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「あなた、いつまでいるの?」
「!?」
か細いが確かに声が聞こえた。
子供のころから森の中で狩りをして暮らしてきた俺の耳は信頼できる。
ただ、この牢に入れられた時から生き物の気配を全く感じなかったので意表を突かれた。
「ねえ、聞こえないの?」
「聞こえたよ。まさか他に人がいるとは思わなかったんで驚いたんだ。」
「フフフ、幽霊に話しかけられたと思った?でも、私なんて幽霊みたいなものよ。」
「変なこと言うやつだな。それに『いつまでいる』ってどういう意味だ?」
「ここに来る人は私以外直ぐにいなくなっちゃうの。」
どうやらここに入るのは死刑囚ばかりなので、来てもそんなに経たないで連れて行かれてしまうらしい。
彼女はもう相当長いことここに入っているらしく、殆どの時間を独りで過ごす内に新しく入ってくる人がいると話をせがんできたのだが、せっかくの楽しい日々も直ぐに終わりが来るのであまり入れ込まないようにしているんだそうだ。
それでも、孤独を紛らわせたいので心の準備をしながらってことで何時までいるのかを聞くことにしているんだそうだ。
「俺はあんまり長いこと居たくないけどな。飯は不味いし、暗いし、臭いしさ。でも、俺は殺されるつもりはないぜ?」
「え?じゃあ、あなたは何でこんなところに入ってきたの?死刑囚じゃないの?」
「ん~俺も良く分からないんだけどさ。俺が森にある家で1人で暮らしていたら2人の女が迷い込んできたんだよ。沢山の護衛を引き連れて俺のじいちゃんばあちゃんを探しに来たらしいんだけど、来る時に護衛は全滅、その上じいちゃんばあちゃんは既に他界していたもんだから落ち込んじゃってね。可哀想だし、俺もばあちゃんの遺言で嫁を探しに人里に出ようとしていたところだからって家まで送り届けた訳。」
「うんうん、それでそれで?」
「まあ、俺はじいちゃんとばあちゃんと森の中で3人暮らしだったもんだから色々町やら店やらが珍しくてさ。すっかり浮かれて楽しんでたわけよ。」
「うんうん。」
「見たこともないでっかいお城で食べたこともないご馳走を食べて、なんだかエッケンとか言って女の子のおやじさんに会いに行って暫く話をしていたら急に皆怒り出して、あれよあれよという間にここに来た訳。」
「う~ん、なんだか分かったような分からなかったような・・・」
「そりゃあ話している俺が分からんのだから仕方ないわな。」
「ねえねえ、時間はあるんだからもっと詳しく話してよ。」
「ん~正直さっさと家に帰ろうかと思ってたんだけど・・・」
「そんなこと出来る訳ないでしょ。そんなことより、私ずっとここに1人だから寂しいのよ。お願い、もっと話を聞かせて。」
実は俺は簡単に家に帰ることが出来る訳だけど、ある事情から他人にその理由を話すことはできない。
あまりにもその声が切迫感と悲壮感でいっぱいだったので、俺は言うことを聞くことにした。
「分かったよ。俺はアッテ=ルイ、17歳だ。お前は?」
「私はトモコよ。年は・・・よく分からないわ。ここに入ったのが8歳だったから・・・どれだけ経ったんだろう・・・ってちょっと待って。アッテ=ルイ?もしかしてあなたの祖父母ってアッテ=モレ様とアッテ=マドカ様?」
どうやらトモコという名の少女はかなり幼い頃から数えられないくらい長い間ここにいるらしい。
なんかとても可哀想に思えてきた。
しかし、それよりも気になるのは、そんな俺に負けず劣らず世間知らずなはずのトモコが俺のじいちゃんとばあちゃん名前を知っていることだ。
「なんでトモコが俺のじいちゃんとばあちゃんの名前を知ってるんだ?それに、そんな小さな女の子が何でこんなところに閉じ込められてるんだ?」
お互い知りたいことが溢れ出して暫くは収まりがつかなかったが、それから時間をかけてお互いに少しずつ情報交換をすることでようやく落ち着いてきた。