだ。

 目の前のパンダに子供の頃のような純粋な欲求が湧いてきた。試しに質問してみる。

「あなたに触ってみてもいいですか?」

 パンダは心良くうなずいた。

 毛だらけの身体に触れてみる。暖かな体温とふわふわした白と黒の体毛が自分の指の周りを覆う。

 真夏の日差しを受け、たいそう温まったその体毛は人工のものではなく本物なのだと自分の身体に訴えてくる。

 制服になぞるように制服から飛び出した腕を肩の下から手首まで触れてみる。次に手に触れそのまま長く伸びた爪の先に触れてみる。つるつると滑るその爪は鋭く大きく振りかざせば人間などすぐに大怪我を負わされろうだ。

 それでも全然怖くないのは、あの伝票と今目の前にたっているパンダの目、雰囲気のおかげだろう。

 初めての体験に私の脳は異性と身体を重ねたときのような興奮で麻痺していた。

「ありがとう。」

 何故かお礼を言いたくなった。

 笹の葉など家にないが、せめて言の葉でと思い、私は言葉に出してお礼をいった。

 笑ったパンダの顔などわからないが右前歯を少し見せてパンダが返してくる。

 ほったらかしになっていた2枚めの伝票にもペンを入れて返した。

 パンダは伝票をまた器用に剥がすと、2枚とも受け取り一礼して踵をかえしていった。


 私は伝票を持ったまま玄関に立ち尽くししばし感慨にふけっていた。

 社会人になって十数年、こんな新鮮な気持ち、興奮、おどろきを感じたのはいつぶりだろうか。


 手に持った伝票の控えの差し出し人には浅海麻友と記載があった。そうだろうこんな事をするのは彼女しかいない。そして2枚目にもらった伝票は往復伝票になっていた。品物は届かないが私の気持ちはとどくのだろうか。

 奇しくも今日は私の誕生日だった。まあそれも彼女の狙い通りなのだろう。

 頭の中には仕事に対する霧がかったような心配や杞憂は晴れ、今日はどこに出かけようかという意欲が湧いてきた。

 天を見上げると空の青さも小学生の夏休みに感じた毎日がワクワクした気持ちになった。



学校、仕事、人間関係に疲れた。と思ったかたに読んでもらいたくて書きました。


拙い文章ですが読んでくれた方には心からありがとうとお礼申し上げます。


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