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「なあトモコ、本当にこれからどうする?」
ある晩、俺たちはいつも通り晩御飯と入浴を終えて自宅の居間で寝る前のお茶を楽しみながら2人でゆったりと過ごしていた。
「これからって?」
「だってもうトモコは元気になっただろ?この森でずっと暮らしていくのも良いけど、弱っちいトモコは危なくて1人で出歩けないからな。頑張って修行するか、町に行って暮らしていくかを考えた方が良いんじゃないかなって思ってさ。」
「う~ん、そっかぁ。ルイはどうしたら良いと思う?」
「いや、俺はさ、トモコ元気になったし、女の子だし、このまま森で一緒に・・・ってのも悪くないんじゃないかと思うよ。ちゃんと1人で森を歩ける程度には直ぐに鍛えてもあげるしさ。」
「それって、私をお嫁さんにしてくれるってこと?」
少し驚いた顔で、でも決して嫌そうな感じではなくトモコはこちらをマジマジと見る。
「う・・・うん。前も言ったけど、俺が森の外に出たのは嫁さんを探すためなんだよな。トモコは何だかんだ一番仲いいし(というか唯一交流がある人間)、女の子だし、嫌じゃなければどうかな~って・・・」
我ながら良い考えだと思う。
お互い家族を亡くした孤独の身だし、お互い同じ地下牢にいたことあるし。
「う~ダメ。ダメダメダメ。」
「え?」
「ルイは本当に分かってないよ。女の子はね、こんな茶飲み話のついでにプロポーズとかないわ~。」
「ええ?嫌なの?俺のこと嫌い?」
「そんなの嫌いな訳ないでしょ!あんなところから連れ出してくれて、何から何まで面倒見てもらって、嫌いな訳ないよ。でも、女の子には憧れってあるのよ。」
う~ん、全く持って言っていることが分からない。
「まあ、ルイはこんな森の奥で世間知らずに生きてきたからしょうがないとは思うけど、結婚って言うのはそんな簡単に近くにいた女の子としちゃえばいいってもんじゃないのよ。私たちの場合お互いの家族のことは考えなくてもいいけど、相性とか、価値観とか、ずっと長く添い遂げるためには確認しなきゃいけないことが沢山あるの。私は王女だったから政略結婚で他所の国の王子か国の貴族の誰かのところに嫁ぐものだと思っていたけど、自由の身になったんだからちゃんと好きな人とロマンチックに結婚したいの!」
一気にまくしたてるトモコの剣幕に俺はポカンとするしかなかった。
どうも俺は結婚というものを簡単に考え過ぎていたらしい。
結婚というのは男と女が番となって子をなし育てていくことを決めることだと習っていた。
森の獣たちだってそんなに複雑な『ろまんちっく』とか色々考えているとは思えない。
基本的に強い雄が沢山の雌に囲まれているか、女王が沢山の雄に囲まれているかが多い。
強い肉食獣になると1対1の番の場合もそれなりにはあるらしいが、より強い雄が挑んで雌を略奪することも稀にある。
『そんなもんじゃないの?』
ということを言ったら物凄く怒られた。
その後も夜が更けるまでコンコンと説教というか『結婚とは・・・』というのを聞かされ続けて、俺はばあちゃんの遺言の実行がこんなにも険しい道のりなのかと目の前が暗くなった。
アッテ家家訓
『完全個室マイスペースは存在そのものを隠すこと。見つかったら面倒は避けられないのだから。』