喧騒、静寂。
三森さんに連れて来られたのは、少し古めのアパートの一室。
角部屋のそのドアの前にはゴミが積み上げてあり、完全にドアの可動域を狭めていた。
表札には「佐倉」の文字。ここの住人の名前で間違いないだろう。
「ここよ。さっきから物音と怒鳴り声が酷くて。前から喧嘩してるみたいな声はずっと聞こえてたんだけど。」
「わかりました、三森さん。ありがとうございます。」
三森さんの家は知っているので一旦彼女を家へ帰し、俺はその部屋のドアの前に立った。
ドアの向こうからは、確かにばたばたと物音が聞こえる。
…嫌な予感がする。
こんこん
軽くドアをノックした。
「こんにちは、広田町駐在所の者です。佐倉さんご在宅ですか?」
無音。
先程までが嘘かのように、突然声も物音も消えた。
もう一度ドアを叩く。
「佐倉さん!少しお伺いしたい事があります、開けてくださいませんか!」
無音は続き、応答は無い。
でも、なんとなくドアのすぐ側で様子を伺われているのが分かった。
怒鳴ろうかと拳を作ったその時、ドアが突然開いた。
「っぐ、」
開いたドアによろめいたところを、中から1人の女性が飛び出した。
「あっ、おい!待て!!」
焦って追うが、女は思ったより足が早くない。
俺は素早くあとを追い、女を取り押さえた。
「離しなさいよ!!
あたしが何をしたってのよ!!
悪いのはぜんぶあいつなの!
離しなさいってば!離せよ!!!!」
暴れる女性をなんとか宥めようと押さえつつ、ふと先程開いたドアの方に目を向ける。
そこには、傷だらけで怯えた目をした少年が呆然と立っていた。