第35話 第二次潜入作戦 替え玉でゴー! その2
「世界各地でテロ行為を働いて……ムナッシー!!」
一人でそんなセリフを吐きながらその場で飛び跳ねるムナッシー。
「報復で祖国が戦争になって……ムナッシー!!」
言いながらまた別のアクションを取るムナッシー。しばらくそんな調子でやっていたが、やがて疲れたのかふらつく足取りで近くの岩に腰掛ける。
「はああ〜。なんつーか、かつてのキレがねえな〜。目に見えてスタミナも落ちてるし、もうブームも過ぎてっし、地方に行っても反応イマイチだし、マスコミも取り上げねえし、もうそろそろ潮時かな〜。ミックシーに登録でもすっかな〜」
先刻までとは明らかにテンションの落ちた声で独り言を呟くムナッシー。と、体をもぞもぞさせてどこかからタバコを取り出すと胴体の隙間にそれを差し込み煙をふかす。
ムナッシーの体から紫煙がしみ出る。リラックスして無防備状態のムナッシーに背後から突然声をかける者があった。
「おいゆるキャラ! テメエが着てるその着ぐるみを大人しく脱いでこっちに渡してもらおうか!」
ムナッシーが驚いて振り向くとそこにはショットガンを担いだヤスオがいた。不意を突かれ驚くムナッシー。
「な、なんなっしか? いきなり現れて訳分かんないこと言うななっし。ムナッシーは見ての通り、着ぐるみなんか着てないなっしよ! 言いがかりはよしてほしいなっし」
これがプロ根性というべきものであろうか、咄嗟のことでも即座に甲高い声でキャラに戻るムナッシー。が、そんなプロ意識も構わずヤスオが無粋にショットガンを向ける。
「グダグダ御託ぬかしてんじゃねえ! こっちはテンパッてんだ! テメエのノリに付き合ってる暇はねえんだよ! 死にたくなきゃさっさとその着ぐるみ置いて消えろ!」
「だから着ぐるみなんか着てないなっし! ムナッシーはテロリストの心の葛藤から生まれた妖精なっしよ! 中に人なんか入ってないなっし!」
「そういうゆるキャラのどうでもいいストーリーは余所でやってろ! 四の五の言わずにその汗くせえガワを剥いでこっちによこせ!」
ムナッシーの額に銃口を押し付けるヤスオ。
「ど、どうやらムナッシーの所属する組織の恐ろしさを知らないみたいなっしね。ムナッシーをいじめる悪いやつには怖いお兄さんたちがやってきてお仕置きしてくれるんだなっし! 謝るなら今のうちなんだなっし!」
「へえ、そうかい。そいつは怖えな。じゃあこっちも怖いお兄さんたちを呼ばせてもらおうか。おいお前ら! 構わねえからやっちまえ!」
ヤスオの合図と同時に岩陰からハカセ、ナイク、ウェドが飛び出したちまちムナッシーをフクロにする。その最中、ハカセの放ったトラースキックがムナッシーの頭部を吹き飛ばし、中からむさ苦しい中年オヤジの顔が現れたもののナイクがタオルを被せて事なきを得た。
「けっ! 手間取らせやがって。最初から大人しく言うこと聞いてりゃ痛い思いせずに済んだのによ」
毒づくヤスオの足下ではタオル被せられたムナッシーが気絶して倒れている。
「で? 捕獲に成功したのはいいが、この生物をどうするつもりだ?」
ハカセの問にウェドが答える。
「うん。こいつの着ぐる……皮を剥いで、僕達の誰かがこの皮を被ってアジトに潜入するんだ。この手口は有名なサイコ映画でやってたからきっとうまくいくと思う。名付けて、ネクター博士作戦!」
「いや、ネクター博士作戦はいいんだけど、こいつを生物扱いすんのはもういんじゃね? いろいろと面倒だろ」
「では、早速こいつの生皮を剥ぐとしましょう!」
ナイクがムナッシーの着ぐるみを脱がすとそこには髭面で天然パーマの、背の低い若干メタボ気味の中年男が転がるのみであった。




