【3】
「ーこれ、やる」
校門前で雄也が小さな箱を取り出してくる。貴子はリュックを背負っており、中にはテキストが入っていた。
「何、これ?」
雄也が相手だと、どうしても甘えたい声音が出てしまう。彼氏のプレゼントが嬉しかった。周りではほかの生徒たちが、皆、バラバラで出てくる。笑顏ががたくさんあり、これから部活に行くもの、これからバイトに行くもの、それぞれだった。冷たい風が吹いたので、両手に息を吹きかけ、擦る。それから、
「開けても良い?」
許可を得てから、ピンクのリボンを解く。
「えっ? 時計?」
中にはデザインセンスの良い時計が入っていた。スマホで時刻を確認出来るが、身につけるものをプレゼントされたのが嬉しかった。雄也のものだと強く実感出来るからである。
「ありがとう。大事にするね」
「…おう」
茶髪が風に煽られて邪魔なのか、雄也が髪をすく。しかし、何だかおかしかった。時計と貴子を見比べ、何か言いたそうに口を開け閉めする。
「何? どうしたの?」
「あのさ…」
やっと言う決心がついたのか、雄也が口を開いた。
「それやる代わりに、アイドルのファン止めろよな」
「えっ…? 何で急に?」
貴子は韓流のファンで、CDも持っていた。推しはどことなく雄也が似ており、一生懸命応援していたのだった。
ーさすがにちょっと…。
ダイエットだけでも大変なのに、好きなものを取り上げられるのは嫌だった。足に力を入れ、言い返す。
「あの…、それは困るんだけど…」
「は? お前が好きなのは俺だろう? 俺だけ見ろよ」
「それは…、でも」
できないと首を横に振ると、いきなり雄也は怒った声を出す。
「この馬鹿」
少しは手加減したのだろうが、頬を殴りつけられた。力に耐えきれず、貴子は道に倒れる。何が起こったのか、分からなかった。
「ふざけるな!!」
雄也がなおも手を上げようとする。貴子はとっさに防御しようと手を顔の前に出そうとする。さすがに周りの生徒たちがビックリしたのか、
「おい、止めろ」
「先生、先生、呼んでこい」
と騒ぎになったのだった。