11話 王
王との謁見は特に変わったこともなく平穏無事に終了した。
出自について尋ねられた時は少し焦ったが、ハールが機転をきかせてくれたお陰でなんとか誤魔化せた。
その時に魔物討伐の協力の褒美に何が欲しいかを聞かれたが、今は特別必要な物は無いので、村の騎士隊用に装備と馬車をお願いします、と言ったら無欲な男だと感心された。
王との謁見後、与えられた部屋でハールの家から持ってきた本(騎士の心得について書かれている本)を読んでいると廊下か声が聞こえた。するとノックがあったので、どうぞ、と答えると王が入ってきた。
「すまんな、急に部屋に来て。しかしお主に聞いておきたい事があったのだ。」
部屋に入ってきた王はいきなりそんなことを言った。聞きたいことがあると言われても俺には心当たりは一切なく、あえて候補をあげるなら騎士隊の協力をする時に見せた異世界の知識である。しかしハールはその事については詳細は省いて報告したと言っていたし、他の隊員には俺が異世界の人間だとは教えていないのでそれに関しては聞かれる事はないと予想できる。なら、いったい何が聞きたいのか解らないのでとりあえず質問を聞くことにする。
「お主、城で働かんか?」
王は言う。今この国の上層部は腐っていると、しかも城の中で信用出来るものは近衛騎士と料理長だけだと言う。しかしなぜ今日はじめて会った俺を勧誘するのかを聞いたところ
「お主は信用に価する。報告書と本日の謁見でそれはわかった。それに頭も働くようだしな。」
と言われた。報告書はともかく謁見なんて定型文のやり取りだけなのに、なぜそれで信用に価するのかを聞くと、そのぐらい見極められないのならそれは王の器ではない、と言っていた。
結果として俺は王の勧誘を断った。しかし王と打ち解け友人となった。もちろん他者いない状況以外では王と一国民という立場になるが。王が部屋を出る際に一つの約束事をした。それは王が今の王で在り続ける限り、俺は友としていつでも力を貸す、というものだ。王は近いうちに助言を求めるかもしれん、と言って部屋から出ていった。
ちなみに今回の王都の滞在中はこの部屋を使って良い、と言われたがあまり世話になるのも嫌なので明日にでも宿を借りようと思う。それに城の客室に居てはクルスやハールと合流出来ないのも理由の一つだ。
王都での用は終わったのであとはクルスの観光案内を楽しむだけである。