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外伝2、真紅の紋章

 赤い髪の青年のその言葉に、化け物たちは怒り狂ったように叫ぶ。


「おのれ!!」


「貴様! 何者だ?」


 彼は吠える悪魔たちを眺めながら答えた。


「外道に名乗る名などない。それにお前たちは直ぐに死ぬことになる。聞いたところで意味はなかろう?」


 腰から剣を抜くでもなく、無造作な姿勢で悪魔たちを眺めるその男。

 それが怒りに火をつけたのか、バルジェオルの配下の悪魔たちが一斉に青年を襲った。


「馬鹿めが!」


「高位魔族であるこの俺たちに逆らって只で済むとは思うなよ!


「死ねぇえいい!」


 三体のグレーターデーモンの攻撃など歴戦の騎士でもとても受けきれない。

 しかも足元には守るべき幼子までいるのだ。

 エリーは娘の名を叫んだ。


「ミア!!」


 ミアは青年がとした約束を守ってギュッと目をつぶっている。

 そうしていれば彼が自分たちを救ってくれる気がして。

 突き出された悪魔たちの腕。

 だが──

 それは全て切り落とされ地面に転がっていた。

 同時にその傷口から炎が沸き上がり悪魔たちを焼き尽くしていく。


「ぐおっ!」


「な、何だこの炎は!!」


「うおおおおおお!」


 エリーは目を見開いた。

 ようやく剣を抜いた青年の姿。

 その時にはもう三体の悪魔を滅していた。

 紅の闘気に包まれていくその体。


「どうした、残るはお前だけだぞ?」


 そう問われて、高位魔族であるグレーターデーモン、その中でも群れを率いるロードであるバルジェオルの顔には怒りが満ちている。

 だがその顔は次第に邪悪な笑みを浮かべて言った。


「倒魔人だと。くくく、知らんのか? このバルジェオル様はお前たちの仲間を何人も殺してきた。そして魔王の名を冠したのだ」


 青年は静かにバルジェオルを眺める。


「知らんな。魔王を名乗りたければ好きしろ。ただし、これからお前が行く場所になる地獄でやることだ」


 その言葉に化け物の目が顔が血走っていく。


「貴様……この俺を本気で怒らせたようだな!」


 そう言うと、巨大な悪魔は翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。

 そして哄笑した。


「くは! くははは! 貴様が悪いのだ! 貴様もそのガキも、この国ごと消してくれるわ!!」


 バルジェオルはその右腕を天に突き上げる。

 そこから放たれる強大な魔力はバチバチと音を立てて、その掌の上に巨大な黒いエネルギー体を作り上げていく。

 先ほど聖女の結界を破壊し、町を滅茶苦茶にしたのはこの攻撃に違いない。


「消え去れぇえええいい!!」


 尊大な悪魔の顔が勝利を確信して邪悪な笑みを浮かべた。

 だが、その笑みが凍り付いたようにかたまった。

 いないのだ。

 地上にいるはずのあの赤い髪の男がいない。

 一体いつ消えたのか。

 先ほどまでは確かにいたとバルジェオルは目を見開いた。


「どこに行った? 我が術に恐れをなして、逃げおったか!」


「恐れるだと?」


 姿は見えないがあの男の声が聞こえた。

 バルジェオルは目を血走らせて周囲を見る。


「お、おのれ! どこだ!?」


「どこを探している? 俺はここだ」


 その声が聞こえてくるのは、バルジェオル死角である頭上だ。

 思わず上を見上げた、バルジェオルの目に天高く跳び剣を構えた男の姿が映る。

 凄まじいその跳躍力。

 太陽を背にこちらに向かってくるその右手には、真紅に輝く紋章が浮かび上がっていた。

 そこからは凄まじい力が放たれている。

 まるで赤き獅子のごときその雄々しい力。


「な、何だその力は!」


「さてな、お前が知る必要もあるまい。だが一つだけ言えることがある。これは貴様らのような外道を数えきれないほど倒してきた証だ」


 バルジェオルはまるで獅子を恐れる獣のように凍り付いた。。


(なんなのだこの小僧は! 一体何なのだ!? い、今は逃げねば。この俺がこんなところで死ぬわけにはいかんのだ!!)


 傲慢な顔が怒りに歪み、一時撤退を決め翼を羽ばたかせた。

 だが、その時にはもう邪悪な悪魔の体は十字に切り裂かれていた。


「倒魔流剣技、聖炎十字斬。何処へ行く? 言ったはずだぞ、お前が行くのは地獄だとな」


 静かにそう告げる

 そして、バルジェオルの体は炎に包まれて地上に落下する。


「ぐぉ! おのれぇえええ!!」


 怨嗟の声を上げて燃え尽きていくその姿。

 同時に男も地上に軽やかに着地した。

 邪悪な魔物が全て死に絶えたのを確認した後、赤い髪の青年は両手で一生懸命目を隠しているミアのもとに歩み寄る。

 化け物たちの余りの恐ろしさと、母親が心配で目を開けそうになるのをこうやってずっと我慢していたのだ。

 自分を救ってくれた男との約束を破っては、自分の前に現れたヒーローが夢のように消えてしまうのではないかと思えて。


「見ちゃだめなの……見ちゃだめなの。あの人が、きっとママを助けてくれるから」


 自分よりも母親を心配するその少女の頭に、青年はポンと手を置いた。


「よう、ちび助。よく約束を守ったな。もう大丈夫だ」


 その声を聞いて、恐る恐る目を開くミア。

 すると頭に手を置いていたはずの青年は、瓦礫の中からエリーを助け出して治療を行っている。

 エリーは何度も彼に頭を下げた。


「ありがとうございます! 本当にありがとうございます! 私の名前はエリーと申します。そしてその子はミア。どうか、貴方様のお名前を教えてくださいませ」


 まだ不安なのか彼の足にギュッとしがみつくミアを、その男はひょいと抱き上げながらエリーの答えた。


「よろしくな。俺の名はジークだ」


「ジーク様……」


 赤い髪を靡かせ、まるで獅子のように雄々しいその姿をエリーとミアは見つめていた。

ご覧頂きましてありがとうございます!

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