5.オアシスを渡る
オアシスの街ダクタイの冒険者ギルドでは、旅芸人のティモスバレッジ団が、首都グリードへの遠征に護衛をふたり募集していた。
孤児院の院長が仲介してくれて、ヒューゴはまだ成人したての16歳なので少し安くなるが雇ってもらえることになった。
旅芸人のティモスバレッジ団は、グリーの砂漠をいろいろな街に渡る旅芸人の劇団だ。
団長ティモスと副団長バレッジは異母兄弟で、人気女優カラファウムをもつ人気劇団だ。
占い師オクトムバスチウムのカード占いは、王様からお呼びがかかることもある。
護衛戦士は3人いたが、二人がけがのため同行しないことになったので護衛の募集となった。
グリーの民ではない、黒髪の護衛騎士ラモンと、今回の募集でヒューゴと、父ほどの年齢のグリーの民のバイドンが護衛のパーティとなった。
グリーの民の特徴は、肌は浅黒く、短い白髪はくるくると縮れている。獅子鼻が独特だ。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
それぞれ握手して挨拶した。ヒューゴは、自分が子ども扱いされていないことが分かって、ぐっと来た。
大人として、しっかりやろうと心に決めた。
テイマーとして護衛を引き受ければ、通常の報酬の3~4倍に跳ね上がる。
高額の報酬を受けるにはまだまだ未熟なヒューゴは、ドリシャーのことを内緒にして、森の中を見つからないようについてくるように言った。
***
『会いたい』
『うん。わかってる』
移動中の夜、会いたがるドリシャーに念話で話すが、自分も会いたくて、つい強い念話を送ってしまった。
ドリシャーが飛び出すのがわかる。
『だめだ。止まれ』
『いやだ』
ヒューゴは、強く念じてドリシャーの中に中に入り込んだ。ドリシャーがさっき食べた大きなイノシシの血が滴る肉がとてもうまそうに感じた。
ドリシャーの心に悲鳴のような叫びを感じた。
『・・・』
ドリシャーが止まったのが分かった。強い思念はお互いに心地よく、あっという間に離れてしまった。何と言ってよいかやっと大人になったばかりのヒューゴにはわからなかったが、心が満ち足りたものになった。
『心が満腹だね』
『ほんとだ。心が満腹だ。うん。おやすみなさい』
『おやすみ』