第22話 禁断の名を呼ぶ時
「マルヌキの女だ? で? そのヌキ専のおばさんがこんなところに一体何の用なんだ?」
「ヌキ専ではありませんから。マルヌキですから。そこらへん間違えないでください。実は本日未明に匿名のタレコミがありまして、なんでもここのスーパーロボットが売りに出されて不正に資金が流用されているとのことなので調査に参りました。よろしいわね? 道段クン」
村貫の弁にエリザベスがたまらず割って入る。
「タイヘーンが売りに出されたですってえ!? ちょっと、それマジなの!? 一体どういうことよ! マルキドサドのおばさん!」
「マルキドサドではありませんから。マルヌキって言ってるでしょ。それを調べるのが私の仕事です。詳細は道段クンに聞けばすぐに判明します」
村貫とエリザベスがハカセに厳しい視線を向ける。
「ちょっと待ってくれアツ子ちゃん。いきなりアポ無しでやってきてそんな根も葉もないこと言われても困るよ。こっちにも色々事情ってもんがあるんだから。だいたいそんな匿名のタレコミとか出どころ不明の情報に天下の抜き打ち査察班が振り回されるとは嘆かわしい。エースの名に傷がつく前に一度帰って情報をきちんと精査した方がいいよ。悪いことは言わないから」
「いえ、アポなど取ってたら抜き打ちになりませんから。それにタレコミは出どころ不明でも、なんでも海外のテレビ番組にここのロボットが売りに出されている映像が流されてたらしいので精査などは不要かと。ただ単にロボットと資金の使途を調べるだけですのでお手間はとらせません。あと私がエース云々という話は特にお気になさらずとも結構です」
「さすがマルヌキの女だな。オッサンの言い訳なんかまるで聞く耳持たねえって感じだ。おいオッサン、こりゃ早いとこ観念した方が傷が浅くて済むんじゃねえか?」
ヤスオのアドバイスにもハカセが耳を貸す様子はない。
「アツ子ちゃん、そうピリピリしないで。そんなんじゃ早く老けるよ。まあ〜確かに対外的なポーズとして海外のバラエティとかに取材させたのは事実だけどああいうのはだいたいヤラセなんだよ? タイヘーンを売り飛ばすようなテレビ的演出とかあったのかも知んないけど、そんなバカなことは天地神明に誓ってないから。そこまでするほどハカセもさすがにミーハーじゃないから。万が一そんなことでもあろうものならこのハカセ、切腹してご覧に入れる!」
「お前なに無駄にハードル上げまくって背水の陣まで敷いてんだよ。言い逃れもここまで振り切ってると逆に潔ささえ感じるわー」
「なら話は早いわね。ではそのロボットをさっさと見せて頂戴。ついでに不正な資金が存在しないか帳簿もチェックさせていただきます」
「いや、だからそれは今はちょっと都合が悪いんだって! 確かにテレビ的演出だったんだけど、タイヘーンをレストアに出したのは事実なんだ。ここ最近連戦であちこちガタがきてたからオーバーホールしたいな〜って思ってた矢先にレストアバラエティ番組が取材に来たんで渡りに船で修理を依頼したんだよ。そんでもって向こうもロボットのレストア映像撮りたいとか言ってきたから演出としてタイヘーンを売り飛ばしたような構成でいこうって話になったんだ。だから今ここにタイヘーンはないんだ。ほ〜ら、ものすごく筋が通ってるでしょ?」
「筋が通ってるっていうか、叩いて延ばして無理やり通したって感じだけどな。なんか隠蔽すればするほどドツボに嵌っていってるような気がするのは俺だけか?」
「そうですか。では百万歩くらい譲ってそういうことにしましょう。ではそのロボットの修理が終わって戻ってくるのはいつ頃なのでしょうか?」
「えーっと……半年くらいかな? いや、1年くらいかかるって言ってたような気もするなあ。不具合が見つかれば3年くらいかかるとも言ってたような気もする」
「お話になりませんね。1週間差し上げます。1週間後、まだこの基地にロボットがないようなら班に諮ってこの組織の活動を一時凍結させていただきます」
村貫の容赦のない物言いにヤスオが食って掛かる。
「なんだと!? たったの1週間しか待てねえってのか! なんの権限があってそんなマネができるっていうんだ! オッサンがここまで見苦しく言い訳してんだからもうちょっとお目こぼししてくれたっていいだろうがよ! ムラキの女!」
「ムラキではありませんから! 勝手に略さないで下さい! 私の名前はム・ラ・ヌ・キ! 通称マルヌキですから! ヌキ専でもマルキドサドでも別にいいですけど、その略だけはやめて下さい! てゆうかアンタらわざと間違えてるでしょ! いい加減にしないとマジでキレますよ!」




