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『まつろわぬ民』の嫁探し奮戦記  作者: 焚火カレー
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 それからトモコは一気に語りだした。


 余程孤独だったようで、話の仕方も分かりづらかったのだが、溜まりに溜まった胸の内を吐き出すように次から次へと衝撃的な話が語られる。


 まず、俺のじいちゃんとばあちゃんについてはどうやらこの国の英雄的存在だったらしい。


 じいちゃんは軍隊において切り込み隊長的な存在だったらしく、自ら先陣を切って敵を粉砕する姿は兵士達の士気を向上させ、多くの戦いを勝利に導いたのだとか。


 ばあちゃんは優秀な魔術師で、戦況を左右する兵站を支えるのに絶大な貢献をしたのみならず、敵の魔法攻撃から味方を守り、意表を突いた戦術級魔術で戦局をひっくり返したことも多く、じいちゃんに負けない位の武勇伝の数々が残されているらしい。


 王国はおろか、大陸中で知らないものはいないのではないかと言われるほどの有名人なんだとか。


 俺からすれば鬼のように強いけど優しいじいちゃんとばあちゃんの知らなかった一面に驚きと、トモコから伝わる素直な憧れに誇らしい気持ちになった。


 しかし、それよりも色々と聞き捨てならなかったのはトモコの身の上だ。


 「私、本当はこのお城の王女だったの。お父様、お母様、お兄様、お姉様に沢山の使用人に凄く大事にされてずっと幸せだった。いつかお嫁に行く時までずっと続くものだと思っていたわ。」


 トモコから語られる熱のこもった話を、俺はただ聞くことしかできなかった。


 「でも、あいつが裏切ったのよ。宰相のオロチ・・・皆を毒で殺して私をここに閉じ込めたの。」


 どうやら俺をここへ閉じ込めた男がそのオロチらしい、元々王様の家来だったのに裏切ってトモコ以外の王様に連なる人たちを次々と殺したらしい。


 あっという間に王族に加えて血のつながる貴族やオロチに対立する派閥の有力者に至るまで次々に病という形で亡くなっていった。


 医者に流行り病と言われて対策を色々とうってきたし、神への祈りも魔法薬もついには役に立たずに皆帰らぬ人となっていった。


 それもそのはず、治すはずの医者達は皆オロチに逆らえない状態だったそうだ。


 何故トモコが生かされた上にこんな話を知っているかというと、たまにこの地下牢に降りて来て本人が嬉々として語り、トモコが悔し涙を流すところを見て悦に入っているのだという。


 マジでクズだな。


 家族の後を追おうとしたこともあったらしいが、やはり自ら命を絶つのは中々踏ん切りがつかなかったらしい。


 神の教えに背くのだそうだ。


 因みにここまで理解するのに丸2日位かかった。


 何しろ俺ははっきり言って世間知らずだ。


 物心ついたころから祖父母と森の中で引き籠って自給自足生活と修行しかしたことがなかったからな。


 たまに聞かせてくれる武勇伝やおとぎ話の中でしか王様とか貴族とか知らないんだ。


 だから今も正直良く分からない。


 何で俺が人助けをしたのに牢屋なんかに入れられているのか?


 王様というのがそんな聞くだけでも悪行だと思えることをしてまでなりたいものなのか?


 正直ピンとこない。


 ただ、トモコは教えてくれた。


 俺の身の上を話した時に、何故俺がここに入ることになったのかを。


 それは『無礼』だったからだろうと。


 これまた良く分からないことだったが、どうやら目上の人(少なくともオロチという王は自分が至上だと思っている)に対しては立ち居振る舞いも言葉遣いもそれ相応のものが求められるらしい。


 試しにトモコに実演してもらった喋り方は『敬語』というらしいんだが、聞いていて背中が痒くなった。


 とてもじゃないけど今更そんな話し方を覚える気にはならない。


 まあでも、森の動物でも群れには必ずボスがいたことを考えれば分からないでもない。


 ただ、あいつが俺のボスと思えるかと言うと、それはまた別の話だけどな。


 今思い出しても腹が立つ。


 迷い込んで来た女の子2人は可愛かった。


 ばあちゃんの遺言が『嫁を探せ』というものだったから、あわよくばなんて思って親切に森を抜けて自宅(まさかこんな大きな城が自宅だなんて思わなかったけど)まで送って行ったんだ。


 2人は俺のことを命の恩人だと言って非常に良くしてくれた。


 道中に立ち寄った町や村での常識を教えてくれたり、食べたことのない料理を食べさせてくれたり、どんな質問にも粘り強く答えてくれた。


 もちろん、礼儀とやらをとやかく言われることもなかった。


 まあ、今にして思えば本来は王様の娘ってことなら相応の礼儀をもって接しないと駄目だったんだろうけど、世間知らずということもあって多めに見てくれていたんだろう。


 父親が是非お礼を言いたいと言うから、同じように軽い気持ちで会いに行ったのだが、正直全くお礼を言われている気がしなかった。


 「余がマヤト王国国王である。直答を許す、この度は我が娘ユイとその侍従を『魔の森』より無事に連れ帰ったとのこと、誠に祝着至極である。褒美を取らすゆえ望みを言うてみい。」


 なんて言われてお礼を言われるって分かれというのが無理ってもんだろう?


 お礼って言うのは「ありがとう。」って言うもんじゃないのか?


 まあ、とにかく何を言っているのか良く分からんかったけど、ご褒美をくれるって言うから嫁探しを手伝って欲しいって言ったんだ。


 そしたら大笑いされるから何か腹が立ってさ、『やっぱりいいや、あんたに探してもらったんじゃ碌なのが見つからなそうだ。』って言ったらあれよあれよという間に牢屋の中って訳だ。


 トモコに解説してもらって何となく行き違いとか含めて理解は出来たけど、今でも自分が悪かったとは思わないな。


 この話をしたらトモコは大喜びで、何度も何度も話をせがまれたよ。


 お互い顔も見えないけど、俺達は暗い地下牢の別々の牢でもすっかり仲良くなった。


 なので、ずっと悩んでいたけど、俺はある決断をしてトモコに話を持ち掛けた。

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