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2/12

ぼっち飯

翌日もいつものように目が覚めた。

朝の鍛錬を終えると朝食である。

プロテインをしっかりと摂取すると、いつものように学校に向かって駆け出してゆく。

メイドの横田さんと執事の瀬尾さんが笑って送り出してくれた。


昨日も走った道を走ってゆく。

ワンルームマンションでいつものように制服に着替えると学校に向かった。


教室に入ると雰囲気がおかしかった。


よくみると、俺の机がチョークで落書きだらけになっている。


僕が呆然としていると、横から沢井奈という男がニヤニヤしながら言ってきた。


「良かったな。昨日の「ミスリル」の集まりでは一ノ関さんがお前がいないってご機嫌斜めだったぞ。早くこの学校を辞めて土下座して一ノ関さんに謝ってこいよ。」


こいつは何を言っているんだ。


僕はとりあえずこの男を無視することにして教室の後ろにある掃除箱から雑巾を取り出して僕の机をゴシゴシ拭いてチョークを落とすことにした。


僕が机を拭いてこの男を無視していたらこいつはイライラしてきたらしい。


「このクソッタレが。喰らえ!」


彼は噛んでいたガムを口から吐き出して僕にぶつけようとしてきた。

彼の汚い唾液で濡れたガムをぶつけられるのは嫌である。


「は?」

俺が顔を上げた拍子にガムは俺の目の前を通り過ぎて行った。


「汚いなあ。ガムを捨てるときには包み紙に包むんだぜ。」

俺は雑巾で地面に落ちたガムを摘み上げると後ろのゴミ箱に捨てた行った。


ガムを捨てて机の方に戻ると沢井奈はブチ切れている様子である。

「おらっ、このクズが!俺の魔法を喰らえっ!」と何か呪文を唱えようとしてきた。


こいつは馬鹿か?教室で魔法を唱えるなんて自分が退学したいのではないか。


そのとき、横から黒髪の綺麗なクラスメートの女子が「沢井奈くん、馬鹿なことしないで。もうホームルームの時間よ。」と言って沢井奈の腕を掴んだ。


沢井奈は呪文を邪魔されて不発になってしまった。

ちっ、退学を免れたか。


沢井奈も「チッ、覚えていろよ、この落ちこぼれめ」と凄みながらその女子に引きずられるように自分の席に連れてゆかれた。


あれっ?被害者って僕の方じゃね?

そう思ったのだけど、とりあえず、周りには知り合いすらいないのでそのことを言う相手はいなかった。


古川先生がホームルームのために教室に来たときには表面上はクラスの雰囲気は落ち着いているように見えた。


「今日は魔法適正の検査を行う。」


いきなり来たか。


中学の時に僕はこの魔法適性検査で適正魔法なしのFクラスに認定されたことがきっかけで落ちこぼれ扱いされることになったのである。


魔法修練場という体育館のような部屋で機械を使って魔法適性などが測られる。


僕は出席番号が若いので意識する暇すらない。

「安藤恵子、適正、風、魔力20」

と言う声が聞こえたら「はい次、池宮くん」と呼び出された。

正銀中学のものとは少し違うタイプの機械だったが、手を乗せるように言われ、僕は指示通りにした。

「じゃあ今から測るからね。」


年齢不詳の女性がスイッチを押すと水晶玉の中で光が回り始めた。

中学の時には機械が全くうんともすんとも言わなかったから2回測ることになって適性ゼロということになったが、今回は何かは水晶玉に反応したみたいだから中学の時とは違うかもしれない。

僅かな僕の願いとは裏腹に女性は冷静な声で「あら、魔法適性はなしね。」と言った。


やっぱりか。僕は全身の力が抜けるような気分だった。

ちらっと見ると沢井奈がこちらを意地の悪そうな顔で見ている。

あとでくだらないことを言ってくるのは確実である。


「あらっ?」

女性は意外そうな声を上げた。

「どうしたんですか?」

「あなた魔力が80もあるのね。これって高校一年じゃトップレベルだと思うわ。」

「その魔力って何かに使えるのですか?」

「うーん、魔法適性がないからすぐには何も使えないけれど。」


うん、こういう期待外れの状態って僕は何度も経験しているから慣れているよ。


「まあ、期待通りに行かなかったからといってめげないでね。」

「はい。」

俺は愛想笑いをして立ち上がった。


「じゃ、次。」

検査はその後も進んで行った。


沢井奈は火適正で魔力は30、

あの黒髪の女子は野々宮というらしく

火適正と白適性があって、魔力は60だった。


多くの同級生は一適性だけで、50以上の魔力は稀だった。


うーん、魔力適性なしで魔力80の僕はどうしたらいいんだろう。


因みに俺と同じ属性なしだったのは小野と羽束師と舞島の三人だけでで、それぞれ魔力は10から20の間だった。


彼らは3人で集まって何やら話をしていた。僕の方には視線を向けなかったので僕も彼らを見ないようにしていた。


何となくクラスの人たちとは離れて歩いて教室まで戻ってきた。


みんなが席に落ち着いたのを見て古川先生が「じゃあ、今日はクラス委員を決めたいんだが。」と言った。


沢井奈は「そりゃ野々宮でしょう。二属性だし、魔力トップだし。」とちらりと俺を見ていった。


僕は窓から空を見ることにした。


野々宮さんは「えっ?」と驚いて、「私は魔力トップじゃないわよ。」と馬鹿正直なことを言っている。


僕としては下手に野々宮さんのライバルとして祭り上げられるよりも委員長適性のありそうな野々宮さんにすんなり決まってほしい。


沢井奈は「魔法適性のない奴の魔力って何の意味もないでしょう。」ときっと僕の方を見ているのかもしれないが、完全に馬鹿にする声で言っている。


僕は知らん顔を続けていた。

どう考えても会話に入るだけで敗北のような気がしたからだ。


「池宮くん、あなたが魔力一位なのよ。あなたも何とか言いなさいよ。」

野々宮さんは少しお怒りのように俺の名前まであげてきた。


やむを得ない。

俺はゆっくりと窓から目を離して振り返ることにした。


そこには困ったように僕を見ている野々宮さんと相変わらず馬鹿にしたような顔で僕を見ている沢井奈が立っていた。


「えーっと。僕のこと?ここの基準が魔法適性っていうのならば僕は魔法適性がないから落ちこぼれでいいんだけど。多分僕より野々宮さんの方が委員長適性はありそうだし。」


「えっ?そ、そうかしら。」

野々宮さんは何故かモジモジとして視線を下にやっている。

「池宮くんがそういうなら。」

野々宮さんは古川先生の方を向いて「じゃあ私やります。」と小さな声で言った。


古川先生は「ちょっと時間がかかってしまったな。じゃあ今日はこれまでにしよう。」と言って授業は終わりになった。


最後の方には取り残されていた沢井奈は古川先生が教室を出ていった後にやっと動き出した。

「何なんだよ、全く。こんな無能がでしゃばるなんて恥だぜ。」

何だか随分ご機嫌斜めである。

まあ、いきなり無視されたわけだから気持ちはわからないでもない。


「このクソ無能に何かを喋らせるなんて間違いだぞ。お前らわかっているのか?」

明らかに俺を威圧しながら沢井奈は取り巻きを引き連れて教室を出ていった。


野々宮さんは何故かちょっと逡巡していたみたいだが、ギャルみたいな女子が「野々宮っち、学級委員長なんてすごいじゃん。」と両方から挟むようにして沢井奈の後をついていったようである。


騒々しさが去っていった教室は静かである。


おとなしそうな子達があちこちでお弁当を広げ始めた。

試しにちらっとそちらに視線を送るがスッと視線を逸らされてしまった。


「はあ、スクールカースト最下位ってことね。」

僕は一人で横田さんの作ってくれたお弁当を広げた。

すごく美味しい。

中学までは給食だったのでお弁当は時々しか食べたことがなかった。

お弁当って美味しいんだなあ。

思わず泣きそうになったが、ここで泣いたら全く別の誤解を受けそうだったので必死で涙を堪えることにしたのである。

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