私、ヒロインじゃないんですか!?
こういうの、一回書いてみたかったんですよ……
完成度低くてすみません<(_ _)>
「私……転生していますわ。」
それに気がついたのは、アリアナ・グランディス────リアが、5歳の誕生日を迎えた日の事でした。
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前世の私はブラック企業に務める20代のOLだった。あの頃は、毎日3時間の残業は当たり前で、上司の機嫌が悪くて仕事を押し付けられた時なんかは、1週間ずっと徹夜なんてことも当たり前だったわ。
そんな地獄の日々を送っていた私だけど、唯一の幸せは、乙女ゲームである「everlasting love」だった。エバラブという愛称でも親しまれるこのゲームは、正直な所、近世のヨーロッパを舞台にした乙女ゲームとしては特出したところの無い超超定番のストーリーなの。
主人公は平民出身の美しい金髪を持つ少女「アリアナ・グランディス」。彼女は下町で貧相な暮らしをしていたんだけど、ある日先代伯爵の私生児だったことが発覚して、当時の伯爵であったリオル・グランディスの養子になった。それが彼女が13歳の時のことよ。
16歳になったアリアナは王立学園に入学し、それはまぁ沢山の問題(殆どが悪役令嬢による陰湿なイジメ)に直面しながらも、様々な攻略対象(皇太子や騎士、次期宰相、教師など)と協力しながら解決し、仲を深めていく……。
とまぁ、これが大筋のストーリーなんだけど。
わかったでしょ?このゲームがめちゃくちゃ平凡だってこと。
特に人気になるような所もあった訳でもなかったから、このゲームはもちろんの如く売れなかった。
でも私は……
「レオン様……今日もカッコイイ……」
このゲームの正規ルートのパートナーであり、悪役令嬢マリエッタ・ローバルトの婚約者であるレオンハート・カレンデュラの事が大好きだった。
私が彼に出会った場所は、家の近所の中古ショップ。
その日私は、いらなくなったCDを売りにそこを訪れていたの。
大量の在庫を渡し、店員さんからお釣りを貰って、帰る時。
ふと左に視線を向けると、そこに私のどタイプのイケメンがいたの。
500円で売られていた「everlasting love」は、そこにドアップで描かれていた彼の姿は、私の心を一瞬で虜にしたわ。
すぐさまさっきの店員を呼び出して、鼻息を荒くしながら購入したのを覚えてる。
……めちゃくちゃ変な目で見られたのは、ここだけの話ね。
それから私は毎日のように残業帰りの体に鞭打ってゲームをプレイし続けた。
少しづつ好感度の上がっていく彼を見るのが至福の時間だったの。
けれど……ある日の会社からの帰り道、私はトラックに引かれて、死んでしまった。
あと一歩でレオン様完全攻略できたのにッッッ!!!!!!
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……というようなことを先程思い出しましたアリアナでございます。
現在私は、ふかふかのベッドで寝転びながら頭を抱えておりますの。
なぜなら……
「おかしい……おかしいですわ。」
アリアナ・グランディス。本来ならこのキャラクターは平民出身で、5歳の時はまだボロボロの家で1人家事をこなしていたはずなのです。
それなのに……
「どうして私は、グランディス公爵の御令嬢なんですの?」
ゲームでは、公爵はローバルト公爵家とガイラドルテ公爵の2つのみ。グランディス家は伯爵1家だったハズです。それに5歳の時の私はまだ御令嬢では無いのですわ。
私はベッドから降り、近くのゴージャスな姿見に全身を映しました。
僅かにウェーブした金色に輝く美しい髪。
タレ目気味でパッチリとした二重の碧眼。
透き通った氷のような清らかさを感じさせる長い睫毛。
……どう見ても、ヒロイン。
ものすごく可愛らしい。尊いのです。でもそうではなくて
「……どうなってるんですの……」
キャパオーバーを迎えてしまったたのかクラりと目眩がしました。
そうして
バッターン………………
柔らかなカーペットがひいてあるとは思えない程の大きな音を立てながら、私は気絶しました。
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「アリアナ様!おめでとうございます!!」
「おめでとうございます!!相変わらずの可愛らしさで!」
「是非我が息子も結構相手の候補に入れていただけると嬉しく存じます!」
あの後。
目を覚ました私は、メイド達に気を遣われながらも大急ぎで準備をし、5歳の誕生日パーティーに出席しました。
パーティーの主役ということもあり、私は始まってからずっとこんな調子なんですの。
いくらふかふかの椅子に座っているからと言って、流石にこれは耐えられませんわ。
まだ頭の整理も着いていないですのに。
「お父様。」
私は隣で座っている父──リオル・グランディスに声を掛けました。
こちらを向いた彼の瞳は私と同じ碧眼。
月のように輝くその金髪も、私とそっくりです。
「どうした。」
素っ気ないけれど、心配してくださる声。
私の大好きなお父様の声です。
「そろそろ、お開きにできますでしょうか? 私、少々疲れてしまいました。」
背が高いため上目遣いになりながらもお父様を見つめます。
「良かろう。もう終わらせるからあとはゆっくり休め。」
そう言いながら僅かに微笑むと、お父様はおもむろに椅子から立ち上がりました。
「皆の者。本日はよく集まってくれた。我が娘、アリアナ・グランディスの誕生日パーティーは、そろそろ終幕を迎える。皆が盛大に祝ってくれたおかげで、娘は本年も快く過ごせることだろう。」
するとお父様は私に向かって手を差し出しました。
私もその手を取り立ち上がります。そして
「皆様、本日はお集まりいただき、ありがとうございました。これからもどうぞ、我が公爵家をよろしくお願い至します。」
レディーとしての役目を果たしながら、私は舞台から引き下がりました。
沢山の方々からの拍手を貰いながら、私はメイドと共に部屋へと戻りました。
「キール。」
暫くして、私は執事のキールを呼び出しました。
「なんでしょうか。お嬢様。」
優しそうに微笑みながら、彼は滑らかに礼をしました。
「突然悪いわね。実は、ひとつ頼みがあるの。……下町に住むマリエッタという少女を全員調べてきてくれるかしら。」
主モードに切り替えながら、私はそう話しました。
するとキールはニコリと笑いながら
「承知致しました。期日はいつまでに。」
と答えました。
「最短だといつくらいかしら? 」
「約1時間程でしょうか。」
……成程。ならば……
「3時間。3時間以内に、お願いね。」
私はキールにそう告げました。
「了解致しました。」
彼はそう言うと、深く一礼して部屋から出ていきました。
3時間後。
私は、キールの用意した資料を眺めながら、砂糖が沢山入った紅茶を口に含みました。
「さて。」
メイド長のアンにお願いして、部屋に誰も入れさせないようにしたことですし、早速気を取り直して整理を続けましょう。
パラパラと資料をめくると、その枚数が数十枚に及ぶことがわかりました。
「……見るのは写真だけでも十分ですわね。」
私、前世のことはハッキリと覚えているので、マリエッタの顔をちゃんと記憶しているのです。
資料にプリントされた写真を1枚1枚眺めながら素早く紙をめくっていきます。
すると……
「!……やっぱり、いましたわね。」
貧民とは思えないほどに艶のあるストレートの赤髪。
つり上がったフォレストグリーンの宝石のような瞳。
……マリエッタ・ローバルトその人が、そこに写っていたのです。
「まさか……」
嫌な予感がしました。
私にとって1番起きて欲しくないことがこの世界では実現しているのではないか。
その予感が当たっていることが、1年後に発覚してしまったのでした。
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1年後
「リア。お前に婚約が決まった。」
お父様のその言葉に、私はブルりと鳥肌がたちました。
「……お相手は、誰でしょうか。」
声を震わせながら、私はそう聞き返しました。
そして……お父様の口から、1番聞きたくなかった彼の名が発せられてしまったのです。
「レオンハート・カレンデュラ。この国の皇太子で、現在王位継承権NO.1というお方だ。」
そうして私は、無理やりにでも察することとなってしまいました。
私は……アリアナ・グランディスは、everlasting loveの悪役令嬢になってしまったことに。
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「僕はレオンハート・カレンデュラ。貴方と婚約することが出来て、とても嬉しく思うよ。」
レオン様は、ニコリとイケメンスマイルを披露しながら、私にそう話しかけてきました。
「わ、私も、レオンハート様と婚約できて、光栄でございます。」
引きつった笑顔を作りながら、私も返事を返します。
彼はそんなことに一切気が付かなかったのか、それからもにこやかに私に話しかけてきました。
まぁ、全てを当たり障りのない答えで躱したのですが。
約1時間ほどティータイムをして、その後庭園を案内したら、彼は満足したのか帰っていきました。
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クスッ。
僕は小さく笑いながら、馬車の外を眺めた。
外は少しづつ暗くなっており、僅かではあるが月の光が周囲の木々に色味をもたらしているている。
今日の彼女は、新鮮だった。
僕は皇族という身分もあり、縁談は毎日のように舞い込んでくる。
今回のように婚約まで話が進んだことも数え切れないくらいだ。
だが、どれも納得出来なかった。
相手の身分とか、そういう話ではない。
5歳、6歳くらいだと我儘で面倒くさかったり、それより年上だと下心が見え見えだったりと、とにかく皆自分のことでいっぱいいっぱいだったのだ。
だが、彼女は。
あからさまに嫌そうな表情をしながらも、自分をキチンともてなし、さらには時々素の彼女を見せてくれた。
本人は気づいていないのだろうが、庭園を散歩中、彼女が見せていた笑顔は、この世の誰よりも美しいとさえ感じるほどだった。
そして、思う。
私は、彼女に惹かれてしまっているのだろう、と。
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時は立ち、私は16歳になった。
今日までの月日、破滅エンドを迎えないように、剣の訓練や農業の勉強を密かに行ってきた。
「リア。緊張してるのかい? 」
そう言いながら手を差し出してくる彼は、初めてあったあの日からちょくちょくと公爵邸顔を見せ、いつの間にか仲良くなってしまったレオン。
「そんなことありませんわ、レオン。」
私は、その手を取って、これから過ごす王立学園を見上げる。
……ついにやってきてしまった。
ここが、乙女ゲームの舞台。
これから先、私には悪役令嬢としてのイベントが降り掛かってくるだろう。
主人公となったマリエッタや、騎士団長のマーク、さらには婚約者であるレオンまで、敵に回ってしまうかもしれない。
けど、私は何があっても死ぬ訳にはいかな────
「きゃぁぁっっ!!!!」
ドーン
「……え?」
突然私の隣に立つレオンに飛びかかった赤髪の少女は、彼に抱きついたあと、パッと離れて
「あっちゃ。いっけなーい!レオン様、お怪我はないですか?」
とわざとらしく言った。
(……え、誰?)
姿はマリエッタ。声もマリエッタ。だけど性格は
「どなたですか?」
ストレートな疑問が彼から飛び出た。
軽蔑しているかのようなそんなものすごく低い声。
チラッと隣を見ると、everlasting loveの最初のシーンの時とは違い、不快に思っているのは明らかだった。
ゲームではこの後「大丈夫ですか?お嬢さん。」
と言って彼女に手を差し伸べるのだが……
どう考えても、その展開にはならないだろう。
少しだがほっとしている自分がいた。
「えへへー!ごめんなさーい!わたし、ローバルト伯爵の娘のマリエッタって言いまーす!」
てへぺろ(´>ω∂`)☆と可愛こぶる彼女に対して、彼は虫でも見るかのような視線を向けている。
(あちゃー。これは相当ご立腹だ。でもなんでだろう。ここまで原作が改変するだなんて……あ、もしかして)
私はとある可能性を思いつき、彼女に質問を投げかけた。
「マリエッタさん。失礼ですが、everlasting loveというものを、ご存知ですか?」
ピタリ、と彼女の表情が固まった。そしてその後私をきっと睨みつけてくる。
しかし
「えー?なんですかそれー。私知らなーい。」
彼女はパッと表情を変え、んん?と小首を傾げながら、あたかも何も知らないかのように振舞いだした。
(あぁ、マリエッタも転生者なのね。)
全てに納得がいった。
つまり、この世界はヒロインと悪役令嬢が逆で、尚且つ2人とも前世でゲームをプレイしてると。
しかも彼女がレオンの第1イベントを起こしたということは、レオン狙いかもしくは逆ハーレムEND狙いだろう。
……なるほど。
「そうでしたか。それは失礼致しました。少し気になったものでして。それでは私たちはここで失礼します。」
苛立ちが納まったレオンに目配せをして、私たちはマリエッタをスルーし校舎へと入っていった。
後ろから鋭い視線を向けられているのをひしひしと感じながら。
彼の横顔を見つめながら、私は思う。
絶対に、マリエッタなんかにレオンを奪わせないと。
彼だけは、このゲームのシナリオを変えてでも守ってみせると。
そう、誓った。
そうして彼女の奮闘記は始まる……
さて、いかがでしたでしょうか?
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