【5】
気がついた時には、ベッドに横たわっていた。しかも、寮のベッドではなく、どうやら病院のベッドのようだった。
「…どこ?」
かすれた声で言い、何とか体を起こすと、頬がうずいた。殴られた感触を今でも覚えている。
「あら、起きた?」
ふくよかな看護師、40代だろうか。その人が来て、ポカリスエットをベッド脇のテーブルに置く。
「ちょっと熱があるみたいだから、これ飲んでね」
「はい。…あの、ここは?」
「あ、そうか。覚えてないよね」
カーテンを看護師が開くと、どうやら4人部屋のようだった。窓際に居るらしく、暖かいヒーターだろうか。それが風を送ってくる。
「ここは、精神科なのよ。あなた、入院することになったの」
「入院…。私が?」
「そう。あなたが。あなた、細すぎるのよ」
貴子の指さし、看護師が言ってくる。
「後で先生が来るからよろしくね」
「はい。あの…。両親は?」
「一度帰られて、荷物を持ってくるみたい」
優しく言われ、子どものように頷く。
ーそうか。自分は入院したのか。
倒れるまでの記憶しかないので、動揺が激しかった。勝手に涙が溢れてくる。看護師は気づかなかったのか、行ってしまった。貴子はぼろぼろと涙をこぼす。
ーお別れなんて、そんな。
酷い結果となってしまったが、仕方ないことだった。雄也にあんなまねをされると、これからもそうなるんじゃないかと怯えてしまう。しかし、貴子にとっては大切な恋愛だった。
「うう…、ひっく」
泣くだけしか出来ない自分が惨めだった。とりあえず今は泣くだけ泣くことにした。