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わたしはプリティー

作者: つぼこつぼ

 ネーミングセンス

 これは万人になくてはならないセンスだと思う。そして、名前というのは親から子供への最初で一番大切な贈り物だ。

 例えば、最初から最後まで優しさを持って欲しいという願いを込めて、優子とか。願いが込められた名前は大切にされて、子供も願いを知ればそれを目標にする事だってある。

 要するに、名前は人生を送るにあたってとっっっても重要なこと、だ。


 だから私は、自分の名前が大嫌いだ。


 私は春から高校生になる。

 今までからかってきたクソ男子どもが絶対に来れないところへ入学が決まった。

 何人もの大統領を世に送り出した私立名流学園、保育舎から大学まで厳しい試験を経て全ての過程を終了させたものだけが卒業し名を上げる。

 途中入学を許されているのは40名、倍率はもう聞きたくもない。それを私はくぐり抜けた!その自信だけが私を支えている!


「ご飯できたわよー!可愛い可愛い私のぷ」

「お母さん!!もう可愛いなんて子供に言うようなこと言わないでよ……」

「こんなに可愛いのに?やーよ私、こんな可愛い私のぷ」

「ごめんなさいもういいです」


 母親の言葉を遮り、玄関へと駆けた。

 あんな軽い感じのノリだからどうせ私が生まれた時もそうだったんだろう。未来で子供の性格が歪むとも知らないで!


 外へ出ると寒かった。卒業式間近の三月、マフラーは手放せないしカイロも毛糸の腹巻もつけている。

 高校が決まるまで憂鬱だった気持ちも、今では縁切り確定の喜びで「もう少しの辛抱だから、付き合ってやるか」なんて気持ちで登校出来る。

 あと少し、あと少しなんだからと。



 英単語の単語帳に目をやりつつ歩いていると、だいたい8時くらいに通学路で出くわすクラスメイトの野々美紀が今日も交差点の向こうに見えた。気づいてほしいのか、腕を大きく振っている。


「おーい!プリちゃーん!おはよー!」

「美紀ぃー!おはよー!」


 美紀は私にとってクラスメイト。そして親友であり、これからも一緒だ。美紀も綿の同じ学校を受け、そして受かることが出来た。というか、美紀が受かるのはほぼ確定だった。

 何せ春から通う私立学園は、美紀のお祖父さんが学園長をしていて、美紀はその学園の跡継ぎ予定だから…というのもあるし、野々家のお父さんは大手会社の経営者、お母さんは確か華道の家元?とかなんとか。私にはよくわからない世界だ。

 つまり、野々美紀は結構なご令嬢ということ。

 なんでそんなご令嬢が私なんかと一緒にいるのかなんて本当に偶然が重なったのと、野々家が気さくな人ばかりだったからだ。

 そして美紀は私の名前のことなんて気にしないし、気の許せる本当に大切な存在だ。


「おはよ、プリちゃん。この間も話したけど合格おめでとう!おじい様も喜んでたよー」

「いやいや、こちらこそこれからお世話になりますって言っといて。本当に嬉しいし」

「プリちゃん的には煩わしい奴らとも離れられるし、私はプリちゃんと進学先一緒だし、万々歳だね!」

「本当にね」


 その後は学校につくまで、卒業式の答辞が誰だとか、歌う曲だとか、そんな話をしていた。

 そして下駄箱までたどり着いたとき、あっ…と美紀が何かを思い出した。


「ねえねえプリちゃん。卒業文集もう提出した?」

「え?それ昨日までだよね。私は出したけど」

「そうだっけ?私も出したからいいんだけど…プリちゃんの作文だけ先に読みたかったなーって」

「なんで?」

「だって今度から寮生になるんだよ?すぐに読めないんだもん。卒業文集って入学式間際くらいに自宅に届くとか先輩が言ってたもん」

「あーー、なるほどねえ」


 上履きに履き替えながら、そういえば先生もそんなこと言ってたなぁ…なんて思っていると、背中に結構な衝撃が走った。途端に美紀が「田崎!!」と怒鳴り、辺りがざわついた。


「田崎あんたなんで叩くの!意味わからないから!!」

「はぁーーー?そいつがそこにいるからに決まってんだろ、意味わからないからー」

「意味わからない!そこにいるからって叩く理由にはならないでしょう!意味わからなすぎて意味わからない!!最低だよ田崎意味わからない!」

「美紀、美紀落ち着いて。意味わからない言い過ぎてちょっとよくわからなくなってる。私も分かんない」


 田崎聡彦。クラスのリーダー的存在で、何かと絡んでくる本当にうざったいやつだ。


「田崎くんもやりすぎだよ…痛かったし」

「は?お前に何しようと別によくね?変な名前つけられるくらいなんだからお前自身もどうせそんなもんなんだろ」

「田崎最低!!!行こプリちゃん」

「じゃーなプリちゃんまたクラスでなー!」


 美紀に腕を引っ張られ、直接保健室に連れていかれた。部屋にはちょうど先生がいて、美紀は先生に飛びつくようにして田崎のくだりの説明をし始めている。

 ひと段落したところで、私は椅子に座り、叩かれた背中を見せた。


「あーー、これは酷いわね。カバンに何か硬いの入ってなかった?丸いヤツ。左肩甲骨のしたくらいがあざになってるわ……」

「もう……田崎意味わかんない……!」

「美紀…ごめんって、泣かないで。ね?ね?」

「なんでプリちゃんが謝るのぉー……」

「野々も泣かない。湿布貼るからちょっと痛いかもしれないから」


 先生は患部にそっと湿布を貼ってくれた。下着との境目だったこともあり、すごい違和感を感じるが、どうやら患部に熱をもっていたらしく、湿布はとても気持ちよかった。


「とりあえずこれで様子見ね。時間が経って痛くなるようならすぐに言って。担任でもいいし、私でもいいし、位置が位置だからね。脅すわけじゃないけど、本当に心配ない程度だけどびっくりしたでしょ?」

「朝からすごい刺激だなとは」

「だろうね。とりあえず野々が落ち着いたら教室行きな、担任は誰?伝えておくから」

「剛田先生です」

「そりゃ怖い。……あんまり言っちゃダメだけど、1時間目は二人ともここにいな、剛田先生の怒号は響くし…野々も目を冷やした方がいい」

「羽毛田先生ありがとうございます」


 先生は、よいしょっと言いながら立ち上がり、職員室と保健室が繋がるドアへと歩いていった。しばらくして、剛田先生の声が聞こえたと思ったら、羽毛田先生が出ていったドアからノック音がし、剛田先生が入ってきた。後ろからは羽毛田先生が面倒くさそうに顎を掻いている。その顔は絶対に男性に見せないでください先生。

 剛田先生は私が座るいるの前にしゃがむと、どれくらい痛いのか聞いてきた。今は湿布を貼ったばかりで気持ちいいくらいだと伝えると、心配そうな顔で、眉が下がってしまった。普段はニコニコした体格のいいおじさん先生なのに、生徒のこととなると心配症でこうなるのか。


「田崎が叩いてきたというのと、あと名前について言われたと聞いたんだけどね…えっとね、」

「田崎のことは今更謝ってほしくもないので別にいいですよ、あと少しの辛抱だから大丈夫」

「辛抱の時点でいやだろうに…ごめんね、先生は怒ったり注意したりは出来るけど、田崎本人が変わろうとしない限り未然に防ぐことが出来ないんだ」

「大丈夫ですって先生!美紀がすぐに庇ってくれるし、何故か泣いてくれるし。目まで腫らすし」


 剛田先生は「そうか。野々は優しいもんなぁ」と美紀にも声をかけてから、もう少し落ち着いてから来なさいと言って、保健室を出ていった。


 しばらくして、怒号が聞こえた。


 保健室にいてよかったー、なんて考えてると羽毛田先生が髪をくくり直しながら聞いてきた。


「お家に連絡する?」

「いや、いいです。帰って報告します」

「そう。いや、いい感じにサボる口実になるわよってことをね」

「羽毛田先生悪い先生。生徒になんてことを言うんですか…まったく、教師がそんなことでどうするんですか!あいててて、急に湿布貼ってるところが痛みだして…」

「おい半仮病生徒。でもねえ、教師の立場からすれば、今日は卒業式の予行演習があるから残っててほしいけれど…私個人としては、また来た時にやられないとも限らないし、次くるのは卒業式って手もあるわよ。内申なんて響かないし、正直なところ、田崎以外にもいるでしょ…無神経な子が」

「そうですよ!田崎以外だって三浦とか花岡とか…本当に男子意味わかんないし…」


 それもそうだ。受け流してるし、美紀がいるから大丈夫だけど、私をからかってくる人なんてクラスの中でほとんどだろうし、辛抱するくらいなら休んでいいと言われて、とても楽だと思った。名前は挙げていないけれど、女子も少なからずバカにしてくる人はいるし。


「本当にいいんですか?」

「いいわよ、剛田先生だってわかってるし。あーー、からかいとかを黙認ってわけじゃないからね?一番被害が少なくて、学校に無理矢理来させるよりも……今まで頑張ったんだからあとは休んで、卒業式に最高に笑顔見せて欲しいだけだから」

「羽毛田先生……いい先生……」

「今気づくのは遅いわよ!野々も一緒に休んじゃってもいいから、あんた達は名門校に行くんでしょ?家で自分に合った勉強でもしてな。準備も大変だろうしね。電話して迎え呼ぶから番号書きな」

「先生!迎えならうちが送るのでプリちゃん家は連絡だけで大丈夫です!」


 羽毛田先生は保健室から、まず私の自宅に電話をかけた。


「もしもし、私、公立……あ、高田さんのお母様ですか?ええ、はい…それで登校した時に怪我をしてしまいまして、えっ?あっちょ………切られた」


 多分とても慌ててしまった母に勢いよく切られたんだろう、羽毛田先生は耳をマッサージしながら困惑している。

 美紀が隣に来て「マリエさん来ちゃうね」と耳打ちしてきたが、電話掛けるってところで薄々そんな気はしていた。


「嘘でしょ……性格全然にてなさそうじゃないの」

「えっ先生プリちゃんのお母様見たことないんですか?プリちゃんとマリエさんって結構似てますよ」

「そうなの?」

「そうですよ!だってプリちゃんは」


 その時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 バタバタと足音でわかる慌てきった様子で、保健室の扉がガラガラと開いた。


「プリティ!!」

「お母さんうるさい!」


 同じ、濃い栗色のストレートロングとふわふわとした天然のパーマが重なり合う。涙を蓄えたつり目がちなアーモンドアイと、本当に勘弁してくれと困っている同じアーモンドアイ。


「本当に結構似てるな…」

「ですよね!だってプリちゃんは、マリエさんよりもとっても可愛い女の子になるからって意味で符梨帝(ぷりてぃ)って名前になったんですから」

「……ガッツリ当て字ね」

「でも似合ってますよ?可愛い」

「まあ、苦にならないなら、ね」





自分の名前について考えるという授業をしたことがある人って、多いと思うんですが、当て字でも意味のある漢字を使ってほしいなと思ったので。

この小説自体はフィクション、コメディーとして割り切って頂けるとありがたいです。

連載にしようとして断念やめとこ作品でした。ありがとうございました!

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