第17話 咲き誇る薔薇のように
「冗談だろ? いくらお前が後先考えないとはいっても、そんなに口は軽くないよな? スーパーロボットのパイロットって、大体そういうのは対外的には内緒にしておくもんだろ」
「いや? 特に内緒にしておけとか言われた覚えもないからあっちこっちにバラしちまったぞ。飲食店ではタダにしてもらうかもと思って言ってみたがまあそんなうまい話はないわな。モテると思って女生徒たちにも言ってみたけどまったく信用されないどころか逆に引かれた時にはさすがにヘコんだわー」
「荒死郎……ハカセはとても悲しいぞ。モテたいだけでそんな重要な秘密をバラしてしまうとは。内緒にしてなきゃありがたみもクソもないじゃないか」
「まあそう言うなって。バラしても信じる奴が一人もいねえんじゃ内緒にしてるのと大差ねえだろ」
「いや、そういう問題ではない。てゆうか、ここに信じてる頭のイタい女が一人いるではないか。少なくともこの女は当たり前のようにタイヘーンを探してるっぽいぞ」
二人がエリザベスをまったく無視するので当の本人はさすがに機嫌が悪くなる。
「ちょっと! なに私を無視して二人だけの世界に入り込んでんのよ! まあ? 見栄張っておきながらカノジョなんていない事実を突き止められちゃった気まずさは分からなくもないけど。それよりここってタイヘーンの基地なんでしょ? もったいぶって隠してないで見せなさいよ。いいじゃないの。減るもんじゃなし」
エリザベスの要求に口ごもるヤスオ。
「ああー、うー、いや、そうやすやすと見せられるわけねえだろ。曲がりなりにもスーパーロボットだぞ。見せてくださいって言われて無関係な一般ピーポーに見せられるような……安いシロモンじゃ……多分……ねえはずだと……俺は個人的に思う……」
「なんか奥歯に物でも挟まったような物言いね。まあアンタの個人的な見解はいいわ。アンタが馬乗りになってるその変態おっさんがここの責任者兼タイヘーンの開発者っぽいからそっちに聞くわ」
エリザベスの勝手な言い分にヤスオに跨がられたままハカセは中指をおっ立てつつ毅然と首を振る。
「ふざけるなこの売女。ここをどこだと思っている。人類最後の砦にして最大拠点でもあるエデン司令部だぞ。貴様のような頭のイカれたツインテール女がいきなり乗り込んできて人類最終絶対防衛兵器、タイヘーンスリーを見せてくれなど世間知らずも甚だしい。目の前に札束積まれようが土下座して頼まれようがスカートたくし上げられようが断固お断りだ。悪いことは言わんからさっさと家に帰って親の言うこと聞いて大人しく勉強するところから始めたまえ」
ハカセの態度にヤスオが馬乗りになったまま感心する。
「なかなかいい事言うじゃねえかよオッサン。あまりにも正論すぎてほんとにオッサンなのかと一瞬疑ったくらいだぞ。ただ願わくばその態度をアドベンチャーチャンネルに対しても貫いて欲しかったわー」
「なによアンタら二人して。そんなに私にタイヘーン見られると都合悪いわけ? ならいいわよ。こっちにも考えあるから。ここやタイヘーンの存在とか荒死郎がパイロットだとかみんな言いふらしてやるから。ついでにアンタら二人が薔薇族って事実も合成写真付きでバラまいてやるから」
言いながらスマホを取り出し二人を撮影しはじめるエリザベス。
「ちょっとまってくれ。荒死郎はともかくこのハカセには社会的な立場や体面というものがあるんだ。デマにしてもそんな恥ずかしいデタラメを吹聴するのだけはカンベンしてくれ。キミがその高飛車な態度をもう少し改めるというならハカセもちょっとは前向きに考えてやらんでもないから」
「ずいぶんあっさり譲歩したなオイ。だいたい前向きに考える、っつっても、その肝心のタイヘーンは……ゲフンゲフン! そ、そういや、なんだってお前はそんなにタイヘーンが見たいんだよ。ネットや週刊誌に写真とか結構掲載されてるだろ」
「そうね。別にただ見物しに来たってわけでもないのよ? ここに来たのは、荒死郎に代わって私がタイヘーンのパイロットになってあげようと思ってね」




