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二人が出かければ単なるデートで済みはしない! エイミイの不審な発言とトラブルメイカー剣拳士!

 宿を出ると、行くあても無くぶらぶらと歩き出す二人。

 空は快晴。

 遊ぶにはもってこいの天気だった。


「サヤに頼まれた?」

「うん、そう。昨日サヤちゃんに言われたの。『最近ケンシが私に気を遣って部屋から一歩も出ないから、気晴らしにどこか遊びに誘ってあげて~』って」

「はぁ? サヤの奴何言ってんだ? お、俺は別に気を遣ってなんかねーし。外出る用事が無かったから出て無かっただけだし」

「……なんかツンデレっぽいセリフだね、拳士君」

「ツンデレ!? そんなんじゃねーよ!」

「あははは! まぁまぁ、たまにはいいじゃないこういうのも。折角だし楽しもうよ」

「…………まぁ、たまにはな」


 拳士が頷く。


「そういや、お前自分の仕事は良いのか? 人形売るんだろ?」

「あら、私の心配してくれるの?」

「ちゃ、茶化すなよ」

「あはは、ごめんごめん。そっちは大丈夫だよ。と言うか、売ろうにも在庫分もうほとんど売り切っちゃったからね。そもそも売る物が無いんだよ」

「やっぱりあれ手作りだったのか」

「うん。材料自体はそうでも無いけど、一個作るのに結構時間かかるから、あんまり沢山は用意できないんだ。だから単価も結構高めにして売ってたんだけど、流石帝都。子供のおもちゃなのに皆お金持ちだね。売れ行き上々でホクホク」


 エイミイの話によると、田舎や小さな町で売る時はギミックを少なくしたり、いっそ無くしたりして、作るのに手間のかからない単純なつくりの人形を大量に作って安価で売ったりと、町ごとに売り方を色々工夫するらしい。

 むしろ同じ人形でも、町の裕福さを見て値段を上げたり下げたりするという。


「色々考えてるんだな」

「まぁね。後……」


 エイミイがクルリと拳士の前で一回転する。


「服が思ったよりも高値で売れたからね。その臨時収入のおかげで無理に人形を売る必要も無いんだ」


 エイミイの服装が変わっていた。

 元々彼女が着ていた服に使っていた毛糸が、実はかなり貴重な素材だったらしく、それをエリゼに頼んで価値がわかる人の所に売って貰ったのだ。

 エイミイも自分の着ている服の価値は知っていたのだが、どうせ売るなら出来るだけ高く買い取ってもらえるように、ここ帝都の様に大きな町で売りたいと考えていた。

 更に、どうせ売るなら一般人相手では無く、より高く買い取ってくれそうな富裕層に売りたいと思っていた。

 だがエイミイでは富裕層の住む区画に入る事は出来ない。

 そこで、エリゼを拳士に紹介してもらい、代わりに売ってきて貰ったのだ。

 ついでに、エイミイの作った人形についても富裕層の子供達に宣伝してきて貰った。

 エイミイの人形があっという間に売り切れたのは、そのおかげもあったらしい。

 そして今エイミイは、今まで着ていた服の代わりに襟付きのブラウスを着て首元にネクタイを締めている。

 真っ白なローブも袖は通しているが、フードは被らず前も開いたまま。

 拳士が最初に出会った頃とは、見た目のイメージが大分違っていた。


「って、私の商売の話はいいんだよ。それよりさ、拳士君」

「ん?」

「私人形売りながら、ちょいちょい帝都の人と話したりするんだけどさ。…………拳士君最近、悪い事して小金稼ぎしてない?」

「………………な、何の事だ?」


 明らかに怪しい態度で拳士が目を逸らす。


「最近外壁の外で噂になってるんだよねー。『赤マントの当たり屋』。知ってる? 夜、柄の悪そうな人にわざと絡まれに行って、絡まれたら大喜びで返り討ちにして、身ぐるみ剥いで有り金全部奪っていくらしいよ」

「…………へぇ。そりゃひでぇ奴がいたもんだな。けど、赤いマントの奴なんて俺以外にもいくらだっているだろう? 赤マントって共通点だけで俺だと言われても困る」

「まぁね。けど、ただのならず者やごろつき相手とは言え、襲われた人の中にはかなり腕の立つ人も多かったんだよ。そんな人達を笑いながら遊び半分でボコボコに出来て、かつここ最近この帝都にやってきた人なんて、私の知る中では拳士君しかしないんだよね」

「…………」

「あれ、拳士君でしょ」

「…………何の話だか、さっぱりだな……」

「宿のおかみさんが言ってたよ。最近拳士君が宿代自分で払い始めたって。そのお金はどこから出て来たんだろうね?」

「…………さぁ」

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………サヤには、黙っててくれ」


 はぁ、とエイミイがため息をつく。


「同じ部屋で寝てるんだから、もう気付いてるんじゃない?」

「いや、多分気付かれてない。あいつ、一回寝たら地震起きようが雷落ちようが、朝まで絶対に起きない奴だから」

「そうなんだ。…………まぁ、黙ってるのは別にいいけど。でも、条件が一つ」

「何だ?」

「危ないし、もうそういう夜遊びは禁止」

「き、禁止?」

「当たり前だよ。これで帝都の兵隊にまで目を付けられたらどうするの? 今はまだ大事になってないけど、こんな事続けてれば絶対大きいトラブルに巻き込まれる事になるんだから」

「んー…………」

「拳士君」

「…………まぁ、な。確かに。…………わかった。もうやめる」

「よし」


 エイミイが笑顔で頷く。


「あ、そうだ。話題にも出たしちょうど良いよ。折角だし、外壁の外に遊びに行ってみようか」

「外壁の外に?」

「うん。遊ぶなら外の方が楽しめる物いっぱいあるよ」

「外壁の外か……そうだな。よし、そうするか」

「うん!」







        *







 外壁の外。

 雑踏の中を歩く二人の男女。

 身なりが整っており、着ている服の質から住まいが外壁内の富裕層であろう事が一目でわかる。

 普通富裕層の人間が外壁の外をうろつく場合、服装の質を落とすかローブやマントで身を包んで身分を隠す物なのだが、二人は一切隠し立てせず、堂々としたものだった。

 こうした態度をとる者は、二種類に分かれる。

 世間知らずのただの馬鹿か、もしくは外壁外の有象無象程度に絡まれても何も問題にならない実力者か。


「…………おい、あいつら」

「……あぁ」


 誰もが見惚れそうな美男美女だが、誰も言い寄ってこない。

 チンピラ達は気まずそうに視線を逸らす。

 二人は後者だった。

 それも、かなり悪名高い。


「ったくよぉ! やっぱり昼間じゃいくら探しても見つかんねーよ!」


 男の方が不機嫌そうに叫ぶ。

 長身でガタイが良く、群青色の髪をソフトモヒカンにしている。

 年齢は拳士達の世界で言う、大学生位だろうか。

 この世界だとかなり高価な素材を使った、上質な茶色のサングラスをかけている。


「でも夜出歩くと母様達に怒られちゃうよ? 兄様」


 楽しそうに言うのは男の隣を歩く少女。

 年齢は拳士と同じ位。

 髪色は白茶色でセミロング。

 その両サイドをねじり、後ろで縛っている。

 髪色も顔つきもあまり似ていないが、その呼び方から二人は兄妹らしいとわかる。


「知るかよそんなもん! ……チッ、一度出直すぞ! やっぱり夜にもう一回――」

「兄様、母様達の言いつけ無視するの? 本当に?」

「…………」

「母様達、怒ると怖いよ?」

「………………」

「兄様?」

「………………まぁ、あれだ。やめとくか」

「だーよねー」


 チッと舌打ちすると、男が突然道の隅で大人しくしていたチンピラに絡みだす。


「おい、てめぇ! 何盗み聞きしてんだこら! ブチ殺されてーのか! あぁ!?」

「ひぃ!」


 完全に憂さ晴らしであり、言いがかりだった。


「もう、兄様理不尽すぎるよ」


 少女がグイッと男を押しのけ、チンピラに聞く。


「ちょうどいいや。ねぇ、ちょっと聞いても良いかな?」

「な、な、何だよ!」

「あぁ? 何だ、だとぉ? てめぇこそなんだその口の利き方はぁ!」

「ひぃぃいい!」

「兄様! 話が進まないから黙ってて!」

「むぐ!」


 男の口が塞がり、開かなくなる。

 どうやら少女のかけた魔法の様だった。


「さて、と。……ちょっと教えてね?」

「……あぁ……いえ、はい」


 チンピラが怯えて口調を改める。

 チンピラの態度の変化に苦笑しながら、少女が聞いた。


「ねぇ、最近噂になってる、『怪人赤マント』って知ってる?」







        *







「えーっと……これは二百りぶすか」

「二百リヴュス、ね」

「りぶす」

「リヴュス」

「……りぶす」

「リヴュス」

「り、ぶ、す」

「リ、ヴュ、ス」

「…………」

「…………ま、まぁりぶすでも通じるから、良いよね」

「おう」


 拳士が露店の商品の値段を読み、エイミイに正解か聞く。

 文字を文章として理解出来ずとも、値段や単語だけなら読めない事もない。

 文字を読めない者も帝都には多いので、読めないなら読めないでそれなりに生活は出来る。

 だが、読めるに越した事はない。

 そこで、まずは買い物に役立つ数字を読める様に拳士は勉強中なのだ。

 ここの世界では数字の『0』を表す文字が無い。

 なので表記する時、一~九まではそのまま記載。

 それ以降は日本語と同じで、十、百、千等の区切りでその単位に応じた新しい文字を配置する。

 書き方が慣れ親しんだ日本語と同じなので、拳士も理解し易かった。

 単位はリヴュス、というらしい。

 数字は読めるようになったが、コインの価値がまだパッと見でわからないので、拳士は買い物をあまりしない。

 今だとおつりを少なく返されて騙し取られても、気付けなかったりするのだ。

 なのでピッタリのお金を事前に用意しておつり無しで払える時だけ、拳士は買い物をする。


「よし、じゃあ今度は買い物もしてみよう」

「おう」


 拳士が値段を見ながらコインを選び始める。


「違うよ、拳士君。大きい金額のコインを使って、ちゃんとおつりも受け取るの」

「何!?」

「いつまでも避けてたらこういうのは身に付かないよ? 苦手意識持たないで、頑張ってやってみよう」

「け、けどよ、つり誤魔化されたらどうすんだよ。見ろよあのおっさん、明らかにそういう汚い事やりそうな面してんぞ?」

「………………」


 指をさされた露店の店主の表情が、不愉快そうに歪む。


「大丈夫。私がちゃんと横で見てるから。あのおじさんがおつり誤魔化しても、ちゃんと私が注意するよ」

「………………」


 露店の店主の表情が、更に不愉快そうに歪む。


「けど、それだと意味無いんじゃないのか?」

「こういうのはとにかく、回数を重ねて慣れる事が重要なんだよ。だからさ、ね? やってみよう?」

「……そうだな。わかった。買ってみる。もしあのおっさんがつり誤魔化しても、ちゃんと教えてくれよ?」

「大丈夫、あのおじさんがおつり誤魔化したらすぐに言うよ」

「いい加減にしろよクソガキ共! 俺ぁそんなセコい真似しねぇよ! 文句あるんなら買うんじゃねぇ! 余所へ行け!」


 遂に露店の店主がキレた。


「おうおっさん。この果物を二つくれ」

「無視かよ!?」

「二つ?」

「お前の分だよ、エイミイ。ついでだし奢ってやる」

「本当? ありがとう」

「だから売らねぇっつってんだろ!」

「ほら、代金だ。受け取れ」

「拳士君。おつりは受け取ったらすぐに確認するんだよ?」

「おう、わかってる。おっさん、つりだ。早くしろ」

「クソガキィィイイ!!!!」




 おつりはちゃんと返ってきました。




「何だこの果物。水っぽいな。全然味しねぇ。あのおっさん変なもん掴ませやがって」

「これは元々こういう物だよ」


 二人が食べているのは、拳大のさくらんぼみたいな果物だ。

 見た目と食感はさくらんぼだが、種の付き方は林檎の様で、味はそのどちらにも似ず薄ぼんやりと甘くて水分が多く、みずみずしい。

 皮の中の果肉と果汁が真っ赤で、見た目は甘みや酸味が強そうに見えるのだが、実際に食べるとそうでも無い。

 渋みや青臭さが無いので年齢問わず食べやすい果物なのだが、如何せん味が薄いので、老人や幼い子供はともかく若い男性にはあまり人気が無かった。


「……あれだなー」

「うん?」

「俺も基本食い物にはこだわらないタイプだけどよー」

「うん」

「米とか醤油、味噌が無いのと、あと地味に甘味が充実してないのがキツいなー」

「あー」

「俺洋菓子とか生クリームとか油っぽくて甘ったるくて苦手で、食べるならもっぱら和菓子ばっかりだったけどよ。いざこういう世界に来ると、あぁいうドギツい甘さが恋しくなったりするもんなんだな」

「なるほどねー。あ、でも洋菓子に似た物ならこの世界にもあるよ? 富裕層の住む区画なら食べられるんじゃないかな。お砂糖とかは一般階級じゃ高くてあまり手が出ないから」

「そうなのか」

「うん。拳士君の元いた世界みたいに味はそこまで洗練されてないけどね。けど、洋菓子かー。こうやって歩きながら食べる事考えたら、生クリームたっぷりのクレープとか食べたくなる?」

「あー、いいなー。サヤがそういう甘いの大好きでな」

「へー。私そういうの食べた事無いからなー。食べてみたいよ」

「そうなのか…………って、おい」

「ん?」

「何で話通じてるんだよ。俺がしてるのは元の世界の話だぞ?」

「…………あ」

「つかそもそもよ。何で俺が異世界から来た事知ってんだよ。俺エイミイに元の世界云々の話、した事無かったよな?」

「あ、あー…………そ、それはあれだよ。オリアちゃんに聞いたんだよ」

「そんな事勝手に言いふらさねぇだろ、あいつ。仮に話したとしても、生クリームだのクレープだのの話についてきてるのはどういう事だよ。大体洋菓子とか和菓子なんて菓子の呼び方、日本人しか使わねぇだろ」

「え? あー……えーと……それはね? あー……」

「大体お前の名前についても俺は――」



 

 ばしゃっ

  

  べちゃっ




「「………………」」

「「あ」」


 拳士が青髪の茶色いサングラスをかけた男とぶつかった。

 拳士の手に持っていた果物が相手の服にべっとりと赤い染みを付け、男が手に持っていた皮袋に入った液体が、拳士の頭にかかり髪をびしょ濡れにする。


「あぁん?」「おぉ?」


 殺意むき出しの目つきで二人が睨み合う。


「に、兄様落ち着いて! 君、大丈夫? ごめんね? 私達よそ見してたから……」

「いえ、こちらこそ。……拳士君、え、えとこれ使って拭いて」


 頭から液体をかぶった拳士の方が被害が大きく見えたのか、少女二人がまず拳士の心配をする。


「……おーう、クソガキよぉ」

「あ?」


 すると青髪の男が、拳士の頭をガシッと掴む。


「兄様!」

「人にぶつかったらまずはごめんなさいだろうが、あぁ? おい、謝罪はどうしたんだよ。しゃ、ざ、い。謝れよ早く。躾のなってねぇガキだなぁ。ビビってんのか? お――」



 

 グチャ!




「………………」


 拳士が手に持った果物を男の顔面に叩きつけ、グリグリと強く押し付ける。 


「ほ、ざ、け、よ、ゴ、リ、ラ。最近のゴリラはすげぇなぁ? 人間様と同じ言葉で説教かますのかよ。あんま調子こいてっと檻ん中ぶち込むぞ? この餌やるから大人しくさっさとジャングルに帰れ、クソゴリラ」

「………………」


 拳士が果物から手を離すと、潰れた果物が男の顔からズルリと滑り落ちていく。


「おい、餌が落ちたぞ。這いつくばって食らえよ、ゴリラ」

「け、拳士君ストップ! 駄目! 挑発しないの! ……あ、あの、すみません!」


 慌ててエイミイが拳士を後ろから羽交い絞めにしながら謝る。


「に、兄様も落ち着いて! 駄目だよ!? 最初に絡んだのは兄様なんだから! お互い様、ね?」


 少女も慌てて男の腕を掴む。


「…………おう、クソガキよぉ」

「あんだよ、クソゴリラ」


 男が口元を歪める。


「死ぬか?」

「!?」


 拳士が自分を羽交い絞めにしているエイミイをそのまま背負い、横に飛ぶ。

 直後、拳士の立っていた場所に爆発音とともに炎の柱が出来た。


「兄様!」

「ははは! かわしたか! すげぇなクソガキ! 褒めてやる!」

「てめぇ……!」


 もし回避していなければ、拳士とエイミイは炎の柱に包まれ黒焦げになっていただろう。

 拳士が静かに怒る。


「今のは冗談じゃ済まねぇぞクソゴリラ……」


 エイミイを降ろすと拳士が構える。


「ははは、安心しろ。今のは見た目ほど威力が無ぇんだ。当たっても死にやしねぇさ。それに俺の魔法でその程度の怪我、すぐに治せる」

「治ればいいってもんじゃねぇだろうが!」

「あ? 何勘違いしてんだ? てめぇの姉ちゃんはともかく、てめぇを治すつもりなんか最初から無ぇよ。そのまま焼け死ねクソガキ」

「はぁ? おいコラ、ちょっと待て。エイミイは俺の姉ちゃんじゃねぇ」

「そうなのか?」


 拳士の顔立ちが童顔だったせいで、勘違いされた様だった。


「じゃあ、何だ? つー事はよぉ、小便臭ぇクソガキが、色気づいてデートとか調子こいてたのか」

「に、兄様、もういい加減に……」


 少女が止めようとするが男は止まらない。


「あはははは! そうかそうか! じゃあお前、女に良い所見せようと粋がってたのか! 笑えるな!」

「………………」

「ははははははは――ブフッ!」

「拳士君!?」


 男が吹っ飛ぶ。

 拳士の拳が突き出されている。

 拳圧だった。


「兄様!?」


 露店に突っ込み、商品の野菜にまみれている男。

 それを指さして拳士が笑う。


「あはははははは! 粋がってたのはどっちだおい! ダッセェ姿だな! 雑魚が図に乗ってんじゃねぇよ!」


 大爆笑する拳士。


「ク……ソ……ガキィ!」


 男が血走った目で立ち上がる。


「兄様!」

「止めるなフラヴィ。口出しするならてめぇも容赦しねぇぞ? …………あいつは、殺す」

「拳士君、駄目だって!」

「あはは、心配すんなってエイミイ。たかがゴリラ一匹、軽い躾だ。すぐに終わらせる」


 男が両足を肩幅位まで広げると、深呼吸を始めた。


「……何だ?」


 すると、目には見えない何かが、まず男の両手両足の先に集まり、次に全身の関節に集まり、最後に薄く全身を覆う。


「おい、何だよそれ」

「…………へぇ? すげぇな。これが見えてんのか、クソガキ」

「見えてはいねぇよ。けど何――」


 瞬時、拳士の表情が驚愕に変わる。


「――ガハッ!」


 背を曲げる拳士。


「な……んだ……てめぇ……!」


 拳士の腹に、男の拳がめり込んでいた。

 油断していたとは言え、拳士が反応する前に攻撃を届かせるなど、並みの速度では出来ない。


(速ぇ……!)


「お返しだ、クソガキ」


 めり込んだ拳を、男がそのまま更に前へと突き出し、拳士を先ほど男がされた様に露店へと勢いよく突っ込ませる。


「拳士君!」


 壊れる棚、飛び散る商品。

 幸い、拳士が突っ込んだのはアクセサリーの店だったので男の様に野菜の汁で服が汚れたりはしないが、それにしたって頭から商品を被るその様は、中々に惨めだった。


「まさかこれで終わりじゃねぇだろ? クソガキ。さぁ、かかってこい」


 クイクイと手招きする男。


「………………」


 拳士がゆっくりと身を起こす。


「…………上等だ、クソゴリラ。……ぶっ殺す!」

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