五つの修行
◇◆ベルス(爺ちゃん)の修行◇◆
「・・さて、本格的に魔力強化の修行を始めていこうかの。」
魔力強化は魔力経路を通して身体能力を格段に上昇させる技術である。魔力経路に魔力を通し、強化のエネルギーに変えることで使うことができる。
使うだけなら簡単だ。そして鍛えることで、強化速度、強化効率、魔力消費効率を上げることができる。また、体の一部分を集中して強化することもできる。
魔術の中には強化魔術と呼ばれる似たようなものも存在する。しかし、これは下級、中級など段階的に強化率に差があれど、一定で変えることはできない。それにともない体の一部を集中的に強化することもできない。
また、魔力強化を極めていくと、強化魔術の完全な上位互換となるのだ。その他にも色々な相違点があるが、それは後ほど。
「その他にもな、魔力強化を鍛える上で、重要な体内魔力操作の技術はの、色んなことに応用がきく。やっておいて損はないのじゃ。」
「うん、わかったよ。爺ちゃん。」
「では、早速修行をはじめようかの。」
◇◆ガルフ(獣人の力)の修行◇◆
「グハハハハ、吾輩が教えるのは、己の体を獣に近づける技『獣化』だ!!」
「獣化ですか?、何か凄そうですね。」
「ハハハハ、獣化はな身体能力を最低でも二倍にする技だ。ハハハハ、、種族によって異なるがな。」
獣人族は特に身体能力の面で秀でた種族らしい。さらに、中には鳥人と呼ばれる鳥の特徴を引き継いだ種族がおり、空を飛べるらしい。
そんな獣人族の使う特別な技、それが獣化だ。獣化はベースとなった動物の力を前面に出す技だ。そのため、ベースとなった動物によって強化される部位に差が出る。例えば、狼人であればスピードが格段に上がるし、兎人であれば跳躍力が上がる。
しかし、『獣化』には制限時間があり、10分〜30分しか発動しておけないし、発動後は極度の疲労と眠気に襲われる。そして再使用にはだいたい一日程度かかる。また『獣化』を発動させると好戦的、獰猛になったりして理性を失い暴走の危険もあるので訓練が必要である。
「グアハハハハ、中には『霊獣化』や『神獣化』を使う者もいるが、基本は変わらんから気にしなくてよいだろう。」
「はあ〜、そうですか。」
◇◆ジルバ(鬼人の力)の修行◇◆
「私が教えるのは鬼人族が使う『鬼装術』です。『鬼装術』は簡単に言えば、魔力で創った鎧のようなものを纏い、身体を強化する術です。特徴は身体だけではなく武器などにも纏えることですね。特に防御の面で強い効果を発揮します。」
鬼人族は獣人族同様身体能力に秀でた種族である。しかし、種類ごとに能力が高い箇所に差が生まれる獣人族とは異なり、鬼人族はバランスがよく、偏りがない。
そんな鬼人族が使うことができる術が、鬼装術である。この鬼装術を使うためには鬼人族特有の体質が必要不可欠なのだが、今は省略しよう。鬼装術はその性質上、物理、魔術などの魔力を使った攻撃に強大な効果を発揮する。また訓練することで纏っている魔力を自在に動かしたり、属性を付与することができる。
しかし、魔力の燃費が悪く、あまり長く継続して発動させておくことはできないのが欠点だ。
「だけど、クロウ君の魔力ならデメリットを無視することができます。しっかり訓練しましょう。」
「え〜と、魔力強化とあまり変わらない感じがするんですが。」
「ああ、そうですね。確かに効力だけ考えるとあまり変わらないように感じるでしょうが、実は根本的な違いがあります。」
魔力強化は内側から強化する技、対して鬼装術は外側から強化する技である。そのため併用が可能であるのだ。さらに熟練者になれば鬼装として纏っている魔力を、伸ばして物を掴んだりなど某ゴム人間の真似事ができる。
「ですから、似たような効果は発揮すれども、方法が全く異なるのです。上達すれば色々と応用がきく術です。学んでおいて損はないでしょう。」
◇◆フォルテ(魔人の力)の修行◇◆
「ワハハハ!、さあ、さあ、今度は僕の番だね。いいかい、クロウ君、魔人族の特徴は魔力干渉力の高さ。このおかげで僕たちは術式なしで魔術を使うことができる。だけどね、クロウ君、かといって術式を学ばなくていいことにはならない。術式を使った方が効率だしね。僕の妻達の中にね術式開発を得意なアクシャと言う人がいてね。アクシャの創る術式はとても美しくてね、いやアクシャも美しいんだけどね。あの美しさはなんと表現すればいいんだろう?、いやどんな言葉も……。」
話が盛大に逸れ、長くなったため要約する。最近この人の対応に慣れてきた実感がする。あまりうれしくないが。
まず、魔人族は魔力に秀でた種族であるらしい。魔人族の誰もが多量の魔力を持ち、術式感覚にも秀でている。そして、魔人族の最大の特徴は外気魔力の干渉能力の高さである。
元々、魔術と言うのは自身の魔力、所謂『体内魔力』、を使って術式を展開外気の魔力、所謂『体外魔力』、に干渉する術である。例えば火属性の魔術であれば、火属性の術式を展開発動させることで大気中の魔力を火属性に変えて攻撃するのだ。そのため、海上などでは周りの魔力は若干ながらも水属性を帯びているため、火属性が使いにくいなどの現象が起こる。
そして、魔術で使う術式というのは媒体の役割を果たしている。元々、魔術は魔力干渉力が低いもののためにできたものだ。そのため、干渉力を高めるなにかを欲した、それが術式である。術式という仲介役を挟むことで人間は体外魔力に干渉することが可能になったのだ。
ということはだ、元々、魔力干渉力の高い魔人族は術式なしでも体外魔力に干渉することができるということだ。しかし、術式を通した方が魔力効率、威力調整などが優れているため、術式なしでの魔術の発動の利点は出の速さぐらいらしい。と言ってもコンマ一秒の差が勝敗を分けることもあるので馬鹿にはできないが。
そして、もう一つの特徴、それは魔力を見る深紅の魔眼をもつことだ。ただし、見えるのは体外魔力だけ、他人の体内魔力は見ることはできない。また常に発動している訳ではなく、目に魔力を集めることで発動するため魔力を感知できるものには気付かれてしまうことがある。
最後の特徴として、魔人族は必ず、闇属性を持つらしい。魔力の属性に関してはまた今度説明しよう。
「……というわけで、クロウ君!!、今からするのは術式の構成式の基礎を学ぶことと、体外魔力の操作技術の向上だよ!、じゃん、じゃん頑張っていこう。」
◇◆シャルガフ(龍人の力)の修行◇◆
「龍人族、…龍魔法を使う。龍魔法は強力、使い方が大事。」
「龍魔法ですか?、聞いたことないですね。(そもそも、本がないから一般的に知られているかすらわからないんだけど。)」
龍人族は非常に個体数が少なく、とても珍しい種族だ。基本山奥の集落に籠っているため、既に全滅しているとも言われてしまっているが。身体能力、魔力ともに優秀で最強の種族に数えられる程らしい。特に頑丈さに秀でている。また、龍の瞳を持っており体内魔力を見ることができる。また、この目は魔人族の魔眼とは異なり発動には魔力を必要としない。
そして、龍人族は龍魔法と呼ばれる、本来『龍』しか使えないものを使えるらしい。龍魔法は魔術ではない『魔法』である。魔術と魔法の違いはまた説明するとして。龍魔法は龍や龍人の特殊な声帯を使って発動させる魔法のことだ。
龍魔法はとても強力で下手すれば、山一つ消しとばすことも可能である。攻撃用以外にもさまざまなものもある。ただ、強力すぎて逆に使い勝手が悪いため、相当な訓練が必要である。
「頑張ることだ。」
「了解です。」
◇◆◇◆
「……で、どうじゃクロウの様子は?」
「グハハハ!!、凄いぞ。たった一日で獣化を成功させたぞ!しかも、理性も失わなかった。」
「多分ですが、原種であることも影響しているんでしょう。鬼装術を発動した時にもその片鱗は見えました。」
「魔力干渉力もとても凄かったし、術式理解も相当なものだったよ!!」
「才能はとんでもない。」
「グハハハハ、ベルスのほうではどうだったのだ!?」
「凄いな、次々と吸収していく。儂よりも才能はあるな。十年もすれば追いつかれるじゃろう。」