そのじゅうはち ~杏子亭の跡取り孫~
今回は大将の祖父母が登場します!
さて、一年生編を書き終わりまして、あと3話『そのにじゅういち』までになります。
それでずっと話数を増やしていくと、『そのひゃくにじゅうさん』とか見辛くなるので、一つの章が終わるゴトにまた『いち』からのスタートになるのでよろしくです
それでは本編へどーぞ
俺は富士山と鳩と遊び終わって、家に帰って来た。
「ただいまって、家開いてねぇな」
家が開いていなかった。それは今の俺にとっては大ピンチであった。
「鍵も今日はねぇしなぁ~。待ってるか」
諦めて座っていると、じいちゃんが運転している軽トラがやって来た。
「乗れ」
「分かった」
「大、すまんかった」
「いや、俺も今帰って来た所だったから大丈夫」
じいちゃんは寡黙な人だ。笑顔を見たことはない。
自分の伝えたいことを端的にしか伝えず、俺とかばあちゃんが話しかけても「ん」とか「あぁ」とかしか反応してくれない。悪くいえばコミュニケーション不足な人なのだ。
「着いたぞ」
「ありがとう」
「ん」
「お帰り大ちゃん。ごめんねぇ、おばあちゃんね、大ちゃんが今日が鍵持ってないの忘れてたのよ~。だから五郎さんに向かえに行ってもらったのよぉ~。ありがとうね」
「そんなことより中入れ、飯食うぞ」
それに対してばあちゃんは、どんな人にも明るく話しかけるじいちゃんとは正反対の人間だ。
泣いたのは俺の親の葬式の時くらいしか見たことはない。
その時はじいちゃんも泣いていた。
「はい、じゃあ頂きます」
「頂きます」
「ん」
じいちゃんはうどん一筋で、町の小さなうどん屋を営んでいる。それがここ杏子亭なのだ。
じいちゃんが打つうどんは『武蔵野うどん』といって他のうどんとは違い、野性味がある麺に丸1日かけて作る出汁に絡めて食べる俺が食べた物のなかで一番美味しいものだ。
「五郎さん」
「どうした?」
「もうすぐ里美と晋くんの四回忌じゃない、今年こそは親戚みんな集めましょうよ」
「今は飯の時間だ。後にしろ。すまんな大」
「…うん」
俺の両親は俺がまだ保育所に通ってた頃に交通事故で死んだ。俺が夜中熱を出して、急いで夜間病院に向かっている最中に車がトラックと衝突したのだ。
俺は両親が覆い被さってくれたから右足が折れただけですんだが、両親は助からなかった。
あの時俺が具合が悪くならなければ、俺が死んでいれば、毎日そうやって自分を責めていた。
「大!」
「なに?どうしたのじいちゃん」
じいちゃんが突然俺に怒鳴った。
「またお前は二人が死んだときと同じ顔になっていた。もうそんな顔はするなと言っただろ」
「ごめんなさい」
「はぁ。まぁとにかく飯を食え、俺は出汁を作ってくる」
「うん…」
この日の夕飯は悲しみの味がした。
淑子「五郎さん、次回予告コーナーですよ。」
五郎「あぁ」
淑「まぁとにかくね、最近店の前に鳩が巣をつくったのよ。卵を産んでたんだけど、昨日孵ったの。ぴーぴーぴーぴーって鳴いて可愛いのよ。
~中略~
大ちゃんが小さいころにも鳩が来たことあったわね。それで大ちゃんが「はこぽっぽー」って言って追いかけるんだけど『はと』って言えなくて『はこ』ってずっと言って、可愛くてねぇ」
五「はぁ、次回は『リーはどんぐりに釣られる』是非御覧ください」
淑「近所の佐紀保さんがねぇ ~以下略~」