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半魚姫

作者: 鈴木 靖晏


 昔々、海の底にとても美しい半魚人のお姫様がいた。美しいと言ってもそれは残念ながら向こうの基準で、我々人間からしてみれば、彼女はかの人魚姫とは上下逆、つまりは上半分が魚で下半分が人間の非常にシュールな見た目をしていた訳だが、しかしながら、彼女はそんな我々でもうっとりと見とれてしまうほどの美しい脚を持っていた。

 彼女の楽しみは水面から顔を出して人間の世界を覗くことであった。そんなある日、崖から一台の馬車が海に落ちてきた。彼女は溺れていた一人の若い男を助けた。男は気絶していたが、とても美しい顔をしており、彼女は心を奪われてしまった。

 後日、彼女が助けた男は地上の国の王子で、海辺の別荘へ行くため馬車に乗っていたのだと彼女は知った。すっかり彼の虜になっていた彼女は、海岸へ行けばまた会えるかもしれないと思い立ち、水面に向かって泳いでいった。

 王子はちょうど海岸沿いを散歩していた。と、その時、海の中から一匹の半魚人が現れた。半魚人は王子の姿を認めると嬉しそうに語った。

「私はあの時あなた様をお助けした半魚姫でございます。覚えておいででしょうか」

 王子は彼女のことをわずかながら覚えていた。自分はあの時、バケモノに助けられたのだ。彼は今すぐに悲鳴を上げて逃げ出したい気持ちになった。

 だが、彼はその半魚人がとても美しい脚をしているのに気付き、いたく気に入ってしまった。彼は彼女の魚部分は嫌いだったが、また会う約束を取り交わした。

 次に会った時、王子は彼女に海から上がって来るよう言った。しかし、彼女は上半分が魚でエラ呼吸のためそれができなかった。陸で彼女の脚が見られないと知って落胆した王子は彼女に怒りをぶつけた。

 どうしようもなくなった彼女は、海の底のさらに薄暗いところに住むイカの魔女のもとを訪ねた。その魔女は非常に強力な魔法を使い、この世にできないことはないと評されるほどであったが、黒い噂が跡を絶たず、そこへは近付くなと周りの者には言われていた。

 彼女は魔女にこれまでのことを全て話し、最後にこう言った。

「お願いです、私に肺を下さい」

 魔女は、肺を得れば二度と海では暮らせないが良いか、と彼女に念を押した。彼女は承諾し、持っていた指輪と引き換えに肺を手に入れた。

 彼女が陸で生活できるようになり、王子はとても喜んだ。彼女の脚は海の中にある時よりも一層綺麗に見えた。が、今度は彼女の上半身が魚であるのが余計に気になり始めた。王子はとうとう、

「上半身も人間でないのなら嫌だ。もう会いたくない」

 と彼女に言い放った。

 彼女はいよいよ困ってしまった。しかし、イカの魔女に頼めばなんとかなるかもしれないと思い、酸素ボンベを背負って海に潜っていった。

 再び彼女は魔女の前で全てを話し、人間の上半身が欲しいと伝えた。話が終わると魔女は黙り込み、しばらく何か考えているような顔をしたので、彼女は不安になった。

「あの、人間の体を手に入れるというのはやはり難しいでしょうか」

 すると魔女は彼女に笑顔を向けた。

「いや簡単さ。誰もが振り返る美女にしてあげよう。魔法の薬があるから奥の部屋へおいで」

 さらに魔女は、彼女の一途な愛に至極感激したため、特別にお代は取らないと伝えた。彼女は泣いて喜んだ。

「ありがとうございます。これで王子様にも気に入って頂けるでしょうか」

「当たり前だよ。加えてあんたはその美しい脚を持っているじゃないか。この私の魔法をもってしても、こればっかりは真似できないね」

 一ヶ月後、王子の結婚式が執り行われた。結婚相手は絶世の美女ともっぱらの噂で、国中から見物人がやって来た。純白のドレスを身にまとった花嫁は、布の上からでも分かる見事な曲線美をしており、人々をうっとりとさせた。

 彼女はとても美しい脚をしていた。その上には、これまたとても美しく変身した魔女の体が乗っていた。




2017/10/16

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