6話 魔術 ②
「それじゃあそろそろ応用にいってみよう。」
俺が魔術を使えるようになってから1周日経った日、クルスが言った言葉である。
クルスが言うには、理論的には適性系統の魔術で定型文の詠唱が使えるのなら、個人の想像力で独自の詠唱を用いた魔術も問題なく作れるらしい。
ただし、現象を理解して、結果を正確に想像出来ないと何も起きないらしく、結果として独自魔術を使えるのは大国でも10人に満たないそうだ。
ちなみにクルスとハールに聞いたところハールは
「そんなこと俺に出来るか。」
と言っていた。一方クルスはというと
「そのぐらいなら出来るよ?出来なかったらやらせてないよ。」
だそうだ。
クルスの説明を1時間程度聞いた後、俺は物理と科学のテキストを開いて『自分にとって最も想像しやすい慣れ親しんだ風に関する現象』について考えていた。
クルスは
「まあ、専門のヤツでも周期単位で研究するような内容だからね。すぐには出来ないと思うよ?」
と言っていたが、現代日本の教育を受けこの世界では高すぎる知識を持ってるので、あっさりと諦めるのはプライドが許さなかったのでしばらく研究を続ける事にした。
2週日経ったある日、全く成果の出ない研究に飽きた俺は、気分転換にハールが趣味で集めていた本を黙々と読んでいた。
「兵法指南書」と書かれた本を読んでいたら、ある一文が目に止まった。
そこにはこう書かれていた。
「汝、万策尽きし時は、基本を活用せよ」
この文章を見て考えた。最初に発動出来た時はどのようにして感覚を掴んだのかと。
そして思い出した。台風の発生のしくみを脳裏に描き詠唱をしたのだ。
しかし、よくよく考えると台風では規模が大きすぎておそらく俺の魔力量では発生させれない。ならあの時発動した魔術はいったい何だったのか?
それはすぐに仮設が思いついた。おそらく術者本人が『矛盾が無く、実行可能』と判断した場合、魔力がその現象を起こせるだけ供給されてようやく発動するのだろう、と当たりをつけた。
現時点でそこから考えられる仮説は2つ。
1つは、小さな竜巻(成人男性ぐらいの大きさ)を起こそうと想像したが、想像の元が台風だったので最も無理のない大きさになり、現象の発生を正確に想像出来たため消費魔力が少なかったという説。
1つは、生まれてから魔術を使った事がなかったため、保持魔力が大量にあったため発動したが規模を小さく発動しようとしたので、台風の規模にならなかったという説である。
この仮説の下に再び詠唱から挑戦することにする。
ただし今度の現象は比較的想像しやすく、規模の小さい旋風である。
「我、求むるは地より昇りし流れなり、吹きすさぶは烈風なり」
厨二病全開な気がするが詠唱に発生原因を入れてみる。
すると天高くまで立ち上る塵旋風が発生した、がすぐに消えてしまった。
おそらくイメージが固まっていなかったせいだろう、と考えもう一度やってみようとイメージをしていたらハールが飛んできた。
今の竜巻はなんだ?と聞かれたので
「あれは旋風といって、竜巻とは発生原因が違うんだ。まあ今のは俺の独自魔術だけどな。」
と言ったら怒られた。次からは住宅地や農地から離れてやれ、と言われた。
後日、クルスに見せたら
「ほら、やっぱり出来た。」
と言われて釈然としない気持ちにさせられた事も追記しておく。
魔術講習編はとりあえず終わりです。
一応主人公は作中では書いていない理論もクルスに教えてもらっています。それは近いうちに出していくと思います。