プロローグ
ザアアアアア、ゴロゴロ
大雨が降り、雷が落ちる。そんな嵐の夜に一人の老人がいた。
白髪と白い髭、顔にあるしわが老人だと教えてくれるものの、その身からは老人には不釣り合いな程の溢れん覇気が見て取れる。
「これは、馬車の残骸か?それにこれは血の匂い。何かあったのかの。」
地面に残る馬車の残骸と血の匂いの後を辿っていく。するとそこには、もはや原型を留めていない馬車の残骸と、いくつかの死体が転がっていた。死体の中には騎士のような鎧を身に付けている者や黒装束を纏った者がおり、剣による切り傷や魔物に食われたあとがあった。
「これはどういう状況かのう?・・・まあ、よい、せめて弔はなければな。」
老人は穴を掘り、死体を次々と埋めていく。そしてすべての死体を埋め終わり、去ろうとしたとき、馬車の残骸の中から、オギャアア、オギャアアと赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「なに?まだ生きている者がおるのか!?」
急いで馬車の残骸をどかしていく。そして、布に包まれた黒い髪の赤ん坊を見つける。これが、「武神」と恐れられた格闘術の達人、ベルス・バールハントと、後に「黒神」と呼ばれるようになる赤ん坊の出会いだった。
◇◆◇◆
「・・で?、赤ん坊は始末できたのだな?」
「ハ!、報告によれば、奇襲は成功、護衛騎士は全滅させたものの、魔物の襲撃に会いやむなく撤退、直接殺すことは出来なかったようです。しかし、騎士は全滅しております。おそらく魔物に食われたものと。」
「そうか、ならば生きてはおらぬだろう。・・して依頼をしたもの達の始末はどうなっている?」
「既に捕獲しております。命令があればいつでも・・。」
「なに、まだ利用価値はある奴隷術式で縛っておけ。」
「ハ!、御意のままに。」
「ハハハハハハ!!、これで私が次の王になるのは確実。後は現国王さえどうにか出来れば。」
◇◆◇◆
「・・な!?、それはどういうことだ!!」
「申し訳ありません。私達が気付いた時には既に手遅れで・・・。」
「そんな!!、わ、私の子供が・・・・アアアアアアアア!!」
「・・セティ!!」
「・・王妃様!!」
「・・で、誰の手の者の仕業だ。」
「おそらく、王弟派の手のものと。」
「やはりか・・」
「ハイ。」
「クソ、あの欲に塗れた豚どもが。」