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これが女の生きる道

作者: 宮本司

私の存在って何なのだろう。

普段はすぐそばにいても気もとめられない。都合がいい時だけ利用されて、用が

済めばまたほったらかし。

「なかったことにしよう」の一言で終わってしまう。

「私って、たったそれだけの存在?

私なりに認めてもらおうと身を削って尽くしているのに。

いつもいつも全てなかったことになんて出来ない。

全部消してしまうことなんて出来ないよ」

心の中ではそう思っても言葉には出来ない。

「お前の代わりなんていくらでもいる。『全部は消せない』と言うなら捨てるだ

けだ」と言われてしまうのが怖いから。


そんなある日、私が少し見当たらないだけで私の居場所には新しい子がいた。私

が姿を現しても無感動に「なんだ。そんなとこいたのか」と言われただけだった。

その後は、新しい子との二股状態になった。

「二股でもいい。私の方へ振り向いてくれる時が少しでもあるのなら」

そう思ってしまう私は弱いのだろうか。

でも現実は残酷だった。

私の方を向いてくれる時間は日に日に減っていった。

たまに私と目があっても、新入りのあの子を探していた。

「やっぱ、新しい方がいいよな。お前は丸くて使いにくいんだよ。

少しは尖ったところがあるくらいがちょうどいいのに」

私に視線も向けずに彼が呟いた。

「私だって最初から丸かったわけじゃない。

あなたに出会って、あなたと同じ時間を過ごして、少しづつこうなったのに。

あなたに尽くすために自分を消していってこうなったのに。

それは私の身勝手な自己満足だったの」

私は叫び出したくなった。

でも私の声が届く前に信じられないことが起こった。彼が私を友人に譲ったのだ。

友人の「二つもあるならどっちかちょうだい」という言葉だけで、彼はあっさり

と私を譲った。


新しい人との生活が始まってもしばらくは彼のことが忘れられなかった。そんな

私の気持ちが伝わったのか私が体に彼の名前を刻むことを二人目のこの人は許してくれた。

それから現在いままでずっとこの人は私をそばに置いてくれている。

でも時々姿を隠してこの人の気持ちを試してみたくなる。それはまん丸になった私の最後の尖ったところなのかもしれない。


「お母さん、何してるの?」

テーブルの下に潜り込んで何かを探している母に中学生の娘がたずねた。

「消しゴム探してるのよ。美紀も探すの手伝って」

「消しゴムってあのずーっと使ってる

小さいまん丸になったのでしょう。。

新しいの買えばいいのに。

そうだ。母の日のプレゼントに買ってあげようか」

娘が冷やかすように言った。

「もう、美紀ったら。あの消しゴムは特別なのよ」

母がテーブルの下でよつんばになったまま呟いた。

「高校生の時に同級生だったお父さんにもらったんでしょう。

しかもお父さんの名前書いてあるやつ」

「それには理由があるのよ……。」

 母の反論を遮って娘が続けた。

「何回も聞いたって。『好きな人からもらった消しゴムにその人の名前を刻んで

、使いきると幸せになれる』っておまじないでしょ?

でも願いは叶ったんじゃないの?お父さんと結婚したんだから」

「結婚は幸せのゴールじゃないのよ。

いつ『まん丸に太ったお前より新しい女

のほうがいい』って言われて捨てられるかわからないんだから」

母が女の顔をして娘を諭した。

『よつんばになってテーブルにもぐっている母に諭されもイマイチ説得力がない』と部屋を出て行こうとした娘は足元にある消しゴムを見つけた。

新品の半分以下のサイズになり、刻まれた父の名前も半分消えた消しゴムを。

娘は消しゴムを拾い上げ、テーブルの下の母に渡した。

「はい、大事な消しゴム。

どうぞお幸せに」

娘の皮肉めいたセリフを気にもとめず、母は満面の笑みを浮かべて消しゴムを受

けとった。

「ありがと。

よかった。あと15年で使いきらなきゃいけないから」

「えっ」

娘は母の言葉の意味が理解出来ず疑問の声をあげた。

その空気が伝わったのか母は少し丸くなった体でテーブルの下から這い出しながら娘に言った。

「ほら、お父さんあと15年で定年だから。退職金もらった熟年離婚して、若い男

と幸せな第二の人生過ごすのよ」


 部屋に戻った娘はペンケースから消しゴムを取り出すとさっきの母の言葉を思い出した。

『丸くなっているように見えても、少し尖ったところがあるのが大事なのかもしれない。女も消しゴムも』


 そのことに気がついた娘も少女から女になっていくのだろう。



 


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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは。 途中で何となく消しゴムの擬人化かなと感じましたが、締め方はいいですね。「尖った」の言葉もうまく利用されていると思います。
[一言] 始めまして。 ちょっとヘビーな話ですね^^; 最後の母親が言った熟年離婚うんぬんの話がリアルすぎですねw これからも執筆等頑張って下さいね^^
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