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こんな信仰があるなんて聞いてない!

 やっぱり気のせいじゃ無かった。

 目が覚めたら、やけに全身がスースーして涼しかった。どうやら、俺は見事にパンツ一枚になったらしい。確か早飲みは勝ったり負けたりが続いて、気付いたら脱がされていたんだっけ。


「あー……酷い目にあった。都会の飲み会は怖いんだな……」


 と、昨日の酒を後悔している最中はまだ幸せだったのだろう。

 それ以上の恐怖を感じることになったんだから。


「ここ……どこ?」


 周りを見るとそこは酒場じゃなかった。青い空と白い雲が頭上に広がり、背中には固い石畳の道路の感触がする。


「本当にどこだよここ!?」


 俺は街中の路上に眠っていた。

 そして、俺の側には誰も転がっておらず、まるで一人拉致されて置いて行かれたかのような状況だ。


「えっと……冒険者ギルドの者なんですが……。そこどいてもらっても良いですか?」

「冒険者ギルド……?」


 眼鏡をかけたお姉さんが困ったように笑いながら声をかけてくる。

 はて、聞き覚えがあって、すごく大事なことがあった気がする。

 そう思いながら自分の横にあった建物の看板を見てみると、確かにそこは冒険者ギルドの建物だった。

 そういえば、俺は冒険者登録試験を受けるために、ギルドにいかないといけなくて……。


「って、嘘だああああああ!? 何でこんなことになってるの!?」

「いや、信じたくないのは全裸の男性がギルドの前で転がっている私の方なんですけど……」


「すみません! 冒険者登録試験は裸でも受けられますか!?」

「嘘でしょ!? あなた受験者なの!?」


 色々な意味で信じられないことがたくさんあった朝、これが俺の冒険者としての始まりだった。



 受験者は三十人くらいいて、自由に席を決められたのだが、俺の周りには誰も人が寄りつかなかった。

 まぁ、そりゃそうだよなぁ……。今の俺パンツ一枚だもんな……。

 ちなみに聞こえてくる呟きもろくな呟きじゃない。


「魔物の攻撃なんて怖くねぇってか……。あいつ漢なのか? それともただのバカなのか?」

「おい、やべぇよあいつタダ者じゃねぇよ……。お前声かけてこいって」

「無理だよっ。近づくだけで斬られそうだよ。剥き出しのナイフみたいな雰囲気出してるよ?」


 そうだよ。今俺を覆い隠す物は何もない! 剥き出しだよ!


 剣を担いだパンツ一枚の男に声をかけられる奴がいたら、そいつが勇者で良いよ。冒険者登録試験なんて受けずに合格させて、魔王倒してきてよって話だ。

 何故だろう? 泣きたくなってきた。

 そんな時にふと女性グループの声が聞こえる。


「ねぇ、あの彼に声かけようよ」

「えー、大丈夫かな? 私なんかが声をかけても。何か恐れ多いっていうかー」

「ちょっと、あの格好だと声かけにくいわよね。でもほら、顔は良いじゃん?」


 後ろにいる女の子の呟きに思わず俺は涙を流していた。

 うぅ、大丈夫だ。その気持ちだけで俺はこの恥辱に耐えられる。


 けど、一体どんな優しい子がそんなことを言ってくれるのだろうと思って後ろを盗み見ると、俺とは違う方向に彼女達は目を向けていた。

 その視線を追ってみると、そこにはタリスマンを握り締め、祈りを捧げているイケメンがいた。


 なんだ。やっぱり俺じゃ無いのか。しかも、相手はイケメンかぁ……。まぁ、そうだよなぁ。今の俺はただの全裸だし、って、ん?


 イケメンは赤い髪にシュッと長い目、真剣に神に祈りを捧げる表情は男の俺でも格好良いと思える姿だった、んだけどなぁ。顔から下はすごかった。思わず咳き込むくらいに驚いたよ。


「げほっげほっ!?」


 彼の着ている法衣の肩には、可愛らしく杖を振るちょっと幼い金髪少女の絵が描かれている。しかも、露出度がやけに高い服装だ。

 いや、よく見たら肩だけじゃない。胸から腰にかけての前面、と背中にも別のポーズをとる少女の絵が描かれている。

 そうして、全身が少女の絵に囲まれている上に、手に持っていたタリスマンもやはり同じ少女の絵が描かれている。って、ちょっと待て! よく見たら、服についたボタンの一つ一つにも少女の顔が描かれているぞ!?


 ちなみに、描かれている少女の名前は聖女ミリアと言い、ロリエルフとして一部信者から非常に人気が高いとか。村に買い出しに行った時に何度かその手の信者にあったことがあったんだ。

 幼い顔に子供らしい笑顔が見ている者の保護欲をくすぐり、神様より信仰を集めているとか冗談で言われているくらいの人気者だ。

 信者曰く「俺達(私達)、がお兄ちゃんだ(お姉ちゃんだ)」と。

 まぁ、そういう信者と話をしてみると可愛い孫とか娘を見る気持ちがするそうなので、微笑ましい話しが多いんだけど。


「ミリアたんミリアたん、どうかお兄ちゃんに元気と勇気をください。ミリアたんのためならどんなに辛い試練でもお兄ちゃんがんばれるから。あぁ、ミリアたんミリアたんハァハァ。可愛いよ。ナデナデペロペロしていいかな? ミリアたん、あぁ、ミリアたん良い香りがするよクンカクンカ! あぁぁぁぁ!」

「……うわぁ」


 思わず出てしまった呟きに司祭の男がこちらに気付いて目があった。

 こいつやべぇ……。という言葉は何とかギリギリで飲み込めた。

 イケメンでもこれは有罪だよ。異端審問で即死刑だよ。

 なんてことは言えず、互いに愛想笑いを交わし、視線を反らす。


 まぁ、信仰は人それぞれだもんな。どんな神を信じようが人を信じようが自由なはずだ。

 だから、まぁ、そうだな。俺も全裸だし互いに視線を反らすのは仕方無かったんだ。


((あいつとは関わらないようにしよう))


 何故か同じ事を考えたような気がして寒気が走った。

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