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ゴブリン退治

 街の外へ出ると、草原と森が広がっていた。

 ゴブリンは街道を行く人を狙って襲いかかってくるので、基本的に街道周りをうろついていれば出くわすはずだ。


 そして、案の定、すぐにゴブリンが一体現れた。

 しかも、幸いなことにこちらに気付いていない。先制攻撃で仕留めるチャンスだ。

 闇討ちなんて卑怯かもしれないが、ゴブリンとは言えど、ちゃんと装備がある。

 棒きれと石で作った斧に、木の盾、原始的な装備だが、当たれば痛い。


 油断せずに行こう。


「ふっ、このミリアたんの守護を受けた僕に刃向かおうなどと、ゴブリン風情が笑わせる! 大いなるミリアたんの力の前にかき消えるが良い!」


 油断しまくっているバカが隣にいた。


「おい! バカ! お前が大声出すから気付かれただろうが!?」

「構わん! ミリアたんへの信仰の光に気付かれず、魔物が浄化されるなど、神が許しても、このハイプリーストである僕が許さん!」


「やっぱお前頭おかしいなあ!」


 俺の制止を聞かず、ファナディルは杖を天に掲げ、祈りのポーズをとる。

 そして、その奇跡の名前を呼び出した。


職業技典アストラル・コードハイプリースト、不浄救う鎮魂のレクイエム・ルークス!」

「ファナディル!? お前なんて技を使うんだ!?」


 ファナディルの掲げた杖の先に巨大な魔法陣が現れた。

 こうなったらもう魔法は止まらない。

 ただのゴブリンに最大級の奇跡をぶちまかますとか、どういう神経しているんだ!

 しかも、その技は不死にしか効かない技のはずだ!


「トワもその目を見開き、焼き付けるが良い! ミリアたんの降臨だ!」


 ファナディルが両手を広げ跪くと、魔法陣が割れ、中から光の衣を纏った巨大なのに幼い顔のエルフ、聖女ミリアが現れた。


「神様じゃなくて聖女ミリア出てきた!?」


 そして、現れた聖女ミリアが微笑むと、ゴブリンの周りにまばゆい光が降り注ぐ。

 真っ白な光の中からゴブリンの悲鳴が聞こえると、ファナディルは天を仰ぎ視た。


「あぁ、ミリアたん。また僕を助けてくれたんだね。あぁ、ミリアたんミリアたん、あなたの愛に僕は打ち震えています。エェェェクスタシィィィィイイイ!」


 本来なら神様を形取った光が現れるのだが、ファナディルはその溢れ出る信仰心で魔力の光を聖女ミリアの形に無理矢理変えたらしい。

 どんなけ強い信仰心なんだよ。というか、神様のことは全く信仰していないってレベルの奇跡のねじ曲げ具合だ。


「やべぇ……こいつ本物だわ……」


 ミリアについてあれこれ話すのは絶対に止めよう。夜道に刺されそうだ。

 なんて、考えていたら大事なことを忘れていた。


「不浄救う鎮魂のレクイエム・ルークスって不死用の奇跡だろ!? 不死じゃないゴブリンに効くわけがないだろうが!?」


 世間の常識には疎いけれど、戦いの定石は親父に叩き込まれた。

 さっきファナディルが放った奇跡は何度倒しても蘇る魔物にこそ効果を発揮する技なのだ。

 それをただの魔物に使ってもほとんど効果が無いはず、だった。


「嘘だろ……」

「ふっ、言っただろう? ミリアたんは僕を救うと」


 光が消えると、中から焼け焦げて、事切れたゴブリンが現れた。

 不死以外に効いちゃったよ……。


「いや、これ神の奇跡で不死の復活を妨げる技なんじゃ……?」

「僕のミリアたんが神様に劣るわけないだろう?」


「あー……」


 俺は頭を抱えた。

 頭がおかしくなりそうだったけど、俺よりもっとおかしいのがいるおかげで何とか平成を保てている。


 こいつ、奇跡の効果を己の妄執で書き換えやがった。


 俺達は魔法や奇跡を使う際、己のうちに宿るアストラル・コードという魔術書にアクセスする。

 この職業技典アストラル・コードという魔法書は基本的に誰もが共通して同じ物を持っていると言われ、星の記憶とも呼ばれている。


 つまり、呼び出せる量や強さは個人の力に左右されるが、星に宿る力を具現化するステップは皆同じだ。


 原典とステップが同じだから、魔法の効果はこの世界に住むみんなの無意識が決めている。例えば名前だったり、見た目だったり、といった印象が効果を決定するのだ。


 だけど、こいつは己の強い妄執でその集合無意識を変えたらしい。

 つまり、みんなの無意識が作った奇跡と同等の技を、一人の妄執だけで作り上げたのだ。


 色々と言ったけど、多分一言で説明する方が簡単だと思う。


 ファナディルは神様が匙を投げるくらいの極端な変態なんだ。


「お前が冒険者になれって言われる訳だ」

「ふはは。ようやく君も僕の信仰心の深さに気付いたか!」


「うん、良く分かった」


 神様を敬う教会にとって、こいつは異端過ぎる。何というか下手したら神様に反逆しかねない。かといって敬う相手が聖女だから異端にも出来ない。

 そりゃ、どこかで野垂れ死んでくれれば、儲けものと思われるのも納得だ。


「ウギイイイイイイ!」

「って、さっきの光のせいでゴブリンが集まって来た!?」


 数にして十匹。

 そりゃ、あれだけ派手にぶちかませば、魔物は寄ってくるだろうな。

 ただ、あれだけの火力が司祭という職業で出せるのなら、ゴブリンが何匹集まってこようと脅威じゃ無い。


「おい、ファナディル、右側は任せた。左側は俺が片付ける」

「いや、無理」


「よし、いくぞ! って、無理ぃ!?」

「さっきので精神力を使い果たした。だが、安心してくれ。ミリアたんをナデナデしていれば精神力は溜まる! その間、時間を稼いでくれ!」


「よし、お前は右側のやつらの餌になろう!」

「ちょっ!?」


 こんな変態を野放しには出来ない。俺が責任を持って片付けなくてはならないだろう。

 そう思ってファナディルを見放そうとしたんだけど、大事なことを忘れていた。


「良いのか!? 僕が死んだらお前も不合格だぞ!」

「そうだった……。パーティが揃って報告しないといけないんだった」


 遺憾ながらこの変態を助けないと合格出来ないんだった。

 あぁ、神よ。そして、人類よ。俺がこの変質者を再び人の世に放つ罪をお許し下さい……。

 俺はこの時、初めて神に懺悔した。


「さてと、それじゃぁ、やるか。職業技典アストラル・コード、ソードマスター」


 クルクルと俺の周りで魔法陣が周り、パリンと弾けると、頭の中にスッと剣に関する知識が流れ込み、身体が一気に軽くなる。


 この世界にはアストラル・コードという魔術書がみんなの魂に宿っているけど、職業という括りで章分けされているらしく、使えるスキルは生まれた時からある程度限られている。


 その中の一つがソードマスターと呼ばれる何万人に一人という確率で宿るレアな前衛職のコードだ。


「速剣、疾風!」


 風のように敵陣を駆け抜け、すり抜け様に相手の急所を切り刻む必殺の剣技。

 瞬きすらも許さないスピードで俺はゴブリンを切り抜け、左側にいた集団を殲滅する。

 けれども、残されたゴブリン達は仲間の死など気にせず、ファナディルに襲いかかっていた。

 残念ながらどれだけ速く動いても、剣ではファナディルを助けられない距離にいる。

 ならば――。


「コードチェンジ! アークウィザード!」


 またもや俺の周りでパリンと魔法陣が弾けると、今度は頭の中に魔法の術式が、あたかもずっと知っていたかのように鮮明に浮かび上がった。

 アークウィザード、上位の魔法を修めた魔法のスペシャリスト。魔術師を極めた者が稀に昇格して手に入る技典だ。


「ヘキサボルト!」


 そして、魔法の名前を叫ぶと、手の中から六つの光が飛び出し、ゴブリン達を焼き、凍らせ、切り刻み、すりつぶし、闇と光でバラバラにかき消した。


「よし、腕はなまってない」

「君は一体何をしたんだ!? 剣士が上級魔法を扱うなんてありえないだろう!? せいぜい初級、いや、才能があっても中級魔法だ! それを何故六属性の同時発射という上級魔法を!? その魔法はアークウィザードが使うものだぞ!?」


「んー、俺のアストラル・コードに書き込んだんだ。ちなみに、クラスの名前は白紙技典スキル・シーカー

「書き込んだだと? とぼけるな! 一人の人間が複数の技典を持つわけがない!」


「だから、俺の持つ技典はもともと白紙なんだ。他人が技とか魔法を使うのを見れば勝手に書き込まれて、使えるようになるみたいなんだけどね」


 そういう意味では不本意ながら、ファナディルの使った不浄救う鎮魂のミリアバージョンもしっかり書き込まれ、覚えてしまった。

 使う度に奴の変態行為を思い出すのか……。嫌だなぁ。


「それではまるで君自身がアストラル・コードの魔術書みたいじゃないか? すごいじゃないか。まるで聖典に現れる守護者みたいだな」

「んー、まぁ、そんな自由じゃないぜ? 見ないと使えないワケだし」


「ふーむ……。ただの変態ではないということか。やるな」


 なんてことを言っていると、倒した魔物達が魔石になっていた。

 魔石は五個で良いと言われけど、全部持ち帰ることにした。

 のは良いんだけれど、帰り道の会話はやっぱり酷かった。


「ふぅむ、それにしても、君が全裸の変態じゃなければ、まだ格好がつくのにね」

「……お前にだけは言われたくねぇよ。幼女を全身に宿した変態じゃないか」


「これは信仰だ! 僕は変態じゃあない! 気高いだけだ!」

「俺だって裸なのは事故だよ! 転送魔法の事故にあっただけだ!」


 そして、結局最後まで俺達はお互いを変態だとののしり合う犬猿の仲だった。

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