第四話 いざ、『202』号室へ
土曜日。そう、土曜日である。ついにその時が来た。
今日が初日。希はレンの家を知らないので、レンに案内してもらうことになっている。
待ち合わせ時刻は、pm1時。待ち合わせ場所は学校だ。
「あぁ、遂に来てしまったよぉ……」
レンは学校に集合時間の10分前に到着した。デートでも何でもないわけだが、やはり男が女の子を待たせるのは良くない。そう思い早めに学校に着くように家を出たのだ。
「……てか、これってデート……ではないな」
女の子が自分の家に来る。普通に考えればデートだ。しかし今回は別だろう。二人は付き合っているわけでもないし、希は家事の手伝いをしに来るだけなのだから。
(普通に考えておかしいよな……。僕の彼女っていう訳でもないんだし。どうしてこうなったんだろうか……。はぁ……)
ここ最近、ため息増えた気がするなぁ、などと俯きながら考えていたレンの耳に声が聞こえた。
「今日は遅刻せずにきちんと来たのね」
「高瀬さ……ん」
どうやら希が来たようだと、俯いていた顔を上げて名前を呼んだ。少し詰まったのは希の姿に驚いてしまったためだ。私服姿の希に。
(そ、そうだよね! 土曜日なんだし、私服で来るのは当然だよね! どうして僕はそんなことに気付かなかったんだろうね!? 僕だって私服なのにね!? 心臓飛び出るかと思ったよ、可愛すぎて!)
直視できずに思わず明後日の方を向いてしまったレン。当然ながら希はそんなレンに疑問を抱く。
「どうしたの? 斎藤君」
「ご、ごめん! なんでもないよ!」
レンは、失礼だよねっと視線を希に直し、改めてその私服姿を見る。紺色のブラウスにストライプのスカート。元々、少し大人びている印象の彼女だったが、この服装がさらにそれを助長している。
レンからしたら、ハッキリ言って、
ドストライク!
「……そ、その、服……似合ってるね」
(バカヤロー! もっと言い方あっただろう!?)
心の中で自分にツッコミを入れるレン。
「そうかしら……? ふふ、ありがとう」
しかし、レンが平凡すぎると思った言葉に希は、嬉しそうに感謝を述べた。
「でも斎藤君だって……あら?」
「ど、どうしたの? この服、変かな!?」
いつも恥ずかしくないような服装を心掛けてはいるのだが、変だっただろうか? と自分の服を慌てたように見下ろすレン。
しかしそれは勘違いだ。
「い、いえ、そうじゃなくて……斎藤君って、意外とかっこいいのね」
「……え!?」
まさか希にそんなことを言われるとは思わず、驚くレン。そんなレンに構わず、希はじーっとレンの顔を見ていた。
「ほら、学校ではあなたって、身だしなみ整ってないし、寝ぐせもいつも直っていないじゃない。だからこうしてきちんとしたあなたを見るのは初めてだったけど、意外とかっこいいんだなって」
希はそこまで言うとレンの顔をじっと見るのは止めた。
「ごめんなさい。上から目線みたいになってしまって。少し驚いてしまったから」
「……いえ、あなたの方が上なので……」
希にそう言って貰えて、正直かなりテンションが上がっているレン。それもそうだ。クラスで一番、もしかしたら学年で一番可愛いかもしれない女の子にかっこいいと言われればテンションも上がるだろう。
「落ち着け、僕。落ち着くんだ」と小さな声でブツブツ言うレン。希にダサい所は見せられないのだ。
テンションが上がり調子に乗ってしまい、さっきの希の評価が変わって「やっぱダサい」なんて言われたらしばらく立ち直れないのは必至だ。
「じゃあそろそろ行きましょう。案内よろしくね」
「……はい」
なんとか落ち着くことに成功したレンは、希を先導し自らの家へと案内を開始した。
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歩くこと20分。二人は目的地に到着した。
「着いたよ。ここだ」
「へぇ……、意外と綺麗なマンションね」
「そう? 普通じゃない?」
10階建てで築20年のマンション。レンは普通のマンションだと思っていたが、希はそうでもないようだ。
「ほら、ボロボロなマンションをイメージしてたから」
いや、そうでもあるようだ。ただイメージより綺麗だっただけらしい。
「はは、まあそう思われても仕方ないね」
「ごめんなさい」
「いや、いいよ。……じゃあ行こうか」
「ええ」
10階建てということでエレベータはあるのだが、レンの家は2階なので階段を上る。
このマンションの構造は、階段が端にあり階段の反対側の端の家から○○1号室になる。例えば2階のフロアなら201号だ。つまりレンの家は、2階のフロアの奥から2番目だ。
二人はレンの家の前までやってきた。希の目には『202』という文字が見えている。
「じゃあ、入ろうか。よろしくね、高瀬さん」
「よろしく、斎藤君」
そう言葉を交わし、レンは家の扉を開ける。