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恋患いと悪い蟲  作者: 砂七布巾
1/7

其ノ一 恋患いと先生と

短くマイペースに書いていこうと思いつつも、波があるのでサクサク進んだりノロノロしたりすると思いますが、どうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m


この作品はフィクションであり砂七布巾のご都合主義で進む物語です。悪しからず。


 ――恋い焦がれる。


 ――恋しさのあまり酷く思い悩む。


 恋煩いとは、一般的なものであれば、食欲不振や不眠等を併発する程度で済む。しかも、その症状はその恋が実るか敗れるかすれば大抵はそのうち勝手に治ってしまう。


 恋煩いとはその程度のものである。但し、それは一般的なものだけの話である。では、例外的、特殊な恋煩いはどうやって治すのか?


 食欲不振、不眠症は長引けば大変厄介なものである。しかし、最も厄介なものはその根幹にある『想い』である。


 恋に焦がれ、燃えに燃え、募る想いの丈が時には狂気へと変わる。それでも『想い』は際限無く膨れ上がり、そして独りでに動き出す。『想い』は自らの形をもち、相手を求める。


 可愛さ余って憎さが百倍する。


 食べちゃいたいくらい可愛いので食べてしまう。


 これら全ては愛の為せる技なのである。


 その歪な形を成した『想い』を取り除く事で治療を施すのだ。


 ――ここは恋煩い専門の診療所。その名を『藪診療所』と言う。





「…では、昼間寝たらよろしい。」


「え、昼間ですか…」


「そう、昼間だ。」


 先生は素っ気なく言い放つ。


 一般的な恋煩いはそのうち治るし、全然お金にならない。先生はお金の為に生きているので、お金以外の原動力は持ち合わせていない。1ミリも無い。


「眠れないのであれば起きていたらよろしい。人間はそう三日も四日も起きてはいられないのだからね」


「はあ…」


「ハイ、ツギノカタドーゾ」


 先生は光の速さで問診を終わらせた。


「え、えっ? これで終わりですか?」


 患者様は豆鉄砲を食らった鳩のようである。


「だからね。あなたは眠れないうちは起きていたらよろしい。ここは不眠症で来る所ではないのだよ、もっと大きなびょういんへ行きたまえ」


 先生は芸術的な逆ギレで患者様を追い出す。患者様の大半は『一般的な恋煩い』の為、先生の仕事も大半は患者様を追い出すだけであった。

 勿論、皆一様に大変に怒って帰られるので代金もだいたいは頂けない。(至極当たり前の事である)



 先生は細かい事が嫌いなので、当然、優しくカウンセリングしコツコツ稼ごうという考えは無い。


 常に一発ホームランしか頭に無いのである。


 だからいつまで経っても貧乏なのだ、医者なのに。


 全く駄目な医者である。


 簡単に『駄目』の一言で表すには些か足りないくらいには駄目であり、駄駄駄目くらいで丁度いいのでは無いだろうか。日本語にもerからestの様に三回変身を繰り出す悪の大魔王のような要素が必要では無いだろうか?そう、『ぴえん』や『ぱおん』の様に。と、私は心の中で悪態をく。


「さあ、早く次の患者を入れたまえ」


 先生はムスッとした声で次を促した。


「おっと、口に出ていましたか?」


 私は何食わぬ顔で先生に尋ねる。


「思っている事と話している事が時々君は逆になるからね。君、本当はそれ、ワザとやっているんじゃないのかね?」


 先生は嫌味に嫌味を返してきた。


「このヤブ医者め」と、私はまた心の中で悪態を吐いた。





 診療所は、木造の二階建てで、田舎でも都会でもない中途半端なこの街の片隅にある。住宅地を抜けた海寄りのこれまた中途半端な場所に建っている。


 決して海沿いの、ともすればお洒落な感じになる様な所ではないのがなんとも先生らしいと言えばそうなのだが。


 遠目から見れば薄っすらと廃墟の様な雰囲気がプンと匂い立ち、まるでそれはシェリー樽で熟成されたウヰスキーの様に醸し出され、近くまでやって来てしまえば、やはりそれは廃墟にしか見えない。


 先生曰く『定食屋でも無いのに外観までこだわってピカピカにする必要など断じて無い』らしい。


 辛うじて、看板はあるので、患者がそれを見て「あ、やっぱりここか」と警戒しながら入って来るのだ。


 そこを先生が餌食とする為に待ち構えている訳である。


 診療所はそのたたずまいや、先生の温かいサービスの評判から、ちまたでは悪い意味で先生は『リアルブラ◯クジャ◯ク』と呼ばれ、助手の私は『デカイ◯ノコ』と呼ばれているらしい。


 誠に不名誉である。そして私に言わせれば伏字にしたい気持ちは未だ山程あるのだ。


 正面入り口の外灯には『カスミさん』と先生が呼ぶ、別れた(・・・)奥さんの名前をつけた一匹の女郎蜘蛛が巣食う。


 なんとも悪趣味な憂さの晴らし方である。


 …と言うか、寧ろ先生が一度結婚出来たという事実が、この世に奇跡が起こるという証明になるのではないだろうかとすら思う。


 カスミさんの巣は外灯から入り口の柱へと大きく張られていて、そこには大小様々な虫達がその糸によってぐるぐる巻きにされ、彼女の餌食として備蓄されている。


「今日も大漁ですねえ」と、私はいつも彼女に声を掛ける。しかし、カスミさんは寡黙にして可憐なクモであるので、派手な装いとは裏腹に静かにこちらを見るだけだ。


 クールビューティーとは、彼女にこそ相応しい言葉である。


 本日の診療も終わり、少し時間が出来たので私は先月から滞っているお給金の催促をする事にした。


「今月ピンチ!」などと、OL(オフィスレディーの略称)の如くキャアキャア喚いても、誰もご飯を食べさせてはくれないのだ。あまつさえ、石でもぶっつけられかねない。世間は厳しく、お金は尊いものなのである。


 先生は、診察室の奥で瓶に捕らえてある何処からか採ってきた(・・・・・)であろう、見た事もない虫を眺めて「まだ時期じゃない」とか「最近妙に増えているね」などとブツブツ呟いていた。


 先生はお金の次に虫が好きなのである。


 しかし、そんな事よりも何よりも今は目下、私のお給金が先決である。私は出来るだけ優しく「せんせぇい」と声を掛けた。



「なんだね?」


「今月は未だ一回も患者さまから代金を頂けていないのですが、私のお給金の方は大丈夫なんでしょうか?」


「君が患者を逃がす分だけ給料日は遠退くと思ってくれたまえ」


 先生は素っ気なく、「なんだ、そんなことかね。」と本当にどうでも良さそうに呟くと、和を乱し一人飛び出したヤンチャな鼻毛を引っ張りながらさらに「君も少しはカスミさんを見習いたまえ」などとのたまい、「くっ」と言って引き抜いた長い鼻毛を「見ろ!おお!スバラシイ!」と私に見せた後、その鼻毛を机の引き出しにしまった。


 勢いと無関心で事を済ます気であるらしい。


「民事で裁判を起こしますよ?」と私は言い、机の引き出しから鼻毛を取り出しゴミ箱へ捨てる。


「なんだと! 私を脅す気かね! 取れるものなら取ってみろ。まあ、一銭も無いのだがねえ」と先生はキレながらも器用にゴミ箱をガサガサ漁った。


「おっ、あった」


 先生は見つけた鼻毛を大事そうに引き出しにしまい、そして鍵をかけた。


 どうしても鼻毛をコレクションしたかったらしい。


 いつか、先生が幕の内弁当を食べている時にうっかり机にこぼしたヒジキの煮物と一緒に、鼻毛を間違えて食えばいいと私は思った。


「そんな汚いコレクションは一切辞めてください、机ごと捨てますよ?」


「そうやって君が、重箱の隅を楊枝でほじくる様にいびるから、私だってストレスが溜まってしまい、抜け毛が増え、体重が減り。差し当たっては、無駄な散財に走ってしまうのだよ。金が幾らあっても足りない、ああ、足りない足りない」


「またギャンブルですか?」


「うむ」と先生は頷き「私が悪いんじゃない!君と駅前のパチンコ屋が悪いのだ!」と叫んだ。


「この依存症め。医者の不養生!心が不衛生!お前の母ちゃんでべそ!」と私も負けじと憎しみを通勤ラッシュの満員電車の如くぎゅうぎゅうに込めて叫んぶ。


「なんと喚こうが無駄だ!無いものは無いのだ。成らぬものは成らぬと知れ。それに私は、たっぷり増やしたあかつきにはボーナスを支給するつもりでいたのに。なんだその言い草は!私の優しさを分かりたまえ。しかし、そんな事も分からん奴は道連れである!清貧によって貴様のその薄汚い魂をピカピカになるまで洗いたまえ」と、先生は開き直った。


「このっ!! 人の皮を被った悪魔め!」


 さらに私は叫んだ。


 あろう事か、先生は私のお給金をドブに捨てた上に、一人だけ貧乏は悔しいからと私を道連れに今月の貧乏を過ごす気でいるらしい。


 先生は「守銭奴、守銭奴」「心が狭い、あー狭い」などとぶつぶつ呟き、さらには「増やして返すから少し金を貸してくれたまえ」とほざいた。


 その時、私の脳裏には一瞬にして、『バレない・殺人・事後処理』のキーワードが浮かび、帰ったら検索してみようと思った。が、しかし、そこから足が付く可能性が極めて高い為やっぱりやめようと思い直している間に冷静を取り戻した。


「分かりました。些か急にではありますが、本日をもちましてここを辞めさせてもらいます。」


「ほう、それは私も清々するので結構である」


「では、滞納分のお給金の代わりに、不承不承ではありますが、先生の車を頂戴して帰る事に致します。私の運転でズタズタのボロボロの鉄くずと化すであろう車も可哀想ではありますが、やむを得ない事でしょう。アーメン」


「えっ、え? ちょっと、ちょっと待って。それだけは勘弁してくれ! 頼む頼む頼む!」


 俄かに焦り出した先生を無視して、裏口に停めてある車へと私は早歩きで進む。


 背後から先生が「頼む! 頼む、やめてー!」とキャアキャア喚いている。が、勿論、情状酌量の余地は無い。


「問答無用。」と私は呟き、車の横っ腹に蹴りを入れた。バコンと車のドアが凹む。


「嫌ぁー! フィアットォー!」


 先生は自分が蹴飛ばされた様な声を上げ、謎の呪文を叫んだのだった。

初投稿で、ケータイから文章書くの結構大変なのを思い知りました。これからどんどん使い慣れて行けるようにのんびりやっていこうと思います。


後書きまで読んでくれた方(居ないかな、居るよな…居てください)ありがとうございます。楽しんでもらえたら嬉しいです。

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