12話 王都の魔術師
王との謁見の翌日、俺はハールと合流しその後クルスと合流しようと思い、城の中でハールを探していた。しばらく探し続けたが見つからなかったので城の中には居ないのだろうと当たりを付け、城の近くの練兵場に向かった。
そこにはあまり人が居なかったせいか、すぐにそこに居たハールを見つけることが出来た。
ハールは何やら訓練をしていたので声をかけずに、離れて見ていることにした。すると二人の騎士がしているうわさ話が聞こえた。うわさ話の内容はハールが話してくれたハールの過去についてだった。なにやらバカにするような内容が聞こえたのでそちらに詰め寄ろうと考えた時ハールが声をかけてきた。
「おう、待たせたな。声をかけてくれればよかったのに。」
「いや、お前の訓練にも興味あったからな。しかし、訓練してる奴はほとんど居ないんだな。」
「ふむ、まあこんなもんだろうな。俺が王都に居た時と変わらんな。」
「そうなのか?」
「ああ、設備は立派なのに使う者がほとんど居ない訓練施設だ。」
「そうなのか。王都の騎士って言っても大したことないんだな。」
「ふむ、そういう事はあまり言わんほうが良いぞ。誰に文句付けられるかわからんからな。」
その間、近くに居た騎士たちの表情が怒りの表情になるのを横目に見ながら会話していた。
すると二人の騎士がこちらによってきた。
「おい、貴様らさっきのは俺達に対する侮辱か?」
「侮辱だとしたら許せんよなあ?しかも片方はあのハール・キイスだぜ?」
「おいおい、そんな奴に侮辱されるとか許せんな。少し痛めつけてやろうぜ。」
などと言いながら俺達に剣を向けてきた。
するとハールが言った。
「ふむ、練兵場で武器を向けるという事は試合を挑まれたと判断してもかまわんのだな?」
「ああ、お前ら田舎者に王都の礼儀ってやつを教えてやるよ。」
「おい、そっちのお前!お前も参加だぜ。」
「ん?俺か?俺は騎士じゃないんだが・・・、それでも良いのか?」
「はっ、さっきの言葉謝罪しても許さんぜ!」
そう言って二人の騎士は一斉にかかってきた。
するとハールが
「お前なら魔術でしばらくはしのげるはずだ。安心しろ、アイツらは練度が低いから大丈夫だ。」
と言った。
俺はハールを信じて騎士の片方に魔術をかけようと詠唱を始めた。
「我、求むるは地より昇りし流れなり、吹きすさぶは烈風なり」
騎士の剣をかわしながら詠唱を完成させる。すると瞬間的に旋風が巻き起こり、狙いどおりに騎士の持っていた剣を巻き上げ吹き飛ばした。すると騎士は武器を持っていた余裕を失ったが、所詮は魔術師と侮って素手で近接戦を仕掛けてきた。しかしこれが俺の真の狙いだった。胸ぐらを掴んだ相手の手を両手でつかみ、相手の力を利用しそのまま投げ、さらに相手の肩と手首を極めて拘束する日本にいたころ修めた武道の技を使い騎士の一人を無力化した。
極めた手を緩めずにハールの方を見るとハールが相手をしていた騎士は地面に倒れていた。
俺が無力化している騎士は決着がついたのを見れていないためかわめきちらし始めた。
「テメェ!魔術師じゃねえのか!卑怯だぞ!」
「なにが卑怯なんだ?俺は一言も魔術師だとも言っていなければ、近接戦ができないとも言っていないぞ?」
「言わねえのが卑怯なんだよ!」
支離滅裂な事を言い始めた。するとそこへ予想外の人物が現れた。
「ならば貴様はさらに卑怯であるな。騎士ではなく、更には武器も持たん者に対して剣を向けるなど騎士の風上にもおけんな。」
現れたのは王だった。抑えられてる騎士も声でわかったのか顔色が青ざめている。
俺はもう必要ないと判断し騎士を解放した。
すると騎士は慌てて膝まずき王に言った。
「王よ、この者達は我らを侮辱したのです。その誇りを守るために戦ったのです。」
「ほう、それで騎士でもない者に敗北したと?誇りは守れなかったようだな。」
王が言うと騎士は黙った。王が「下がれ」と言うとすぐにその場から居なくなった。
王は騎士たちがいなくなると言った。
「すまんな、我もどうにかしようと思うておるのだが上手くいかん。ハール・キイスよ、お前も不快な思いをしたであろう?」
「いえ、自分は王に覚えていただけていただけで身に余る光栄ですので気にせずにお願いいたします。」
「まあ、それで良いのなら構わんが・・・。」
そのような会話をしていると突然王が思い出したかの様に俺に聞いてきた。
「そうだ、先程お主が使っておった技はなんだ?見たこともない体術だったが?」
「ふむ、俺も気になったな。タケシ、あれは何だったんだ?」
「ああ、あれは俺の故郷で修めた武道の技だ。」
すると王とハールは首をかしげ疑問をぶつけてきた。
「ブドウ?ワイン等になる葡萄の事か?」
「ふむ、ブドウ・・・舞踏のことか?」
「いや違う、武道ってのはな『武』、つまり闘うための技術と『道』、つまり道の事で、こちらで言うと騎士道が一番近いかな。それで武道ってのは闘うための力や技術を身につけるだけでなく、道を説くものでもあるんだ。」
「ふむ、なんとなくだが理解は出来た。騎士道とはだいぶ違うようだな。」
「まあな。」
「しかしあの技は凄まじかったな。お主の手がかかった瞬間に奴は宙に浮いておったからな。やはり王都で働かぬか?」
などと王が勧誘し始めたのである程度で話を切り上げ、王と別れ練兵場を後にした。
クルスと合流しようと思い、クルスに聞いていた場所にハールと一緒に向かうとそこには古い大きな建物があった。看板には『クディール魔術研究所』と書かれていた。
中に入ると椅子に腰掛けたクルスが茶色いローブを着た男と話をしていたが、こちらに気づくと男に声をかけこっちにやってきた。
「紹介するよ、コイツはエピクテトス。研究馬鹿だね。」
「おい、研究馬鹿は酷いだろ。」
「いやいや、研究馬鹿で十分だろ?さっきも『竜巻が練兵場の方に瞬間だけ見えた!これは調査すべきだ!』とか言って出ていこうとしてたじゃないか。ん?タケシどうした?ってまさかさっきの竜巻は・・・。」
「ああ、俺だ。ついでに言うとあれは竜巻じゃなくて旋風な。」
「何!君がやったのか!?その魔術少し見せてくれ!なあに魔術練習用の場所がある!そこでやってみてくれ!」
「おいおい、気持ちはわかるが落ち着け。タケシ少し魔術を見せてやってくれないかな?その後は良い飯をごちそうしよう。」
エピクテトスが興奮しクルスがたしなめるのがいつものパターンの様な会話をしながら提案してきたのでその提案に乗ることにする。
魔術練習場に行くと練兵場とは違って人がかなりいた。練兵場の半分も無い敷地だというのにだ。
クルスは「此処があいてるから」と場所をとって俺にさあ、と言ってきた。
少し緊張しながら詠唱する。
「我、求むるは地より昇りし流れなり、吹きすさぶは烈風なり」
クルスが派手になっても大丈夫と言っていたので普通の詠唱をした。するといつもの通りに上昇気流が発生し横から風が吹き旋風となった。しかし魔力をほとんど込めなかったのですぐに消えた。
するとエピクテトスは興奮しながらよってきた。
「タケシ、君は素晴らしい!あんなに少ない魔力であれほどの魔術を使えるとは!これは研究のしがいがある!」
「そ、そうか。役に立ててよかったよ。」
少し引き気味に答えるとクルスが「長くなるから興奮してる間に行こう。」とエピクテトスを放置して王都の観光に出かけた。
エピクテトスは古代ギリシアのストア派の哲学者です。
これからも魔術師の名前には哲学者の名前を使ったりするかもしれません。