第26話 混沌へのプレリュード
「しかしだな……今更も今更なんだが現実的に考えて俺が中東に潜入するなんて不可能じゃねえか? 俺はビザはおろかパスポートも持ってねえぞ。他にもマラリアや性病の予防接種とか受けときたいし。あと飛行機だけはパスな。あんな火薬庫の上空、旅客機に乗って移動なんてゴメンだぜ。それら考えたら1週間でタイヘーン奪還なんてどう考えても不可能だろ。24時間ドラマでもムリだと思うぜ」
「その程度はハカセにだって分かっている。なに、お前一人にやらせようとは思ってはいない。この困難極まるミッションには我がエデン諜報部の協力が不可欠だ」
「ああ、そういやここにはそういう専門的な部所があったよな。てゆうか、それって全部そいつらの仕事じゃね? パイロットの俺が手ずからやらなきゃダメか?」
「すまんがダメだ。この一件は諜報部でもごく一部にしか明かすことができんうえ、タイヘーンを奪還する作戦上、パイロットである荒死郎も不可欠なのだ」
「なんか上手いこと丸め込まれてる気もするが……じゃあ仕方ねえ。でも諜報部の協力仰ぐってことは諜報員と組まされるんだろうな。やっぱりスパイマンか?」
「そうしたいのはやまやまなのだが……さすがに今回の任務はスパイマンには荷が重すぎる。今回に限り、諜報部の切り札とも言えるエースに出張ってもらうつもりだ」
「なんかその前フリからして嫌な予感しかしないんだが……まあスパイマンよりヤバそうな奴もいねえだろ。アイツが出てこねえだけ、今回はよしとしとくか。で、そのエースってのとはどうやってコンタクト取るんだ?」
「それも心配無用。彼ならもうすでに近くにいるはず。真の諜報員とはそういうものだ」
ハカセはおもむろに両手を口に添えて大声で諜報員の名を呼んだ。
「アントンマン! アントンマーン!」
バシュー!!
ハカセが叫ぶと同時にどこからか大量のスモークが吹き出し、同時に妙なテンションのBGMが流れる。
『ファイッ! ファイッ! ファイッ! ファイッ!』
BGMのイントロが終了したあたりで突如、巨大な人影がスモークの向こうから現れた。
「オラーッ!! 俺はいつ、誰の呼び出しでも受ける!」
そのアゴの長い大男はアメコミヒーローのようなスーツに身を包み、やたら高いテンションで入場。二人のもとに歩を進める。
「コノヤローッ!」
バチコーン!!
その大男、アントンマンはいきなり強烈な張り手を繰り出し、まともに食らったヤスオは数メートル吹っ飛ばされた。




