第16話 暴かれた機密
「ああ、いたいた。こんなところにいたのね。でもここって、やたらだだっ広いのになんでほとんど人がいないの?」
その声の主、エリザベスが遠慮なくヤスオたちのいる司令部に上がり込んでいた。
「なんだよ。エリザベスじゃねえか。お前、なんだってこんなとこにいんの? たこ焼きバイトはどうしたんだ?」
ハカセに馬乗りになったままヤスオが疑問を呈す。ハカセも事態がよく飲み込めない。
「なんだ? このパツキンツインテールの風俗嬢は。まさかとは思うがお前、学生の身でありながらイメクラ通ってわざわざ高校生プレイなんかやってたのか?」
「どういう深読みだよ! 確かにありえねえ髪型してて制服着てる割にはちょっとケバくてお水っぽいけど、これでもいちおう現役の学生だ。俺のクラスメートの留学生で風俗嬢じゃねえから。いや、もしかすると風俗バイトもやってるかもしれんけど」
「そうなのか? しかしその留学生の女生徒がなんでこんなところにいるんだ? ハカセはてっきりお前が同伴でもしたのか踏み倒した料金を取り立てに追いかけてきたのかと思ったが」
「そんなわけねえだろ。勝手に入ってきたんだよ。なんでこんなところにいるのか、俺の方が聞きてえわ。いや、たこ焼き代を踏み倒した覚えはあるんだが」
ハカセとヤスオがそんなやりとりをしているのも構わずエリザベスは勝手に話を進める。
「ここってあのタイヘーンの基地なのよね? さっきからそこら辺ぐるっと回ってみたけどそれらしい影も形も見当たらなかったんだけど。どっかに隠してんの?」
「いやそれよりもなんでお前がこんなとこにいんだよ? ここって別にそれらしいセキュリティとかもねえけどいちおう関係者以外立ち入り禁止なんだけど」
「カタイこと言わないの。たまたまよ、たまたま。アンタと付き合ってるっていう物好きな女の顔でも拝んでやろうと思って後つけてみたらここに入ってるとこに偶然行き合わせて、ここがアンタの所属する基地だとなんとなく分かったからついでにタイヘーンでも見せてもらおうと思って入ったんだけど全然見つかんなくって、誰もいないから仕方なくアンタに声かけたってだけの話よ」
「……色々ツッコみたいところはあるんだが、悪いがこっちはいまそれどこじゃねんだわ。立て込んでるから今日のとこは引き取ってくんねえかな」
ヤスオの言い分も構わずエリザベスは腰に手を当て、自信満々の笑みを浮かべる。
「あら、なぁーにぃ? 女がいるみたいな見得を切っといて、ただのハッタリだったの? いや、私は最初からそうじゃないかと思ってたわよ? でもただの印象で決め付けるのも悪いと思ってあげてたんだけど、やっぱりただのハッタリだったわけ? それともまさかいまアンタが馬乗りになってるそのオッサンがアンタのカノジョとか言うんじゃないでしょうね!? オーッホッホッホッホ!」
鬼の首でも取ったように高笑いするエリザベス。
「荒死郎、お前の気持ちも分からなくもないが、あまり痛々しい見栄を張るもんじゃない。カノジョがいないならいないとはっきり言えばいいんだ。お陰でお前はともかくハカセまでがあらぬ疑いをかけられてしまったではないか」
「そんなわけねえだろ! 一体どういう文脈でそういう解釈になるんだよ! それに俺は見栄張ったわけじゃねえ。適当にごまかしただけだからな! そこらへん間違えるな」
「分かった分かった。それよりこの女はなんでお前がタイヘーンのパイロットだとかこの基地の存在やエデンのことでも知ってるっぽい口ぶりなんだ? まさかとは思うが、このいかにもスキャンダル好きそうな女にペラペラ喋ったんじゃあるまいな?」
「いや、この女に限らず、ほうぼうで言ってるけどな。まあ、まともに信じる奴なんて一人としていねえのが俺としては歯がゆい限りだが」




