第3話 その名はエリザベス
ちなみにエリザベスはヤスオのクラスメートであり、ヨーロッパの小国の王女で通ってる。
が、海外からの留学生、エリザベスは仮の姿に過ぎない。実はこの美少女こそクイーンミダラに搭乗し、人類に敵対する高次元意識思念体、女王ベリエザスなのである。そのベリエザスが人間の姿に化け、美少女留学生、エリザベスと名乗り、タイヘーンスリーの弱点を探るという目的でヤスオと同じ学園に通っているのである。
なんだか名前と声で大体その正体に誰もが気付きそうなものなのだが、何故か気付く者は一人としていない。
なお、高次元の意識の思念体ならどんな姿にでも化けられそうな気もするが、一度実体化しイメージが固着してしまうと別の姿にはなかなか化けられない……らしい。高次元の意識の思念体というのはそういうものなのである。
「なんだよ。エリザベスじゃねえか。なんかお前って、妙に俺にちょっかいかけてくるよな」
「ふっふーん、ちょっかいなんかかけてないわよ。この私が焼いたスーパーゴージャスなたこ焼きを食べさてあげようって言ってるんじゃない。光栄に思いなさい」
言いながら見事な千枚通し捌きでパズルゲームよろしく次々たこ焼きを焼き上げてゆくエリザベス。
「フン! ホッ! とりゃーっ!」
エリザベスの掛け声と共に数個のたこ焼きが宙を舞う。それが落下と同時にエリザベスの手にした笹型容器にすべて収まる。同時にソースと青のりをかけて一丁あがり。
「ヘイお待ち!」
エリザベスの早業と勢いに圧され、つい受け取ってしまうヤスオ。仕方がないので一個、頬張る。
「ま、まあ、せっかくだからありがたく頂戴するわ。ふー、ハフハフ」
その絶妙な焼き加減はもはや名人の域。たちまち全部平らげてしまった。
「サンキュー。旨かったぜ。この埋め合わせはいつかするわ」
「いや、別に奢ったわけじゃないから。ちゃんと代金払いなさいよね」
「……そういやお前って、どっかの国の次期女王とか言ってたよな? それがなんで日本に留学してあまつさえ放課後にずいぶん気合の入ったたこ焼きバイトまでしてんの?」
「うっ!」
ヤスオの素朴な疑問に分かりやすくうろたえるエリザベス。
「そ、それはそのー、この国に来たのは下々の人間の文化を学ぶためとかあるしー、それにこの国って妙に物価や家賃が高くって、バイトでもしないとアパート代が払えないとか、いろいろあるのよー」
「え? お前、アパートとかに住んでんの? 王女なのに? そんなにお前の国って貧乏だったの?」
「失礼ね! 自慢じゃないけど、私の国の経済力はこんな島国の比じゃないんだからね! 私の実家はアンコールワットとサグラダファミリアを足してタージマハールで割ったような超豪邸だしトイレは全部黄金で出来てるんだから! ただ、ちょっと家が厳しくて仕送りが少ないだけよ」
エリザベスがムキになって反論するので聞いてはいけないことを聞いてしまった気がするヤスオ。二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「そ、そういえばアンタって、学園では今北ヤスオなんて名乗ってるけど、ホントはあのタイヘーンスリーのパイロット、破天荒死郎なんでしょ?」
「いやそれ逆だから。本名の方が今北ヤスオで、タイヘーンのパイロットの方がボランティア的な……って、なんでお前、そんなこと知ってんの?」
当のエリザベスは余裕の表情で千枚通しを指先でくるくる回す。
「いいじゃない、そんな細かいこと。細かいこと気にしてるとハゲるわよ。もうハゲてるけど。それより、最近は操縦にも慣れてきたみたいね。あのクイーンミダラと互角にやり合ってるじゃない」