【1】
ーそれ以上、太るな。
大学2年生の安田貴子は彼ー小池雄也の言いつけを守り、サラダのみ手に取った。天然パーマがかかった、目鼻立ちのはっきりした美人だった。寮生活をしており、今は寮の食堂に居た。席につき、選んだサラダを見る。コーンとスライスしたオニオンなどが入っていた。
ー本当はしっかり食べたいんだけどな。
サニーレタスを手に取り、もしゃもしゃ食べ始める。周りは楽しそうに好きな学食を選んでおり、羨ましそうだった。
ー好きな人のためだから、しょうがない。
男子は女子が細いもの、しかもサラダしか食べないと思っているのか、貴子の食べられるものは限られていた。ちなみに雄也は部活の先輩で、1つ上の大学3年生でカラオケが上手だった。長身でオシャレな人だった。窓の外を見れば、吹く風で窓がガタガタ音をたてている。秋になったので、日が暮れるのが、早かった。気温も少しずつ寒くなってきている。
「そこまでしなくていいんじゃない?」
たまたま通り過ぎた友達に言われ、貴子は苦笑する。
「太りたくないから、我慢、我慢」
「そう。何か可哀想」
「…」
嫌な言葉を言われ、頬をひくつかせる。可哀想にという言葉は嫌いだった。上目線みたいで、癪に触るのだ。
「別に。私は好きにやってるから」
我慢して言うと、
「そう?」
と言って、友達が去っていく。貴子は大切に食べようとサラダを少しずつ、何回も噛みながら食べていくのだった。