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こんなパーティを組むなんて聞いてない!

 ギルドの冒険者登録試験の内容が告知されると、俺は絶望感のあまり机に身体を投げ出しそうになった。

 嘘だ……。何故こんな厳しい課題を新米に仕掛けるんだ。

 こんなのってあんまりだよ。この状況でクリア出来る訳がないじゃないか!?


「えー、試験は最低二人以上のパーティを組み、ゴブリンを五体倒してくること。なお、討伐数は魔石のカウントによっておこなうので、取りこぼしがないように」


 全裸の俺と誰がパーティを組んでくれるっていうんだよ!?


「パーティを組むだと!? 僕を主様と慕う四人以上のロリエルフハーレムパーティがここにはあるのか!? あぁ、ついに僕の探し求めていた夢がここにっ!」

「俺以上に絶望的な奴がいた!?」


 一体どんな猛者だと思ったら、案の定あの変態司祭だった。やばいよ。こいつの頭どうなってんだよ!?

 面食らったのは俺だけでは無いらしく、ギルド内が喧騒に包まれる。

 だが、説明をしていたお姉さんが手をパンパンと叩き、早々に場を沈めてくれた。


「こほんっ、今の幻聴は私の魔法の暴走だ。さて、では、パーティを集め、名簿とともにこちらへ来るように」


 さすがに無理があるだろ……。と誰もが思ったのか、皆どこか引きつった笑みを浮かべながらグループを作っていく。

 そして、俺が近づこうとすると、何故か皆は逃げていった。いや、理由は何となく分かる。俺全裸だもんな。

 おかげで、結局最後まで誰もパーティに入れてくれなくて、一人取り残された。全裸のせいで完全ぼっちだ。


「あの……すみません……一人でも参加出来ますか?」

「何を言っているのですか? こちらでもう名簿を作ったので、二人で行ってきて下さい」


「え? 二人? まだ他に誰か残っているんですか?」

「あそこの柱を背もたれ代わりに、腕組んでどや顔している変態。じゃなかった司祭がいるでしょ?」


「やっぱりあいつかよ!? というか、やっぱりあれは都会でもちゃんと変態なんですね!」

「君と気があいそうですね。ほら、行ってきて下さい。制限時間は今日中ですよ」


 名簿を挟む木のボードで追い払われた。

 あの司祭の厄介払いを頼まれたとしか思えない。というか、俺も厄介払いされる側の人間か……。

 違うんだ。これは俺の本意じゃないんだ。俺は全裸になりたくてなる変態じゃあないんだ! あんなやつと一緒にしないでくれ。


「トワ」


 はぁー、とため息をついて近づこうとすると、突然背後から声をかけられた。


「セラ? あれ? どうしてここに?」

「朝ご飯持ってきたよ? 私の手作り。嬉しい?」


 そこには肉と野菜をはさんだパンを抱えるセラがいた。


「いや、服が欲しかったんだけど……」

「そういえば、裸だね。服は転送に失敗したんだ。あぁ、そういえばオルラン団長って酔っていると基本裸だから、服を転送するのを忘れたんだね。転送を頼んだら、服は着ていたけど、二日酔いで辛そうだったからまさかとは思ったけど」


「やっぱあの人のせいかよ!? っていうか、転送するぐらいなら普通に起こしてよ!?」


 それと、転送魔法が使えるのに服は送れないってとんだ欠陥だな! 絶対に二度と頼まないぞ。


「別に裸でも私は気にしない」

「俺が気にするよ!? 何でこんなことをしたんだ!?」


「トワの寝顔は目の保養になるから、ギリギリまで見ていたかった。昨日のトワはすごかったからあまり眠れなくて。だから、ギャップで寝顔が可愛かった」

「昨日はすごかったって、一体俺はどこで何したの!?」


「恥ずかしいよ……」


 まさか、セラの部屋で同じベッドに入って、気付かないうちにやっちゃった!?

 いや、でも、そんなバカな!? お願い! 顔を赤くしていないで本当のことを言ってよ!?


「俺セラに何したの!?」

「ずっと私の前で寝てたよ。酒場の机の上に横になったまま動かなくなったから」


「そうかー……。そうかー……何もしてないか……ヨカッタノカナー」


 なんて騒いでいたら、コツコツと誰かの近づく足音がした。


「おい、そこの変態うるさいぞ! 僕を主様と慕うロリエルフ達が怯えて出てこないじゃないか!」


 案の定、変態、もとい司祭君だった。というか、こいつ自分の発言が変態発言だということに気付いていないのか? まぁ、俺も全裸だから変態呼ばわりされても仕方無いけど、俺は自覚ぐらいあるぞ?


「お前にだけは変態と言われたくないな……」

「お前ではない。僕にはファナディル=リーバンという名前がある。それに司祭である僕が変態なワケがないだろう? 君は一体何を言っているんだ?」


「マジで言ってるの……? 頭大丈夫か?」


 恐ろしいことにファナディルは自身の行動に全く自覚が無いらしい。

 信じられないモノを見るような目で俺が疑っていると、ファナディルは不機嫌そうに腕を組んだ。


「君は無礼な奴だな。名を名乗られたら名を名乗るのが礼儀だ」


 何で俺が悪いことになってるのが納得いかないけど、まぁ、仕方無い。俺が常識人を自称するなら、名前くらいは名乗っておかないとね。


「俺の名前はトワ=ティーニ。んで、さっきの話しだが、ファナディルのミリアへの祈りが既に変態染みて――」


「聖女ミリア様と呼べ! 不敬者!」

「お前さっきの祈りでミリアたん言ってただろ!? お前の方がよっぽど不敬者じゃないか!」


「何故そのことを!? さては貴様、僕の心を読んだな!? なんと趣味が悪い!」

「口に出してたから! 思いっきり! ペロペロとかクンカクンカとか言いながら!」


「なんてことだ。僕の抑えきれない信仰心が溢れ出てしまうなんて。あぁ、ミリアたん、あなたにだけ捧げる僕の愛を、この薄汚れた下界に漏らしてしまった罪をお許し下さい」


 ファナディルは右手を天に掲げ、タリスマンを握りしめる左手を胸に当てるポーズをとっている。もちろん、この声もちゃんと口から漏れている。もはや今の言葉自体が罪だろ? これはイケメンでも有罪だ。


「ねぇ、セラ。……俺、こんなのに無礼者扱いされたの?」

「恋は盲目」


「これを恋とは言いたくないなぁ……。信仰の一種だろ。それもヤバ目の」


 いわゆる狂信者の類いじゃないだろうか。

 とはいえ、それを言ったら何されるか分からないので、セラの少しずれた言葉に俺は言葉を濁して、ため息をついた。

 けれど、ズレというのは俺の中の話しであって、俺のズレが他人にとっては真っ当な答えの可能性だってある。


「その通り! これは断じて恋ではない! 信仰なのですっ! そして、信仰とは愛っ! 君、トワと言ったな? 僕と同い年くらいでそこまで悟っているなんて! 話せば分かるじゃあないか!」


 残念なことに俺の言葉はファナディルの琴線に触れたらしい。

 さらにテンションをあげやがった。

 しかも、変態の理解者にされた。話しても分からないんで帰って欲しい。というか帰れ。

 そしたら、セラと一緒にパーティ組んでクエスト出来るかもしれないんだから。


「というか、そんな信心深いファナディルさんが、何で冒険者になろうとしているんだよ? 教会でも修道院でも行って信仰心を証明していれば良いじゃないか?」

 

 言外にだからさっさと教会にでも帰れ、と言ってやった。すると――。 


「それがだ。大司教様が僕の元にやってきてね。君の溢れ出る信仰心は教会に押しとどめておくだけではもったいない。外の世界を信仰で満たすために冒険者になって、魔を滅し、聖なる教えを広めて欲しい、と懇願されたのだ。ふっ、そんな僕と成り行きでも同じ空間にいるのだ。喜びでむせび泣いて教えを請いても良いんだよ? ミリアたんの伝説を夜通し語ってあげよう」


 顔をキラキラさせながら語るファナディルを俺達は直視出来なかった。

 大司教に推薦されたとか、信仰を買って請われたじゃないよ。

 これ絶対にただの厄介払いだよ。

 あわよくばどこかで野垂れ死んで、永遠に教会に戻ってくるなっていう破門だよ。


「なぁ、セラ。信仰ってのはすごいな……」

「そうだね。飼い主に捨てられたのに、飼い主が戻ってくるのを待つ捨て犬を思い出す」


 セラの例えに俺はもう一度長いため息をついた。

 こんな奴と一時的とはいえ、パーティを組んで魔物と戦うのか。


「トワ、大丈夫。どんなに薄汚れていて、汚物にまみれた可愛くない捨て犬でも、捨て犬を拾うトワの姿は格好良くて優しそうで、見ていて微笑ましいから、安心して拾って良い」

「セラ、この三年間で一体何が君をそこまで変えたんだ……」


 セラの容赦の無い毒舌に苦笑いするしかない。

 まぁ、毒を吐かれている本人はさっきから聖女ミリアの伝説をずっと語っているので聞こえてないから大丈夫だろうけど、哀れだ。

 これ以上見ていられないから、早く終わらせよう。主に自分のために。


「おい、ファナディル。信仰を広めるなら、さっさとこんな試験終わらせないと、いつまで経っても聖女ミリアのご意向には添えないぞ?」

「あぁ、そうだね。僕としたことがつい熱くなってしまった。良いだろう。ここはミリアたんのため、仕方無く全裸の変態と共同戦線を敷こう」


「……やっぱり納得いかねぇ」


 こうして全裸の剣士と幼女の絵に囲われた司祭の変態パーティが結成される。

 こんなんが俺の最初のパーティだった。

 後で正式な冒険者になったらこの記録は抹消してもらおう。あくまでこれは試験、正規じゃない。まだ俺の冒険は始まってもいない。これはノーカウントなんだ!

 そう自分に言い聞かせないとやっていられなかった。あぁ、酒に溺れそう。


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