9 自分の名前がしっかりと言えない理由
「フルールは、前世の記憶が今も残っておるじゃんないかのう?」
私はその言葉に息を呑んだ。
一般的に新しく生まれるときは、魂の記憶を一度洗い流れ真っ白な状態となる。
だけど私は転生の間で、前世の記憶を持ったまま転生したいと願い、管理人はその願いを聞き入れてくれた。
ただし条件付きで。
その条件は、前世の記憶は残すけど今世の体に魂がなじめるよう、自分自身に関する記憶が徐々に消えていくという条件。
自分の名前や家族構成など自身のことをはっきりと証明する情報は消えていき、100年程立てば前世の記憶は地球の一般常識だけになっているだろうということだった。
身体に魂が馴染むほど、前世の自分の情報は消えて行く。
それが嫌なら、転生する時点で記憶を新しくしたほうがいいといわれたけど、私はそれでもかまわないと管理者に言って、転生した。
いずれ自分のことを忘れてしまったとしても、前世の記憶が何かに役立つかもしれないし・・・・
それにきっと新しい世界で新しい体に生まれ変わったとしても私は私だ。
今でもその思いは変わらない、だから後悔はしてない。
だけど、前世の記憶を持って生まれてくることは普通じゃないから、変な子だと思われてないだろうか。
気持ち悪いと思われたりしたら、どうしよう
受け入れてもらえなかったら、私は・・・・・
そんな不安が頭の中を過ぎる・・・。
私が不安になっていることに気付いたのか、イムベルさんが私を抱き上げた。
「う?」
「不安がらなくて大丈夫だよ。決して多くはないが前世の記憶を持って生まれてくる子は存在するし、記憶を持っていたとしても君がフルールであることに変わりはないのだから。もし、フルールをそのことでいじめる者がいれば私達が全力で守るから安心しなさい。」
その言葉を聞いて私はイムベルさんの服をギュッとつかんで、周りを見渡した。
皆は頷いた後、頭を撫でてくれた。
それと抱っこもしようとしてくれたけど、私はいまだイムベルさんに抱っこされた状態です。
なんでずっとイムベルさんかって?
イムベルさんが冷たい笑顔で私を抱っこしようとした人達を牽制したからかなぁ・・・・。
イムベルさんとっても美形だから冷たい笑顔でも美しいんだけど、寒いのはやだな~。
これ以上は詳しくキカナイデホシイナ。
とまぁちょっとしたことがありましたが、そのやり取りのおかげで私の不安はどこかに飛んで行っちゃいました。
「フルールよ、すまんかったなぁ、不安にさせてしまったようじゃのう。前世の記憶を持って生まれてくると魂がこの世界に馴染むまで、自分の名前や話すときにどうしてもしっかりと発音できないことがあるんじゃよ。それと体の成長もとてもゆっくりになるのう。」
「でも・・・みんにゃのにゃまえはいえりゅよ?」
「この世界に馴染んでいる存在の名前等はしっかりと言えるようになっているんじゃよ。不思議なことにの。」
ふむふむ・・・・ん?
しっかりと話せるようになったり、自分の名前が言えるようになるためには、魂がこの世界に馴染む必要がある。
この体に魂が馴染むまでおよそ100年。
その間、私はずっとこのまま?
なんでしっかりと話せないのかとか、色んな事が分かったのはいいけど悲しいことに変わりないような・・・。
私はノーネストおじいちゃんの話を聞いて頭を抱えている。
うーん、諦めて100年待つしかないかな。
はぁ・・・。
100年の間でどこまで成長できるのでしょうか・・・?
次回は「フルールの新しいおうち」についてのお話です。
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