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新たなる出会い! その名はコラール隊!

「さぁ、どうぞこちらもお食べ下さい、ケンシ様」

「おう、悪ぃな!」

「ケンシケンシ、これ凄く美味しいよ!」

「お気に召しましたか? サヤ様」

「お気に召しました!」

「では、すぐに同じ物を追加で持って来るように言いますね」

「うん、ありがとう! ジャンジャン持ってきちゃって!」


 日は大分落ちてきているが、村の中心で焚いている大きな炎のおかげで辺りは明るい。

 拳士とサヤの前にはご馳走が盛られ、二人の横には村の若い女性達が寄り添い、甲斐甲斐しく食事の世話をしている。

 山賊を追い払ってくれた事へのお礼と、歓迎の祭りだった。


「これは何の肉なんだ?」


 大きな動物の丸焼きから切り分けられた肉を指さして、拳士が聞く。

 少し筋張って固く、豚や鶏に比べると独特の臭いがあるのだが、悪くない。

 噛みしめれば噛みしめる程旨味が出てくる。


「こちらは、馬の肉で御座います」


 ニコニコと機嫌良さそうに微笑む村長が、直々に教えてくれた。


「馬?」


 馬の肉は以前に食べた事があるが、全然違う味だった。

 拳士が不思議そうな顔をすると、サヤが理由を教えてくれた。


「あー、ごめん。これ翻訳機能のミスだ」

「翻訳機能のミス? どういう事だ?」

「こっちの世界でも言葉が通じる様に、自動翻訳かけてるんだけどさ。わかりやすいようにと思って、地球と似た扱いの物に関しては同じ名前で呼ぶようにしてるんだよ」

「じゃあ、この馬ってのは?」

「うん。地球での馬と同じ様に扱われてる動物がいたから、それを馬って呼ぶようにしたんだけど。逆にわかりにくくなっちゃったかもしれない」


 実際にその動物を見せてもらうと、体型こそ確かに馬だが、顔はどちらかというと馬より鹿に近く、長い耳が垂れ下がって何とも不思議な姿の生き物だった。


「どうする? 名詞とか全部こっちの言葉に直す?」

「いや、いい。そっちの方が面倒だ。俺は横文字覚えるの苦手だしな。今のままでいい」


 そう言って拳士が馬の肉にかぶりつく。


「さぁ、皆さまもどうぞ召し上がってください」


 村長が勧める。

 勿論、先程から全く何の遠慮もなく、ガツガツと食べ続けている拳士とサヤにでは無い。

 先ほど現れた、妙な三人組に対してだ。


「いえ、私達は……」


 水色髪の少女が、やんわりと遠慮する。

 三人は先程から、飲み物に軽く口を付けた位で、食べ物には全く手を付けていない。


「……で? 結局お前らは何なんだ?」


 手直にあった何かの根菜をかじりながら、拳士がその三人に聞く。


「私達は!」

「「!?」」


 すると、突然白い髪の少女が立ち上がった。

 急に大声を出されて拳士とサヤが少し驚く。


「リュヴァス帝国の特殊遊撃部隊、コラール隊です!」

「「………………」」


 拳士とサヤが、さっぱりわからんという顔をする。


「…………座って下さい隊長。私が代わりに説明します」


 水色髪の少女が白い髪の少女を座らせ、改めて説明し直す。


「えー、コホン。……改めまして。まず最初に、まだ私の名前も教えて無かったわよね。私の名前は――」

「俺の名前は剣拳士だ! 宜しくな!」

「私の名前はサヤだよー、宜しくねー」

「私はリュヴァス帝国の特殊遊撃部隊、コラール隊の隊長、コラール・エリゼです! エリゼって呼んでね!」

「………………」


 水色髪の少女が出だしを挫かれる。


「……わ、私の名前は――」

「おう、宜しくな、エリゼ!」

「エリゼ宜しくー」

「うん! 宜しくね! ケンシ君、サヤちゃん!」

「………………………………」


 赤い鎧の戦士が、ポンポンと落ち着かせる様に、水色髪の少女の背を優しく叩く。


「…………えー、と!」


 バン! とテーブルを強く叩き、水色髪の少女が視線を自分に集める。


「私の名前は、キルフ・オリアと言います!」


 若干キレ気味だった。


「どっちが姓だ?」

「え?」

「キルフとオリア。どっちが姓なんだ?」


 急に妙な事を聞かれて、少しだけ驚く。


「そりゃ、キルフ、だけど?」

「そうか」


 ここは日本と同じように、名乗る時『姓・名前』の順で言うのが基本らしい。


「なるほどな」

「?」


 不思議そうな顔のオリアを放置し、拳士が一人納得顔で頷く。


「そして、こっちは赤鬼さんでーす!」

「もう、隊長っ」


 再度オリアを差し置いてエリゼが言うと、赤い鎧の戦士が立ち上がり、浅く頭を下げ、すぐに座る。

 赤鬼というのがまさか本名では無いだろうが、こう名乗るのが自分達の知らない文化の一つなのかもしれない。

 あえて拳士とサヤはそこに突っ込まないでおいた。


「それで? さっきから何度も聞く……りゅばす? 帝国? だかの、遊撃部隊? ってのは何なんだ?」

「それは――」

「それはね!」

「…………隊長」


 エリゼの話によると、この村を含んだ一帯は全て、リュヴァス帝国というとても大きな国の領内に含まれるらしい。

 そして、エリゼとオリアと赤鬼の三人は、そのリュヴァス帝国の領域内を好きに移動して、自由に行動する事が出来る特殊部隊の隊員なのだとか。


「それで、山賊達がこの村に向かっているらしいって話を聞いたから、こうして駆けつけた訳なんです!」

「…………ま、到着した頃には全部終わっていた訳だけど」

「ほー」


 骨に張り付いた肉を歯でむしりながら、拳士が相槌を打つ。

 三人が料理に一切手を付けていなかったのは、自分達が今回山賊退治に何も貢献していなかったかららしい。

 だが、三人は山賊の襲撃を聞くなりいつもこうして飛んできてくれるので村人達とは顔見知りで、村人達的には今回も遠慮せず是非料理を食べて欲しい様だった。


「この遊撃隊ってのも、話を聞いたら上への報告も無しにすぐ現場に直行できるから。そういう点は楽で良いんだけどね」


 オリアが言うと、エリゼが同意する。


「そうだねー。ただ、その代わりに重要な任務があっても私達の隊にはその情報が全然伝えられないから。手柄って意味だと全然立てられないんだけどさ」

「何でだ? 今回は俺達がいたからともかく、いつもなら他の奴らを出し抜いて、先に到着して山賊を追い払ったり出来るんだろ?」

「駄目なのよ、それじゃ」

「あ? どういう事だよ」


 オリアに否定され、こぶし大の林檎みたいな果物をかじりながら拳士が聞く。


「私達は、帝国に直接利益がある事をしないとほとんど評価の対象にならないの」

「こういう言い方は村の皆に失礼だけど……例えば、辺境の村人の命を百人分救うより、帝都に暮らす帝国の重鎮一人の風邪薬を走って買いに行く方が評価される、って感じかな?」

「はぁ? 何だそりゃ。無茶苦茶じゃねぇか」


 サヤが雑に食べた鳥肉の骨を皿から取り、まだ食べるとこいっぱいあるだろと、丁寧に骨から肉を外して食べながら、拳士が言う。


「無茶苦茶だとは私達も思うわよ。けど、そういうもんなんだから仕方ないじゃない」

「まぁ、さ。元々が私達、厄介者同士三人まとめられた問題児集団みたいなものだから。今更そういう評価気にしても仕方ないんだけどね~」

「…………隊長」

「はーい! はいはい!」


 すると突然、サヤが手を上げてアピールし始めた。


「どうした? サヤ」

「はい! 私そんな話どうでもいいんで、それよりおっぱいの話がしたいです!」

「はぁ!?」


 オリアが何言ってんだコイツという顔をする。


「あぁ、おっぱいか。お前おっぱい大好きだもんな」


 拳士が穀物を粉にして水で練って焼いた、パンみたいな物を食べながら頷く。


「おっぱいか……出番だね、オリアちゃん!」

「何ですか隊長!? やめて下さいよ!」


 エリゼがオリアの肩を叩くと、反対側の手で親指を立てる。


「あー……、そういや、オリアの方が年上なんだろ? なのにエリゼの方が隊長なんだな」

「どこ見ながら年上とか言ってんのよ! ……まぁ隊長はコラール家だしね。当然よ」

「コラール家?」


 拳士が詳しく聞こうとしたところで、またもサヤが手を上げる。


「はいはいはい! そういうの、いいんで! おっぱいの話しようよ! おっぱい! オリアのおっぱい触らせて!」

「本当何なのこの子!? ちょっと、あんた保護者でしょ!? どうにかしなさいよ!」

「サヤ。ちょっとオリアのとこ行って、好きなだけおっぱいトーク繰り広げてこい。俺はエリゼと大事な話するから」

「了解!」

「ふざけんな!」


 サヤをオリアに押し付けると、拳士がエリゼの横に座る。


「いらっしゃーい」

「おう」


 飲み物を勧められ、遠慮なく注いでもらう。

 ブドウみたいな果実を潰して、水と混ぜた後に濾した物。

 甘酸っぱくて少し渋みも感じるが、美味しい。


「それで? 私としたい大事な話ってのは何かな?」

「あぁ、それなんだが……」


 途中でサヤに話を中断されたが、さっきの流れだとエリゼのコラール家はとても大きい家の様だ。

 ならば、拳士達が元の世界に戻る為の情報を、何か知っているかもしれない。

 もしくは、そういう事を知っている人達への紹介を頼めるかもしれない。

 そう拳士は考えたのだ。


「んー……」


 だが、聞くとエリゼは困ったような顔で唸る。


「どうした?」

「どうしたって言うか……んー……」


 しばらく悩んだ後、言い辛そうに告げる。


「協力してあげたいのは山々なんだけど……何ていうかさ。異世界だとか、その、巨大……ろぼっと? とか。それの話が私、イマイチピンときてないんだよね」

「信じられないって事か?」

「ううん、信じてない訳じゃないよ? 実際に山賊達を全滅させちゃってるし。私達は何度もあの山賊達と戦ってるけど、彼らは本当に逃げ足が早くて、毎回逃げられちゃってたんだよ。それをたった二人で、こうして一人残らず倒しちゃったっていうんだから、きっと何かそういう物凄い力を持っているんだろうな、っていうのはわかる。そしてそのとてつもない力は、私達の知らない世界から持ち込んだ未知の力だって言われたら、力についても納得出来る。……けど、それにしたって話が現実離れしすぎてて……」


 三人には、興奮した村長や村人達が、拳士達がどうやって山賊達を倒したのかを既に伝えていた。

 けれど、その内容があまりにも荒唐無稽すぎて、三人は正直半信半疑だったのだ。


「確かに、こんな事実際に見なけりゃ信じられないかもしれねぇな……」


 その気持ちはわからないでもない。

 拳士だって、あんな魔法なんて物があるなんて、実際に見ずに口で伝えられただけじゃ信じられなかっただろう。


「あぁ、それと。山賊を一人残らず倒したってのは違うぜ?」

「え?」

「流石に人数が多くてな。一部には逃げられちまったんだ」

「そうなの? でも、山賊の住処も破壊したって……」

「住処は壊したぞ。ここから熱線が……じゃわかんねぇか。あー、あれだ。なんかそういう遠距離攻撃で、ここから壊したんだ。けど、ここから逃げてった山賊達については知らねぇな」


 それを聞いて、エリゼが真面目な顔になる。


「どの位の人数が逃げて行ったかわかる? 大体でいいから」

「ちょっと待ってろ。……おーい、サヤ!」

「なーにー?」


 オリアに「胸を触らせて下さい」と、真剣に頭を下げてお願いしていたサヤが、拳士の方を振り向いた。


「昼間の山賊、大体どれ位の人数に逃げられたかわかるか?」

「わかるよー。大体どころか正確に人数わかるよー」


 サヤからその人数を聞くと、エリゼが口元に指を添えて、多いかも、と呟く。


「何だ? 何か問題か?」

「ええと…………うん、問題かも」


 テーブルの上の物をよけて地図を広げると、赤鬼と何やら相談を始める。


「おいおい、何だ? 何か俺達マズったか?」

「んー……マズったというか……何というか」


 エリゼによると、住処を破壊された山賊達が、もしかしたらこことは別な村を今襲っているかもしれないとの事だった。


「あいつらの事、俺達かなり派手に痛めつけてやったぞ? しばらくは大人しくなるんじゃないのか?」

「……ううん、逆だね。今まで好き放題暴れまわってたからこそ、力の無くなった今、今まで買った怨みを返される事に怯えて、急いで力を蓄えたいと考える筈。メンバーが減って、拠点まで無くなった事で、かなり焦ってると思う」


 地図から、山賊の住処から一番近くにある小さな村を見つけ出すと、そこが最も襲われる可能性の高い場所だと判断して、向かう準備を始める。


「ケンシ君とサヤちゃんは待ってて。三人で行ってすぐに帰って来るから」


 エリゼは笑顔でそう言ってくれるが、拳士とサヤは何とも気まずい。

 オリアは小声で、間に合うかな、とか独り言を呟いている。


「……どうする? 拳士」

「……仕方ねぇだろ、俺達のせいだし」

「だよねぇ……」


 エネルギーがー、と頭を抱えるサヤの頭を軽く撫で、拳士がコラール隊の三人を呼び止める。


「あー、ちょっと待ってくれ」

「?」


 そして、振り向いたエリゼに言う。


「さっき言ってたよな? 巨大ロボットを見てないからピンとこないって」

「?」


 夜空の果てで、キラリと輝く小さな光。


「見せてやるよ、今ここでな」

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