2:転入生
一度思い描いたことでも、あとで見返すと「あれ、違うな」って思いますよね、アレです
「おい、元の根暗顔が真っ青で更にひでーことになってるぞ。そんなに難しかったか、今の?」
そうやって声をかけてきたのは隣の席のライムだ。
種族は植物系の魔物でアルラウネで、完全に人型をしているが肌の色は緑。乱暴なその口調からは考えつかないが、あどけなさが残る少女とと少年のどちらとも言えるような顔立ちをしており、一見では性別が判別しづらく胸の膨らみから女性と思われがちだが・・・実はどちらでもなく、両性である。
ライムはどちらも持ち合わせてはいるが、その容姿からか女性に見られることが多く、男子からはとても人気が高い。
だが本人はむしろ男性側の思考らしく、よく男のグループに属しているが、その見た目と容姿、そして種族が相まっているせいか、とてもいい匂いがして高校男児にとっては完全に毒である。
「ライ・・・答え、ズレて・・・悪い、後で、くれ・・・」
「うっわマジで?別にいいけど、後でね・・・これで赤点だったらヤバくね?」
「あぁ・・・」
うまく言葉が紡げないくらいマジでヤバい。
緩和されてる赤点ラインは、あくまで異世界人向けの最低ラインだ。現世人、つまり俺のようなこの世界出身の生徒が下回ることイコール、相当馬鹿ってことになり兼ねない上に猶予もなく夏休みの補講決定、ついでに別の恐怖が待っているだろう。
頭を抱え憔悴している俺や、テスト終わりで騒めく教室内に構うことなく試験官の先生───このクラスの担任の大前クルスから再度号令がかかる。
「あァ・・・お前らそのまま席に着いとけェ」
テスト監視官としてずっと居たがガッツリと寝ており、今は完全に寝ぼけまなこでダルそうに言い放つその姿は体育教師でもないのにサンダルとジャージ姿。
何かの教科を教えるわけでもなく、ただ担任として存在しているのは、理由の一つとして特異能力が関係している。
この先生は元異世界人であり、特殊能力を発現している。その力は、特定範囲内のスキルを全て無効化するというものだ。
さらに種族固有能力すら無効化するので、テスト中の俺が特殊能力を使えなかったように、この学校、特にこのクラスの抑止力として適正があり、まるで軍の指導者のような絶対的な立ち位置にいる。
そんなリーダーの一言で教室は静まりかえり、今からホームルームで解散と思われたが───違った。
「うっし、手前ェらテストお疲れ。赤点なんてとるヤツぁ居ねぇだろーが、補習なんかになったらアタシまで出なきゃいけねーンだからよ・・・そんなダルいことさせンなよ?」
睨まれた教室内に緊張が走る。当たり前だ。誰だってあんな制裁なんて受けたくないが・・・今回は俺がやらかしている。
俺がいなかった去年の新入生の初回テストで赤点を取ったヤツがいたらしく、その時の態度を含め、徹底的に指導をしたらしい。全治約10か月の指導を頂戴して見事留年、今は1年生をやり直しているところだそうだ。
先生は真っ青になって震える俺をチラリと見て何かを言おうとしたが、何かを思い出したようにその口元に笑みを残して閉ざした。
「あー、本題だ。本来ならもーちょい先になるはずだったが、どーしても今日がいいっつーハナシでなァ。転入生だ。おら、入れ」
え、転入生?と、クラスメイトは困惑に包まれた。
普通、この学校自体への途中編入は珍しく、俺のように2年次より特殊クラスへ編入とも違うとなると、トラブルの無いように事前に周知された上で紹介されるのが普通だ。その昔、クルス先生が着任するずっと前、周知を怠ったことにより初対面の衝突で校舎の一部が破壊されたことがある───という噂をクラスメイトに聞いたことがる。
しかし今回のように突然紹介となると、やはり噂を知っている生徒は若干身構えてしまうのは当然だろう。
引き戸が開き、そんな困惑と緊張に包まれた教室へ入ってきたのは、一言でいうと───ギャルだった。
いや、ギャルと言っていいのかわからない。服はアレンジが入っており、スカートは少し短めに男物のカーディガン。胸元にはワンポイントでピンを刺し・・・といった、トレンドかどうかはわからないが今時の女子高生のような恰好をしている。
しかし、その女子高生からぬ豊満な肢体のせいで色気が漂い、どことなく淫靡な雰囲気を醸し出しているせいでギャルっぽいのかもしれない。
サキュバスとはベクトルが違うが、負けず劣らずなその雰囲気にのまれる中、その女生徒は自己紹介を始めた。
「はい、初めまして。名を潤香と言います。以後、よろしくお願いいたします」
惑わすような容姿なのに口調が真面目という、もの凄くちぐはぐなキャラが転入してきた。