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据え膳食わぬか剣拳士!? キルフ・オリアの悲しき過去!

 村に戻ってからは大騒ぎだった。

 あの山賊達を一人残らず全滅させたという話を聞くなり、村人達は一斉に馬に飛び乗って、近隣の村々にその事を伝えに走った。

 こんな夜間に他の村に向かうだなんて、いつもなら絶対に有り得ない話。

 運が良ければ山賊に殺され、運が悪ければ村からの逃亡を誤解されて村が襲撃される。

 そんな自殺行為。

 だからこそ、この話には何よりも真実味があった。

 そして、その話は伝言ゲームの様に次々広まっていき、村々の人々はその英雄を一目見たい、そして山賊達に怯えずに済む夜道を歩いてみたいと、拳士達のいる村に続々と集まっていった。

 最初はそれらをニコニコと迎えていた拳士達だったが、いつまで経っても新しい人間が挨拶しに来続けて、これではキリが無いと途中で村長の家に逃げ込んだ。

 村長の家の二階に就寝場所をあらかじめ用意してもらっていたので、そこに少しの飲み物と食事を持ち込んで、サヤやコラール隊の面々と静かに二次会をする事にした。

 村では朝まで祭りが続くらしい。

 拳士が窓から外を覗き見ると、集まった人々が多過ぎて村から溢れ、村の外にも火を焚いて騒いでいる。

 皆夜も遅いのに本当に元気だ。

 それ程までに今回の事が嬉しかったのだろう。


「……で? お前はさっきから何なんだ?」

「何がぁ~?」


 髪を下ろし、上と下、着ている物が黒い薄生地の下着一枚ずつのみという扇情的な恰好で、オリアが拳士にしなだれかかる。

 手には果物を発酵させた飲み物が入った、木のカップ。

 下着は、布面積が極端に少ない露出の多い物。

 今も、拳士の腕に押し付けられ柔らかく形を変えている大きな胸と、脚に擦り付けられている下半身が、大変な事になっている。

 このまま少し拳士が腕や脚の位置をズラすだけで、オリアの健康的で魅力的な肢体は、下着という束縛から上下共に一気に解放されるだろう。


「ほらぁ~、あんたも飲みなさいよ~」

「…………」


 寄せられた体からは少し独特ないい匂いがする。

 最初はこの世界の香水か何かかと思ったが、どうやらそれはオリアの体臭の様だった。

 汗の滲んだ肌がランプの明かりに照らされて、妙に艶めかしく輝く。

 いっそこのまま押し倒してやろうかと拳士は何度も考えたが、酔っていたり意識がはっきりしていない相手に手を出すのは、フェアじゃない。

 グッと堪える。


「……お前、少し酔い過ぎだ。こんな恰好で男にこんな事して、襲われても文句言えねぇぞ? ……おい、そこの隊長さん。あんたんとこの部下だろ。何とかしてやれ」

「あはは、はーい」


 拳士に言われると、その様子を先程からずっと楽しそうに見ていたエリゼがソファーから立ち上がり、オリアの頭を優しく撫でる。


「ん~? 隊長何ぃ~?」


 その時、何か魔法をかけたのだろう、オリアの体から急にガクッと力が抜け、拳士が慌てて支える。

 どうしたのかと顔を見ると、オリアはぐっすりと深い眠りについていた。


「ごめんね、ケンシ君。オリアちゃんも悪気があった訳じゃないの」


手を合わせて拝む様なポーズでエリゼが謝る。


「いいさ。別に怒っちゃいない。たまには羽目を外したくなる事もあるだろう。むしろ、俺としては良い目の保養にもなったし、感触も最高だった。役得だ」


 からかうように、ケンシ君のエッチーと言うエリゼにニッと笑顔で答えると、拳士は眠りについたオリアを抱き上げ、サヤが寝ているベッドのサヤの隣におろし、二人に布団をかけた。

 赤鬼は二階に上がって早々隣の部屋に行ってしまったので、今はエリゼと二人きり。

 エリゼとテーブルを挟んで反対側のソファーに拳士が座る。


「あいつが起きたら、お前酒癖すげぇ悪ぃから飲む時マジで気をつけろと言っておけ」


 だが、エリゼがゆるく首を振る。


「あれは違うんだよ、ケンシ君。オリアちゃんはお酒弱くない。今回はわざとガブガブ飲んで、自分からベロベロになって誤魔化して、ケンシ君に恥ずかしいの我慢してアピールしてたんだよ」

「は? アピール? 何のだよ」


 オリアが拳士に恋愛感情を抱いていない事は、拳士にもわかる。

 では、何故か?


「お礼、かな」

「お礼?」

「うん、そう。お礼。山賊達をやっつけてくれた事に対して、オリアちゃんはお礼がしたかったの」


 エリゼの話によると、オリアは幼い頃、あの山賊達が支配する村の一つで暮らしていたらしい。

 山賊達に毎日怯える生活ではあったが、生活自体は一応ある程度安定していた。

 変化は、その村の村長が亡くなり新しい村長が就任した時だった。

 いつまでもこんな生活を続けるなんてまっぴらだ、と若い村長は独断で、国に助けを求めてしまったのだ。

 気持ちはわからないでもないが、そんな事をすればどうなるか。

 結果、国からの助けが来る前に村は焼かれ、村人達は皆殺しにされた。

 ただ一人、オリアを除いて。

 オリアは殺された父親の死体の下に自ら潜り込み、山賊達から身を隠したのだ。

 大柄な父親の体は幼いオリアの体をスッポリと隠した。

 そのおかげでオリアは気付かれずに済んだのだ。

 そして、見た。

 国から遅れてやって来た討伐隊の兵士達が、山賊達と顔をあわせるなり斬りかかるのではなく、親しげに話をして金の受け渡しをしていた所を。

 そう、この山賊の農場システムは、実は全て国が容認していた事だったのだ。


「……山賊達が強かったのは当然。メンバーの一部に帝国の軍人が混ざってたんだから。国が本腰を入れて討伐にあたらなかったのも当然。最初から討伐する気なんて無かったんだから」

「そういう事だったのか。ひでぇ話だな」

「うん。それで、幼いオリアちゃんはその後、山賊達がいなくなるのを確認してから、家で血まみれの服を着替えて、村の外で遊んでいたおかげで運良く生き延びられましたという顔をして、討伐隊の兵士達に保護してもらったの。まずは生き残る事を最優先として、山賊達と兵士達の関係については一切口に出さなかった」


 それから、山賊達への復讐を誓ったオリアは、帝国で軍人を目指す孤児として育った。

 明確な目的意識を持って自身を鍛え続けた為、かなりの腕を持つ剣士へと育ったのだが、山賊達への執着心があまりにも強すぎる為扱いづらいと、コラール隊に配属される事となった。

 オリアには、帝国と山賊達との間に繋がりがあった事への不信感もあった。

 その不信感から来る忠誠心の低さも、コラール隊に送られた要因の一つだった。


「その話を聞いて、私も上層部からの意向は無視して山賊達を討伐する方向で動いてたんだけど、何せ逃げ足が早くてね。帝国からも遠回しに嫌がらせされるし、どうにも上手くいかなかったの」


 そんな時に現れたのが、拳士達だったという訳だ。


「山賊達への復讐は、オリアちゃんにとって本当に人生の全てだった。それこそ、例え自分の身がどうなったとしても、山賊達を倒せればそれで良いって位にね。だから、それを叶えてくれたケンシ君にオリアちゃんは、感謝してもしきれない位の恩義を感じてる。そこで、今オリアちゃんが出来る最大限のお礼って事で、オリアちゃんはケンシ君に体を許そうとしたって訳」

「なるほどな」


 拳士がオリアの行動の意味を理解する。


「じゃあ、遠慮無く……と言いたいところだが、やめておく」

「どうして?」

「どうして、だって? 俺より付き合いの長いエリゼならわかるだろ?」

「?」

「オリアはイイ女だ。それも、かなり極上のな。そんな最高の女を抱くのに、復讐だのその礼だのくだらない不純物を混ぜちまっちゃ勿体ねぇじゃねぇか。どうせ抱くならゴタゴタは一切抜きにして、ただの男と女として、抱きたい抱かれたいと思った時だ。そうじゃなけりゃ俺は、キス一つする気も無ぇよ」


 お前は年下の子に一体何を言っているんだと言いたくなる光景だが、エリゼも隊長として色々な人と話す機会があったのだろう。

 特に顔を赤らめる事も無く、そうですか、と一言平然と言い、普通に頷いていた。

 その表情はどこか、安心したようでもあり、嬉しそうでもあった。


「そういや、話は変わるんだが」

「?」

「直接見ただろう? 大剣神の事を。それで、どうだ? 見て、何かピンと来る物は無かったか?」


 そう。

 二人はまだ、話の途中だった。

 話の途中で、山賊討伐に向かったのだ。


「うん。見て、少し気になる事はあったよ」

「本当か!?」

「異世界が云々に関してはまだよくわからないけれど、ダイケンジンについては、実際に見てわかった事があるの。あの機械の巨人。あれと似た物が、私達の世界にもある」

「何?」


 元の世界に戻る方法について直接のヒントにはならないかもしれないが、それはそれで気になる話だった。


「私も直接見た事は無いんだけど、北の国に魔法機兵っていう、ケンシ君のダイケンジンみたいな機械の巨人がいるって話を聞いた事があるの。それがもしかしたら、ダイケンジンと同じ物かもしれない」

「魔法機兵?」


 聞き慣れない単語。

 詳しく聞きたいが、エリゼもあまり魔法機兵については詳しく知らないらしい。

 知りたければ、帝都にあるエリゼの実家や図書館から、参考になりそうな書物を探して来るしか無いそうだ。


「オリアちゃんじゃないけど、私もケンシ君には感謝してるし、明日村を出て探してこようか? 戻るまでに何日かかかるかもしれないけど、滞在費については私達が持つし」

「いや、いい」

「いいの?」


 拳士が親指を立て、ビッと自分に向ける。


「待つのは性に合わない。俺もその帝都まで、一緒に行くぜ」

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