魔力経路と空腹
「ん、んん?・・あれ?」
気が付いたら、自分の部屋に寝かされていた。目の先にはこの五年間見続けた天井の木の模様がある。そして体には妙な疲労が残っている。
「お!気が付いたか、クロウ。体の調子はどうじゃ?」
「んん〜・・なんか怠い。だけど、なんか調子がいい。ごめん、よくわからない。」
「なるほどの。・・・・して、クロウ、昨日のことは、どこまで覚えておる。」
「昨日?、ええっと、確か爺ちゃんから魔力のことを教えてもらって、それから・・あ!」
そうだ、あまりの痛さに気を失ったんだ。今は痛味はないが、思い出そうとするだけで体中が痛くなりそうだ。それぐらい酷い痛みだった。
「どうやら、覚えておるようだの。まったく、あれから丸一日寝たまんまだったんじゃ。心配したぞ。」
「へ?丸一日!?・・ああ、だから昨日って。」
ちょっと疑問に思っていたことが解消され、納得する。すると気が抜けたからなのか、腹がとても大きな音でグウ〜と鳴り、部屋に響いた。・・なんとも激しい自己主張だ。顔が赤くなるのを感じた。
「ハハハハ。事情は後から説明するとして、まずは腹ごしらえかの。」
その分かりやすい、体の発信音がおかしかったのか爺ちゃんは笑いながら厨房に入っていった。
今更だと思うだろうが、俺と爺ちゃんは大きな家(屋敷と言ってもいい)に住んでいる。二人で過ごすには、些か広すぎるかもしれないが言ってもどうしようもないことだ。
部屋は沢山あり。爺ちゃんの部屋と俺の部屋以外にも、今さっき爺ちゃんが向かった厨房、狩ってきた魔物を解体するための消臭効果のある解体部屋、さらに鍛錬専用の色々な効果を搭載している大部屋(道場?)すらあるのだ。ついでに言えば昨日使ったのもこの部屋だ。
しばらくして、料理が出来上がってきたのか、いい匂いが漂ってくる。爺ちゃんは見た目に似合わず料理が上手く、おいしい。いつも残さず食べている。ときどき、でかい牛の顔(たぶんミノタウロスだと思う)などのゲテモノ系もでてくるが。
そんな取り留めのないことをダラダラ考えていると、料理ができたのか自分を呼ぶ声が聞こえてくる。そして、階段をおりいつもの食堂にいくと沢山の料理が食卓に並んでいた。
「ねえ、爺ちゃん。つくり過ぎじゃない?、食べきれないと思うんだけど。」
その料理の量はいつもよりかなり多く、かるく三倍はあるように見える。
「大丈夫じゃ、むしろ足りないぐらいじゃ。」
「いやいや、流石に食べきれないって・・。」
「いいから、さっさと食べてしまえ。」
「まあ、お腹減ってるからいいけど・・。」
これ以上言っても埒が明かないと思い、席について食べ始める。
それから30分後、机の上にあった料理をすべて綺麗に食べ尽くし、追加で出された料理も食べた。45分後には全て自分の胃の中に納まってしまった。
◇◆◇◆
食事が済んだ後、暫く休憩し、爺ちゃんから貰った修行用の服(入手経路は不明)に着替え、高性能鍛錬大部屋(もう道場でいいや)に来ていた。
「さて、まずは何から説明しようかの。・・・そうじゃな、クロウ、魔力の塊の話は覚えておるか?」
「うん、確か、魔力は最初氷のように固まってて、溶かして水のようにしないとダメなんだよね。・・その話の後、爺ちゃんが腹に手を当ててきて・・・・。」
「そうじゃ、まずはそこから説明しようかの。・・あれはな魔力の塊を手っ取り早く溶かす方法じゃ。やり方は簡単、儂がやったみたいに腹に手を当てて魔力の衝撃を打ち込むだけ。最初の掴みには丁度いい方法じゃ。まあ、表面の魔力を溶かすのが精一杯なんじゃが。」
「ふ〜ん、・・滅茶苦茶痛かったんだけど。」
あんなに痛いなら、事前に説明しておけよ!と批難するような感じで爺ちゃんを半眼で睨む。
「い、いやの?それなんだがのう。この手法はな痛いことは痛いのじゃが、痛みは直ぐに引くし、その痛みも耐えられない程ではないはずなんじゃ。」
ちょっと気まずそうに爺ちゃんは頭を掻きながら説明する。
「え?いや、全身が引きちぎられるんじゃないかって思う程痛かったんだけど?」
「ん〜、・・まずその説明をする前に『魔力経路』について教えようかの。」
「魔力経路??」
「うむ、魔力経路はな簡単に言えば魔力の通り道のようなものじゃ。広ければ広い程、一度に運べる魔力の量は大きくなるし、硬ければ硬い程、速く魔力を流すことができる。」
「へぇ〜、それとあの痛みと何か関係あるの?」
「大有りじゃ。よいか、クロウ、お主の魔力の量は膨大じゃ、それこそ世界に並ぶものがいないと断言していい程にな。だからじゃろう、たとえ表面だけとは言っても大量の魔力が一気にあふれ出した。そして抑えきれなかった魔力はお主の魔力経路に無理やり流れ込んだのじゃ。」
「ふ〜ん、それで?」
「魔力経路は最初閉じられておるし、尚且つ狭い。本来なら徐々に魔力を流して開いて行く予定じゃった。しかし、魔力が大量に流れてきた。それは固く閉ざされた門を水の濁流で無理やりこじ開け、狭い道を無理やり押し広げるようなものじゃ。体の負担も魔力経路にかかる負担も大きくなる。それが痛みとなってあらわれたんじゃ。」
なるほど、要するにダムが一気に増水して決壊してしまうようなものか。ダムを破壊する圧力はすさまじいだろうし、ダムの先にある川も急激な増水によって横に大きくなってしまうと。
「ん?だとすると、俺、魔力を溶かしたら、またあんな痛みを経験することになるのか?・・うわぁ。」
「安心せい。今回にことで魔力経路は一気鍛えられた。最初程の痛みはないじゃろ。」
「うえ、痛いことは痛いんだ。」
「それはそうじゃ、本来魔力経路を鍛えるのはかなりきつい。しかも、お主は膨大な魔力の原石を持っておるからな。ちょっとでもミスして魔力を溶かし過ぎればたちまち溢れてきてしまう。」
「はあ、マジか。」
「なに、魔力経路を鍛えていけば行くほど痛みはなくなるし、いずれは全開も魔力を流しても平気になる。・・・・と、いうことでじゃ、これからの修行内容は魔力経路の強化と使用可能魔力の増量、基礎体力の向上じゃな。今日はしっかり休んで、明日からはじめるぞ。」
「了解しました。・・あ!そういえば。ねぇ、爺ちゃん何で俺あんなに食べることができたんだ?」
「あ、ああ!、それはな魔力経路の強化を一気に行ったからじゃ。魔力経路の強化にはエネルギーを消費するからの、特に今回は一気に強化したから多大なエネルギーを消費したしの。だから、補充しようと体が大量のエネルギーの本を欲したんじゃ。」
「へぇ〜、だったらこれからいつもより沢山の食料が必要になるんじゃ。」
「まあ。それはそうじゃろうな。だが、今日ほどの量は必要ないじゃろ。今回のは例外じゃよ例外。」
「だろね。・・んじゃ、今日はしっかり休んで、明日に備えるよ。」
そして、2年の月日が過ぎ、俺は七歳になった。