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ここはどこだ!? 大剣神、異世界に降り立つ!

『……シ』

「…………」

『……ンシ、ケンシ』

「…………ん」


 どこからか聞こえてくる声に、拳士がゆっくりと意識を覚醒させる。


「サヤ……か?」

『ケンシ!』


 サヤが嬉しそうな声を出す。


『良かった! メディカルチェックは異常無しだったけど、全然目を覚まさないから心配したんだよ!』

「そうだったのか……それはすまなかったな」

『ううん、いいよ。目を覚ましてくれたならそれで』

「そうか」


 背筋をグッと伸ばし、全身に残る気だるさを解消すると、拳士がサヤに聞く。


「それで、だが」

『うん』

「今俺達は、一体どこにいるんだ?」


 コックピット内は外部映像を切っており、周囲の状況がわからない。

 大次元により、大剣神がどこか異次元に飛ばされてしまった所までは覚えている。

 だが、そこで拳士は意識を失ってしまったので、その後どうなったのかがわからないのだ。

 今自分達はどこにいるのか。

 時空の狭間を漂っているのか。

 それとも運よくどこかの世界にたどり着いたのか。

 たどり着いたとして、そこが宇宙のど真ん中や、地底や海底奥深く、仮に地上だとしても空気が無かったり、灼熱極寒の場所ならば、拳士は長く生きていられない。

 人が最低限生きるには、呼吸できる空気、そして栄養が摂取できる食物が必要なのだ。


『………………』

「サヤ?」

『…………それがね、ケンシ』


 サヤが言葉を濁す。


「……サヤ?」

『……ううん、自分で見た方が早いかも』


 サヤがそう言うと、外部映像を映すモニターが光る。


「…………っ」


 暗闇に慣れ、開いた瞳孔が、モニターのまぶしさに一瞬拳士の目を眩ませる。


「な……に?」


 そして、光に慣れ始めた拳士の目に映ったのは。


「森に……草原だと? 何だここは。地球なのか?」


 見渡す限り続く、緑の風景だった。


『凄いよね! 奇跡だよこれは!』


 はしゃぐサヤの声。


『最初に言っておくけど、ここは地球じゃないよ』

「そうなのか……」


 拳士が少しだけ残念そうな声を出す。


『うん。けどね、凄いの! 環境がほとんど地球と同じなんだよ! 多少気圧が高かったり空気の酸素濃度が低かったりするけど、人が暮らす上では全然許容範囲のレベル!』

「ほぉ、そりゃ凄いな」

『重力も多少地球よりは強いみたいなんだけど、これもこれ位ならケンシみたいな脳筋はすぐに慣れるだろうから、こっちも問題無し!』

「おい!」

『あー……ただね? ウィルスとかは完全に未知のものだから、下手にかかると危険。耐性無い分、風邪みたいにありふれた病気であっさり死んじゃうかも』

「何!?」

『けど大丈夫、心配しないで。変な病気にかからない様に、ケンシのナノマシンにダイケンジンで解析したウィルスとか寄生虫のデータを、常時送る様に設定しておいたから』

「おう。……よくわかんねぇけど、つまりは大丈夫って事なんだな?」

『うん』

「そうか、ならいい。ありがとよ、サヤ」

『うん!』

「それで、元の世界についてはどうだ? 戻れそうか?」

『んー……正直微妙。ダイケンジンは異世界に飛ぶ力、持ってないし』

「何でだ? 大剣神は違う宇宙から自分のところまでエネルギーを引っ張ってきてるんだろ? それの応用でどうにかならないのか?」


 大剣神は、剣神炉という無限動力炉を有している。

 無の空間に擬似的ビックバンを起こし、人工の宇宙、剣神界を作りだしてそこからエネルギーを得ているのだ。

 宇宙一個分のエネルギーを使用できる事、それこそが大剣神の無敵の力の秘密だった。

 ただし、剣神界から一度に持ってくる事の出来るエネルギー量には限界があり、常時全開のエネルギーで戦える訳では無い。

 無理をすると剣神炉が暴走し、剣神界と共に大剣神のいる宇宙ごと全てを消滅させてしまう。


『んー……。わかりやすく言うとさ。ダイケンジンと剣神界の関係って、最初に世界同士を繋げてから、以後常時繋がりっぱなしにしてる状態なんだよ。だからこういう事が出来るの。必要に応じて、違う宇宙への入り口をパカパカ開けたり閉じたりしてる訳じゃないんだよ』

「そうなのか……。クソッ、じゃあ打つ手なしって事かよ」

『勿論元の世界に戻る方法については探ってみるつもりだけど……それよりまずは、ダイケンジンを万全の状態に戻してあげないと』

「何? どういう事だ?」

『忘れたの? ダイケンジンはダイジゲンとの激しい戦いを終えたばかりなんだよ? 変な所に飛ばされても大丈夫な様に、最低限外部装甲だけは自己修復機能で優先的に直しはしたけど、中身も酷使した剣神炉も、もうボロッボロ。エネルギーも少ないし、しばらくは休ませてあげなきゃ』


 拳士の思っていた以上に、大剣神の状態は悪いらしい。


『ところで、どうする? 一旦降りてみる? センサーで周り調べたけど、危険な生き物とかもいなさそうだし』

「そうだな。ずっと大剣神に乗りっぱなしだったしな。そろそろ一度、外の空気を吸いたいところだ」

『だったら…………ん?』

「どうした?」

『凄い! 人間だ! 人間がいるよケンシ!』

「何!? 本当か!?」

『うん!』

「場所は? ここから近いのか?」

『んとね。歩いたら遠いけど、ダイケンジンで飛べばひとっ飛びの距離。つまり、近い!』

「おぉ!」

『ただ、文明レベルが私達の世界と比べれば何百年も前って感じ。こんな巨大ロボットで会いに行ったら、皆ビックリして心臓発作起こしちゃうよ』

「そうか。じゃあ仕方ねぇな。一旦近くまで大剣神で行ってから、後は歩くか」

『うん、そうした方がいいかも……ちょっと待ってね。今、彼らの会話の音声を取り込んで…………あー!』

「うるせぇな! 今度は何だ?」

『人のいる所まで飛ぶよ! ケンシ!』

「はぁ!? お前今大剣神で行ったら驚かせるから駄目とか自分で――」

『悪者だ! 悪者がいるんだよケンシ! 悪者に村が襲われてる!』

「何ぃ、悪者だと!?」

『うん!』

「ならばよし! 行くぞ!」

『了解!』

「大剣神、発進だ!」


 大剣神が、飛翔した。







        *







「おらおらぁ! 逃げろ逃げろぉ! ヒャハハハハハ!」

「た、助けて、助けてくれ……ひっ、ギャァァアア!」

「はーい、頭パックリいきましたー! ヒャヒャヒャヒャヒャ! 次はどいつだぁ~?」


 深い森の奥の小さな村に、ならず者達の暴虐の嵐が吹き荒れる。


「ひぃぃいい!」


 逃げ惑う中年男性の首を巨大な斧が斬り落とし、


「キャァァァアアア!」


 建物に逃げ込もうとした中年女性の心臓を、鋭い矢が貫く。


「おいおい、あんま殺し過ぎんなよぉ? いつもみてぇにある程度ぶっ殺したら引き上げだ!」

「わかってるよ! ……ヒヒヒ、また村が再建した頃に来てやるからなぁ?」


 彼らは、山賊。

 街道を行く旅人や、ここの様な小さな村を襲い、殺し、金品を巻き上げるのだ。

 だが、彼らはただの山賊とは少し違う。

 村を襲う際、廃村にする程奪いはしないし、殺しもしない。

 永続的に奪い続ける為、適度に加減をするのだ。

 村が大きくなり、襲い辛くなる前にこうして定期的にやってくる。

 そんな生活に耐えられず、村人が違う村に逃げようとすれば、逃げる途中で殺される。

 そして、殺された村人が住んでいた村にやってきて、連帯責任だと親類縁者を皆殺しにする。

 責任が自分以外にも及ぶと知れば、村人達は違う場所に移り住む事も出来ない。

 こうしたシステムによって安定した収益を得られる一帯の事を、山賊達は『農場』と呼んでいた。


「村長!」


 若者が村の村長に訴える。


「見て下さいよあいつら、許せねぇ! 好き勝手やりやがって……!」

「主の気持ちはわかる。だがわしらにはどうしようもないのだ。すまない、耐えてくれ……」

「で、ですが!」

「耐えてくれ。すまぬ、すまぬ……」

「村長……」


 それに対して、ただ耐える様に言う村長。

 実際、どうしようもないのだ。

 相手は人数が多く、おまけに並みの山賊とは比較にならない程実力者揃いで、強い。

 ある村では金を払い、用心棒として腕が立つと有名な傭兵団を雇った。

 だが、傭兵団はあっさりと敗北。

 村人含め、一人残らず皆殺しにされてしまった。

 国に討伐を依頼しても、山賊達は地の利を生かし上手く逃げおおせ、ほとぼりが冷めた頃に戻ってくると、国に討伐を依頼した村へ行き、村人達をまたも皆殺し。

 すると国も、依頼元がいなくなったという事で、討伐隊を撤退させる。

 山賊達は自分達に反抗的な態度をとった村に対して、必ず厳しい報復措置をとった。

 逃亡を許さず、反抗も許さない。

 そうした事が何度も繰り返されるうちに、農場の村々の長達は、余計な事さえしなければ最低限村は維持できるという事で、村人達に一切の抵抗を禁じた。


「すまぬ…………すまぬ……」

「村長……」


 そんな時、一人の山賊が妙な声を上げた。


「あっれ~、何かなこれはぁ~?」


 どうやら何かを見つけた様だ。


「!? そ、それは! お、お待ち、お待ちくだされ!」


 それを見て、村長が慌てる。


「おーい、お前らぁ! 見てみろよぉ! こいつら地下室なんて作ってやがったぜぇ~?」


 井戸の横に作ってあった、木製の足場。

 それを壊すとその下に、なんと地下へと続く梯子の入り口があったのだ。


「んだよぉ~、よく見たらこの井戸、中水入ってねぇじゃん。完全に干上がってるぜ」

「はぁ~、なるほどねぇ~。カモフラージュかぁ。確かに地下水湧く井戸の近くに、地下室作ってるとは思わないよなぁ」


 中には村の子供達が隠れており、山賊達を見上げ震えている。

 せめて幼い子供達だけは守りたいと、村人達が行ったささやかな抵抗だった。


「おーい、どうするこれ~?」


 発見した山賊がにやにやしながら聞くと、他の山賊達も楽しそうな顔をしながら集まってくる。


「お、お許しください! 決して、決してあなた様方を欺くつもりがあった訳では無いのです! お許しください! 子供達だけは、子供達だけはお助け下さい! お願い致します!」


 村長が駆け寄ってきて、地面にへばりつき、頭を下げる。


「やっぱこういう時はさぁ。火でしょ、火! 火つけようぜ!」

「はぁ? もう火あぶりなんか見飽きたっての」

「ちっげぇよ、馬ー鹿。ガキに直接火つけるんじゃねぇよ。中で火燃やして、蒸し焼きにすんだよ。蒸・し・焼・き!」

「蒸し焼き? ……あはははは! 確かに面白そうだな、それ! それだと簡単に死にそうにねぇしな! ガキ共がもだえ苦しむのを見るのも悪くねぇ!」

「よし、決定! やろうぜ、それ!」


 言うと山賊達は、楽しそうに木造の小屋や柵なんかを破壊し始め、火をつける薪代わりになる物を集め始める。


「うわぁぁああん!」

「ふぇ、ふぇ……」


 地下室の子供達も、自分達がこれから酷い目に合わされるのだと理解し、怯え、泣きはじめる。


「ひひひ、可哀相だね~? けど……残念! み・な・ご・ろ・し! こんな姑息な事しないで、大人しく逃げまわってりゃ何人かは助かったろうにな~?」

「あひゃひゃひゃひゃ!」

「お、お止め下さい! で、でしたらこの、この老いぼれの命で、どうか!」

「あぁ? 爺死んだところで何が楽しいんだよ」

「そうそう。つーかお前村長だろ? お前殺したらまた村が直るまで時間かかるだろ」

「良かったなぁ? お前が死ぬ事は無いってよ!」


 ガツッ、と山賊が村長の頭を踏む。

 村長の髪の生えていない頭に、靴の跡がつく。


「つーかうっせぇんだよさっきから! 人が面白れぇ事やろうとしてんだから水差すなや! ガキなんざまた作りゃいいだけだろ? 若い女も男もいくらか残してやってんじゃねぇか。…………そうだな。なんなら俺達が手伝ってやってもいいぜ? ヒヒヒヒ!」

「そ、そんな……」

「せーの、っと!」


 ガラガラガラ、と地下室に木材が投げ込まれる。


「おーい、そろそろ火つけんぞー」

「いぇ~い!」

「あ、あぁ……」


 村長が涙を流し、地面に顔を伏せる。


「いやぁ! いやぁー!」


 中に自分の子供がいる母親が、助けに行こうと手を伸ばす。


「堪えろ! …………堪えるんだ!」


 それをその夫が羽交い絞めにして、止める。

 他の村人達も悔しそうに涙を流しながら、お互いを制し合う。

 例え今止めに入っても、何の意味もなさない。

 犠牲が一人分増えるだけ。

 村長の言う通り、今は耐えるしか無いのだ。


「おい、見ろよあれ!」

「ひゃはははははは!」


 そんな村人達の様子を見て、指をさして笑う山賊達。


「きひひひひ! 安心しろよ! ガキの死体はこのまま置いてくからよぉ! 後から好きなだけ抱きしめてやれ!」

「うわぁぁぁああ! 離して! 離してぇ!」

「くそぉ! くそぉ!」


 諦念、諦観。


「ひひひひひひ!」

「ぎゃはははははは!」


 この地獄は、自然災害と同じ。

 力無き者に、抵抗なんて出来はしない。

 ただ去りゆく事を、待つしかないのだ。 

 



 だが――




『そこまでだぜ! 悪党共!』




「あぁ?」

「おい、何だ今の?」


 そんな、自然災害を一息で蹴散らす様な。

 とてつもない力と意思を持った者が、ここにいる。

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