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冒険の終わりに

 周りが静かだったのはこの龍が出てくることに気がついて、魔物も動物も逃げ去った後だったからだろう。


「古代龍ヴォルカニオルスと言われるその龍は、鉱物を主食とし、溶かした岩を腹に貯め込んで、山を砕く時に吐き出すといわれているわ」

「セラ! 冷静に解説してる場合じゃないって!?」


「いや、もう、逃げられないっぽい」

「うわっ!? 超怒ってる!? っていうか、そうか、全部滅ぼせって命令されているんだっけ!?」


 封印から解き放たれた古代龍がドロドロに溶けた岩の塊を吐き出して襲ってくる。

 その攻撃から逃げるように、俺達はさっきまでいた遺跡の中に飛び込んだ。

 とはいえ、飛び込んだところでどうしようもないことは分かっている。

 いつ見つかるかは分からないし、そもそもこのままでは逃げられない。


「セラお嬢様、あやつに弱点はあるのか?」

「良い質問ねファナディル。弱点はないわ」


「では、どうすれば?」

「あなたが囮になって、その間に私達が逃げる。ミリアもきっとあなたの勇敢さを讃えてくれるわ」


「くっ……ぐおおおおおおお……ミリアたんお兄ちゃんに勇気をくださいぃぃぃい」


 うわ、ファナディルのやつ、本気で悩んでる。

 確かに変態が一人消えることで世の中はよくなるかもしれないが、少しだけ目覚めが悪いな。


「まったく、フーランが封印術さえとかなければ……ん?」


 あれ? 封印術か。それなら、何とかやれるんじゃね?

 古代龍を封じていた術を俺が覚えて封印し直せば、簡単にこの場をおさめられるはずだ。


「フーラン、封印術の魔法陣が書かれていた場所はどこだ!?」

「ここ」


「うわっ!? 術式がかすれてもうほとんど見えないし!」


 せっかくのアイデアだったんだけどな。仕方無い。こうなったらファナディルに男になってもらう他無いか。


「んー、あれ? この骸骨さん、手に何か握ってるよ? 何かの術式の魔法陣みたい」

「へ? どれどれ? これって!」


 これもフーランの特殊能力なのか!?

 不幸に会えば、反動で幸運が訪れる。

 その反動の幸運は、今の不幸に見合った物だった。


「これ、魔物を操る術式だ!」


 この窮地を脱出するための最大の武器が手に入った。

 だが、解析してみると、遠隔で発動は出来なくて、直接魔法陣の書かれた何かをぶつけないといけないことが分かった。

 でも、不可能じゃない。作戦を話してみたら、意外とみんな乗り気ですぐに決行が決まった。


「さぁて、古代龍を止めにいきますか!」



 外で暴れる古代龍の前に戻ってきた俺達は同時に散開した。

 俺はセラとともに最も高い石塔を駆け上がり、ファナディルとフーランは地上から古代龍に向かって魔法と奇跡をぶつけていく作戦だ。


「うまいこと二人が古代龍をひきつけてくれてるな」


 上位魔法の光と最高クラスの奇跡の光が龍に向かってぶつかり、途切れない爆発音を奏でている。おかげで、龍はこちらに目もくれず、ひたすら地上の二人に溶けた岩をはいていた。


「そうだね。あの二人、魔法の強さだけは強いから、古代龍でも当たればチクチクしてイライラするんだろうね」

「あのレベルの魔力でチクチクって、普通に倒せるのかこの龍?」


「魔王とか伝説の勇者が最強装備で挑めば倒せると思うよ。もともと災厄が龍の形になったって伝説が残されている龍だし」

「うわぁ……。そんな龍に滅ぼせ言っちゃったら、文明も滅びるよなぁ……」


 改めて敵対する龍の存在の大きさに辟易していると、何とか塔のてっぺんに辿り着いた。

 高い所に登ったのには理由がある。もちろん、ただ背に飛び降りるだけじゃない。

 盗賊の技能を持つセラはこういう時に色々便利なスキルを使えるんだ。


「アストラル・コード、盗賊、ジップラインセット」


 セラが塔の壁に手を触れると、ガチャンと音がなって壁の中から緑色に輝く魔法のロープが現れた。

 そのロープを矢に結び付け、セラは龍の背に向けて放つ。

 すると、魔法のロープは俺達のいる場所と龍の背中を結び付けた。


「飛ぶよ。トワ、しっかりつかまってて、ちゃんと密着して、離れないで」

「う、うん、そこまで強く言われなくても大丈夫だよ?」


 セラの力強い念押しに流され、俺はセラにおぶさってしっかり彼女のお腹に手を回してしがみついた。

 そして、セラが塔から飛び降りると俺達の身体は魔法のロープに従って、スーッと空を滑り落ち、龍の背中に降り立った。


「って、気付かれた!?」


 さすがに背中に乗ったらばれてしまって、尻尾が俺達を振り落とそうと迫ってくる。


「トワ! 行って!」

「でも!」

「大丈夫だから!」


 セラの言葉を信じて、俺は龍の背中を蹴った。

 そして、長い首を飛び越えた時、背後で爆発がするも、ただ真っ直ぐ龍の頭を見据えて拳を解き放つ。


「操術、デモンスレイブ! とりあえず、寝てろ!」


 呪文とともに現れた魔法陣を龍の頭にぶつける。

 すると、先ほどまで大暴れしていた龍が嘘のように大人しくなり、地面にゆっくり横たわった。


「トワ、おつかれ。すごいね。こんな伝説の古代龍を黙らせるなんて。すごいお宝だよ」

「すごい魔法を手に入れられたよ。すごいな遺跡探索って」


「でしょ? 古代の知識もいっぱい手には入って今日は有意義だった」


 死にかけたというのに楽しそうに笑うセラにつられて、俺も笑ってしまう。

 確かにこんなに刺激的な冒険が出来るのなら、フーランを連れて行きたくなる気持ちも分かるかな。


「おーい! セラー、トワ君、おつかれさまー!」

「ふっ、トワもなかなかやるな。まぁ、僕がミリアたんに祈りを捧げたおかげだね」


 変な奴らばかりだけど、こうやってパーティ組むと意外と悪くなかったしね。

 さて、それじゃあ、後は日記の主が残した贖罪のお宝を見つけよう。

 そして、お宝自体は魔物がいなかったこともあってあっさり見つかった。



 宿屋に帰った俺達は龍に勝った喜びも、お宝を見つけた喜びもなく、かなりぐったりした様子で酒場の椅子に身を投げ出した。

 そこへオルラン団長がやってきて、不思議そうに声をかけてきた。


「お前らどうしたんだ? そんな疲れた顔して」

「古代龍と戦って、遺跡を走り回って、お宝を見つけてきたんですけど……」


 俺が事情を話すとオルラン団長もさすがに驚いていた。

 古代龍と戦って生き延びた人間など、初めて聞いたらしい。


「トワ、お主すごいな! で、その古代人が残したお宝はなんだったのだ?」

「これです……」


 俺は宝の入った箱を机の上で開けて、中身を机にぶちまけた。


「お主っ!? これは!」

「……そうです」


「最高のお宝だ! 全員集合! 戦だ! 争奪戦を始めるぞ!」

「中身は……エロ本でした……。って、えぇぇ!? 超喜んでる!?」


 俺達が宝箱の中身に気付いた時の気まずさはなんだったんだってくらいに、酒場は大盛り上がりだ。


「うおおおおおおお! エロ本争奪戦だあああああ!」

「「うおおおおおおおおおおお!」」


 これとは正反対で、俺達の反応は何とも言えない微妙なものだった。意気揚々と箱をあけた瞬間、俺は声も出せないほど思考が固まった。

 セラはただ無言でページをめくって、時折頷いていた。

 ファナディルは鼻血が出る鼻を押さえてミリアに祈りを捧げていた。

 フーランは何で裸の女の人ばっかりなんだろう? と不思議がっていた。


「お主達! よくやったあああああ!」


 まぁ、ここまで喜んで貰えたんだから、結果オーライなのかもしれない。

 日記の主は将来、子孫がちゃんと繁栄して、人の世を取り戻すためにはエロがいると思ったんだろう。そういう意味では、ちゃんと役に立って……いるのかなぁ?


 という落ちも含めて、何だか微妙な気分だ。

 そういえば、フーランがいると幸福と不幸がセットだって言っていたっけ?

 魔物を操る技を手に入れた時点できっと幸福を使い切ったんだろうなぁ。

 ということで、俺達の初めての冒険は何とも締まらない幕切れで終わった。


「ホント、変な人ばかり集まるなぁ……」

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