序章
――レベル6の勇者。
それは、人類が保有する最高戦力。
生まれつき強靭な肉体と膨大な魔力を有する魔族といえども、彼ら彼女らの前では赤子も同然。
容易く屠られることとなる。
そのレベル6の勇者の中でも、最強と称される5人がいた。
それぞれが最も得意とする【元素魔法】に由来する称号を持つ5人だ。
【灼熱】のグラン
【氷冷】のレイリー
【雷迅】のユーコ
【疾風】のウェス
【金剛】のベディ
5人の勇者はいつからか【元素の勇者】と呼ばれ、数多の戦場を駆け巡り、
猛る焔で。
絶対の零度で。
荒ぶる雷で。
疾く嵐をもって。
人外の膂力を振るい。
数え切れないほどの魔人に対して蹂躙を尽くした。
彼らの前に敵はなく。
ただ無残な敵の躯が転がっているだけだった。
人類の砦、希望。
彼らがいれば、人類が滅びることなどありえない。
――そう、誰もが思っていた。
「……全滅? 私たち【元素の勇者】が?」
ありえない。
あってはならないはずだった。
【迅雷】の少女は、目の前の光景が信じることができず、ただ茫然とつぶやくことしかできないでいた。
なぜ?
どうして?
みんなが何も言わずに横たわっているのは……一体、どういうことなの!?
分からなかった。
答えを教えてくれるものなんて、誰も。……いや、一人だけ、いた。
「あんた、一体……何者なのよ!?」
【迅雷】の少女は問う。
これまで感じたことのない、根源からくる恐怖を押し殺しながら。
その言葉を聞いた、レベル6の勇者を蹂躙した男は、身に纏う黒衣を翻してから、ゆっくりと口を開いた。
「余は魔王。人を滅ぼすために蘇った、この世全ての頂点たる存在だ」
まるで呪詛のごとく紡がれる言葉に、少女は既に言葉を返す力もなくしていた。
怯え、震える勇者の少女を、魔王はチラリと一瞥した。
そして――
(っべー……俺、スローライフ送りたかっただけなんだけどさー、……どうしてこうなった!?)
――と、誰にも悟られることなく。
伝説の最強魔王……に転生したおっさんは、そう思ったのだった。