さらば地球よ! 大剣神、新たなる世界への旅立ち!
荒廃した東京の街並み。
崩れ落ちていくビル、炎上する家屋。
その中に、二本の足で雄々しく立つ、一体のロボットの姿があった。
名は、大剣神。
巨『大』な『剣』の『神』と書き、『ダイケンジン』と読む。
全長四十五メートル。
日本の甲冑をモチーフにしたデザインで、名前の通り、武器として長い日本刀を両手で持っていた。
その大剣神の後ろには、馬や鳥の姿をしたロボットが横たわっており、前には、全身白銀色でメタリック装甲の、大剣神より更に一回り程巨大なロボットが、四足の足を破壊され、地に座り込んでいた。
「おうおうおう! 年貢の納め時だぜ、大剛重三! てめぇの野望もここまでだ!」
大剣神のパイロット、剣拳士が四本足のロボットに啖呵を切る。
『油断しちゃ駄目だよ、ケンシ』
大剣神のコックピット内に、幼い少女の声が響いた。
『じゅーぞーのダイジゲンは、まだ完全に機能停止した訳じゃないんだから』
「ああ、わかってるぜサヤ。あの爺相手に、一瞬たりとも気を抜くつもりはねぇぜ」
サヤと呼ばれた少女の声は、大剣神のサポートコンピュータによるものだった。
『フハハハハハハハハ!』
「!?」『!?』
そこへ、サヤがダイジゲンと呼んだ四本足のロボットから、老人の笑い声が聞こえてくる。
『見事なり、大剣神。いや、剣拳士よ!』
「大剛重三!」
ギギギギ、と軋む音を立て、ダイジゲンが体を動かそうとする。
だが、機体はもうボロボロで思う様に動かせないらしく、すぐにまたその場に崩れ落ちる。
「へっ、無理すんじゃねぇよ爺、諦めな! てめぇの『全人類サイボーグ化計画』も、ここでおしまいだ」
『そうそう、諦めなよじゅーぞー。この喧嘩、ケンシの勝ちだよ。最終兵器のダイジゲンも壊れちゃった今、じゅーぞーに何が出来るってのさ?』
全人類サイボーグ化計画。
それはその名の通り、地球に暮らす全人類を、強制的に一人残らずサイボーグ化するという、恐ろしい計画だった。
そして、その計画を阻止する為に拳士の祖父、剣刀十郎が作り上げたのがこの、天下無双最強ロボット大剣神だ。
『流石剣刀十郎の作りし大剣神。このわしの大次元を打ち破るとはな』
だが、何故か余裕の態度を崩さぬ大剛重三。
「はぁ? おいおいおい、何なんだ爺。今更俺達を褒めて媚び売ってきたところで、見逃すつもりは一切ねぇぜ?」
その重三の態度を拳士が不審がる。
『? …………!? ケ、ケンシ、大変!』
「何? どうした、サヤ?」
『ダイジゲンから膨大なエネルギー反応が……まさか、暴走!?』
サヤが叫んだのとほぼ同時、大次元が突如強い光に包まれ始めた。
「おい! 何のつもりだ爺!?」
『フハハハハハ! 全て、計画通りなり!』
「何ぃ!?」
大次元の光がどんどん強くなる。
『我が最終兵器の名前を忘れたか!』
「大次げ……まさか!?」
『そう! この機体の真価は、戦闘能力では無い! 大次元エンジンにて作り出される膨大なエネルギーを使い、異次元へのゲートを開く事にあるのだ!』
『そうか! ダイジゲンはダイケンジンの攻撃で大次元エンジンを暴走させて、ダイジゲンもろとも、ダイケンジンを時空の彼方に連れて行くことが目的だったんだ!』
「サヤ、離脱するぞ!」
『無理だよケンシ! ダイケンジンはダイジゲンとの戦いでエネルギーを使い果たしてもうボロボロ。間に合わない!』
『安心せい、剣拳士。異次元へのゲートは大剣神を飲み込めばすぐに閉まる。わしの目的は貴様だけだ!』
『いいの、じゅーぞー!? そんな事したら、自分も一緒に異次元に飲み込まれちゃうよ!?』
『構わぬ! 大剣神さえいなくなればわしがおらずとも、生き残った部下達が全人類サイボーグ化計画を見事完遂させるであろう!』
『そ、そんな……』
『クククク……ハーッハッハッハッハ!』
『ど、どうしようケンシ……』
不安そうなサヤの声、そして勝利を確信した重三の笑い声。
『ハーッハッハ、ハーッハッハ――』
「ハーハッハッハッハッハ!!!!」
『何ぃ!?』
だが、そこに重三の笑い声に混じって、拳士の笑い声が聞こえ始めた。
『……ケンシ?』
「ハーッハ! ハーッハッハッハッハ!」
『何がおかしい! 気でも狂ったか!?』
大次元の光が強くなると共に、暗闇が周囲を覆い始め、異次元へのゲートが開き始めているのがわかる。
「干からびた老いぼれ爺の頭ん中が、想像以上におめでたい事になってたんだ。そりゃ笑っちまうだろうさ!」
『何だとぉ!?』
「いいか、よく聞けクソ爺!」
異次元へ飛ばされる直前、大次元へ拳士の声が届く。
「信頼できる仲間がいるのはてめぇだけじゃねぇ! 俺も同じセリフを返してやる! 俺なんかがいなくても、俺の仲間達が貴様のサイボーグ軍団を一匹残らず蹴散らすであろう、ってな!」
そして、辺りが真っ暗になると。
大剣神の全てのセンサーが、『無』を表示した。