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第一話

 俺の名前はロイド。


 勇者をやってる。……十六歳の時から二十年間も。

 俺はよくやったと自分を誉めてやりたい。


 各国の王たちは何かあればすぐに俺を呼ぶ。魔物退治から薬草取り、迷子探しに護衛や盗賊退治までやらされた。おかげで魔王は倒せてないし、四天王すら一体も倒せてない有り様だ。


 そんな勇者という役割から見れば無意味に思える二十年間、仲間が様々な事情で入れ替わる中で必死に生きてきた。

 気づけば四十近いおっさんになっていた。

 俺が魔王を退治した暁に結婚する約束だったお姫様は四十過ぎのババアになっている。


 だが、こんな無意味な生活も今日で終わりみたいだ。


 とある宿屋の部屋には勇者パーティーの皆が集まっている。


「では、ロイドさんをパーティーから外すのに賛成の方、挙手をお願いします」


 こいつはイケメン剣士のアレン。パーティーでは俺と一緒に前衛をしている。


 豪奢な金髪に鮮やかな青い目を讃える涼しげな目元と雪のように白い肌。どこかの国の王子と言われても信じられるくらいに整った顔立ちをしている。

 性格も穏やかで、俺みたいなおっさんにも優しい良い奴だ。


 当然、モテる。行く先々で女に囲まれている。


 俺は十数年前に立ち寄った村で一度、幼女が一人カッコいいと言ってくれただけだけどアレンに嫉妬は抱いてない。

 おっさん、既に嫉妬の境地は突き抜けてるからな。


「わたしは賛成よ。というか皆賛成に決まってるわよ。そんなおっさんさっさと追い出しましょうよ」


 この偉そうな女は魔法使いのイザベラ。パーティーでは後衛で、俺とアレンの後ろから魔法での援護をしている。


 火の様に赤い髪と目をしてて、本人も得意な魔法は火属性と馬鹿の一つ覚えの様に真っ赤な女である。


 体は貧相なスットントンのくせに態度だけはでかい女だ。


 俺が気にくわないのかこないだは森で目があっただけで火の球を飛ばしてきたし、イカレ女としか言いようがない。


 森がお前のせいで焼けたらどうするつもりだったんだ。

 近くに川があったからよかったものの……一歩間違えば大惨事だったんだぞ!


 消化活動の礼を言うときに顔を背けて頬を染めながら


「あ、ありがと……」


て言われた時は可愛い奴だな、と不覚にもドキッとした。


「私も……その、賛成です」


 おずおずと意見を述べたのは僧侶のロリータちゃん。パーティーではイザベラと同じ後衛で、回復魔法で傷を治す役割だ


 白い髪に翠色の目が映える、笑顔が素敵な女の子だ。。


 まだ幼いのに教会に聖女として祭り上げられて勇者パーティーに入れられた哀れな女の子。


 けど本人はそんなことは気にした様子も見せずに、些細なことでもパーティーの役に立とうと必死だ。


 ずいぶん前、確かロリータちゃんがパーティーに入ったばかりのころだな。

 俺が洗濯当番だった時に偶然通りかかったロリータちゃんが自分がやると言ってきた時は微笑ましかった。


 健気でいい娘だ。


 この間、


「おおきくなぁれ!」


て言いながら胸をペタペタしてたのはおっさん知ってるからね。


 応援してるよ。



「アタシはどっちでもいいかしら。まあいない方がいいかしらね?」


 興味なさげに声を発したのは踊り子のソフィアさん。パーティーでは踊りで士気を高める役割をしている。


 褐色の肌に紫の髪と瞳をもつ大変ご立派な体をもつお姉さんだ。


 いや、俺よりはだいぶ年下だぞ? でも雰囲気がお姉さんだからそう呼んでもおかしくないと思っている。


 踊り子だからか年がら年中露出の多い格好をしているのが目の保養になる。


 俺との関係は可もなく不可もなくといったところ。


 ソフィアさん自身、あまり他人と馴れ合う性格じゃないから別に俺だけ避けられたりしてるわけではないはずだ。


 まあ俺個人としては彼女にはとても感謝している。

 何度も夜のオカズにさせてもらったからな。


 本当にご馳走さまでした。



「じゃあ、賛成四、反対一ということでロイドさんにはパーティーから外れてもらうことになりました」


「は? アレン! お前も賛成なのかよ!」


 誰にでも優しいこいつが賛成するとは思わなかった。


「すみません……」


「すみませんじゃ分からねーよ!」


 こいつが賛成したことは、正直ショックだ。


「ちょっと! アレンに突っかかるの止めなさいよ! あんたが悪いんだから!」


「俺が何をしたっていうんだ!」


「私の水浴びを覗いたじゃない!」


「はぁ?」


 誰がお前の残念な体を覗くかよ!


「この間、森の川で水浴びをしていたら覗いてたの、覚えてるんだから! 目も合ったわよ!」


 火球を飛ばしてきた時のことか。


 しょうがないだろ。お前が外で裸になってるのが悪い。

 それに俺はノゾキなんかせずに堂々と見ていたぞ。


「偶然だろ!」


 嘘だけど。


 女の裸とか見たことなかったから魔が差した。


 ちなみに毛は赤かったぞ。


「黙りなさい! それに普段からわたしにエッチなこと言ってるじゃない! そんな変態はいらないわよ!」


 だってお前、一々反応してくれるからおもしろいんだもん。


 イザベラは部屋の扉を勢いよく開けて出ていってしまった。


「あいつなんなんだよ……。なぁ、ロリータちゃんは反対してくれないか? 頼むよ」


 ロリータちゃんならきっと分かってくれるはず!


「すみません、おじさん。私も変わらず賛成です」


 おいおい、嘘だろ……!


「どうして!」


「その、おじさんが洗濯当番の時、わたしのパンツを嗅いでいたので、そんなことをする変態さんは……ごめんなさい!」


 Oh……。


 そいつは俺が悪いな。


 ロリータちゃん、ごめんな。


 そんなに顔を真っ赤にしちゃって。


 ただな、おっさん、女の子のパンツ見たことなかったんだ。

 だからつい魔が差しただけなんだ!


「おじさん、さようなら」


 ロリータちゃんも部屋を出ていっちゃった。


 クソッ! このままじゃこの美少女揃いのパーティーを追い出されちまう!


「ロイド」


 俺に声をかけたのはソフィアさんだ。

 ソフィアさんと目を合わせる。


 相変わらず美人だな。


「宿で夜な夜な私の名前を呼びながら一人でヤってるのはキモかったわ。丸聞こえだったわよ。じゃあね、童貞」


 グハッ!


 聞こえてたのかよ!


 ああー! これはダメだ! 死にたい!


 ソフィアさんも部屋を出ていき、残ったのはアレンだけ。


「ロイドさん、そのすみません。今までお世話になりました。ロイドさん、お元気で!」


 アレンも部屋を出ていった。


 お世話になりました、か。


 最後まで俺をたてるお人好しはお前だけだよ。

 そりゃモテるよ。


「さて、どうするか……」


 一人部屋に残った俺は考える。


 金は唸るほどある。


 だが俺はこの生き方しか知らない。


 どうすればいいか、考えても分かるはずもなかった。





 △ ▽ △


 翌朝、一睡もせずに宿屋を出た俺は街門に向かって歩いている。


 目的はないがとりあえず旅でもしようかと思ってな。


「おや? あれは……アレン達じゃねーか」


 あいつらも街を出るみたいだな。

 俺はあいつらのことが気に入っていたのか姿を見て心を刺すような痛みを感じた。


 ふむ……。


 よし、良いこと考えたぜ。


 俺はこいつらの後をついていく!

 もちろんこっそりな。


 これはこれで楽しそうだぜ!


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