第15話 荒んだねえ……
「なんということだ。あれはどう見ても中東あたりを拠点に世界でテロ活動でもしてそうなちょっと説明し辛い組織っぽいではないか。よりにもよってあんな危険な連中の手にタイヘーンが渡ってしまったのか」
結末は知っているのだが、まるで初めて番組を見たようなリアクションをとるハカセ。
「というか、モノホンのスーパーロボットなんぞを欲しがる連中なんて大体ロクなもんじゃなさそうなのは容易に想像つくと思うけどな。お前、そんなことも考えずにタイヘーン売り飛ばしちまったのかよ」
「いや、さすがにハカセだってそこまで楽観してない。最悪、エデンで買い戻せばなんとかなると思ってたんだ。ほら、この番組って、売り飛ばした本人がまた買い戻すっていうサプライズパターンが結構あるだろ」
「なるほどな。そんで買い戻す機会を窺ってはいたものの、いろいろな意味でヤバげな組織に先を越されちまったと」
「ハカセ一生の不覚。光の速度でネットの広告に反応したつもりだったが、さすがに海外となるとタッチの差で間に合わなかった」
突如、ヤスオはハカセの襟首掴んで大外刈り気味に床に押し倒すとそのままマウントポジションを取る。
「テメェーッ!! さっきから言い訳ばっか並べてるだけじゃねえかよ! もう少し建設的な解決方法とか出ねえのか! だいたい、こんな案件抱えて俺一人呼び出して一体どうして欲しいんだ!? 慰めて欲しいのか!? 励まして欲しいのか!? 話だけでも聞いてて欲しいのか!? それぐらいならできなくもないが、まさかとは思うが、俺にあの組織相手に奪還作戦でもやってくれとか無理難題でも押し付けるつもりじゃねえだろうあ!?」
もはやヤスオの両の目には殺意が宿っている事実をハカセは知ってか知らずかなおも見苦しく言い訳を続ける。
「まあそう興奮するな。少し落ち着け。話せば分かる。奪還作戦なんてそんな大袈裟に考えなくていい。鴨葱議員やありすくんたちに事の次第がバレるより先にちょっとお前には中東旅行にでも気軽に行ってもらったついでにちょちょいとあの組織のアジトに潜り込んで乗り慣れたタイヘーンに乗って帰ってくるだけのすごく簡単なミッションをやってもらおっかな〜程度のもんだからそう難しく考える必要なんかないんだ。天才エースパイロットのお前を見込んで白羽の矢を立てたのが分からんのか。キミならできる!」
ハカセの言い分にヤスオは両手を握りしめる。もうハカセの息の音が止まるまで顔面を殴打するのは時間の問題であった。が、ヤスオが両の拳を振り上げた刹那、それを制止するかのように声が響いた。
「ちょっとー、ここ、誰もいないのー?」




