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24.ロンドに向けて出発

ヒューゴは道具屋に向かい、自分とドリシャーが入れるテントを探した。小さいサイズの中でもすこし大き目のドリシャーが丸まって、ヒューゴがくっついて寝れる程度。

(足は延ばせそうもないな。おれもドリシャーも)


頑丈そうなリュックを買って、着替えとアイテムバックを入れて、テントと敷物を畳みこんでしばりつけた。


アイテムバックに黒パンと干し肉、水袋の水。料理人に譲ってもらった塩とかスパイスの袋もある。もらった魔道コンロと、買い込んだ鍋とかフライパンとか料理用ナイフとかトングとか木皿やスプーンフォークが入っている。魔道ランタンもいれた。

あと、旅団の料理人からもらった肉の塊がいくつか。これはドリシャーの食料だ。



***

ロンドに向かうのにドリシャーを置いて行こうか悩んだけど、一緒に行けば、乗合馬車を利用しなくてもいいし、何より仲間がいるって心強い。


ダクタイを出発して、森沿いに進む。街道沿いで休憩すると、ドリシャーは森に狩りに行った。ホーンラビットがいるらしくて、しばらくしたら満足そうに帰ってきた。


『小さいけどうまい。汚れてないやつ持ってきたけど、どうする?』

『ああ、これなら小さいしおれにも解体できるから、このままアイテムバックに入れて持って行くよ。お前が腹減ったら食えばいいしな』


ドリシャーのしっぽがぶうんぶうんと振られてが喜んでいるのが分かった。


『もうすこし進むぞ』

『うん』


ドリシャーが身を伏せてヒューゴがゆっくり乗った。ドリシャーもゆっくり立ち上がって、歩きだした。ゆっくり進んでいるように見えるが、人間が歩くより何倍も速い。

夕方になる前に、街道脇で休憩に入った。テントを張っていると、商人の馬車が停まった。

グリーの民ではない御者が声をかけて来た。

隣国ガイダントからグリーに商売に来た商人が帰国するところだろうか。


「隣で休憩させていただいてもいいですか?」

「はい。従魔がいるのですが大丈夫ですか?」


「はい。もちろんです。とても安全に過ごせると思いまして、ご迷惑をおかけしますが静かにしますので・・・」

「なるほど」


そういうことか。確かにひとりよりふたり。人間だけより獣魔付きのほうが危険は少ないだろう。


ヒューゴは街道の横に流れる小川のほとりに行って、ランタンを付けて道具屋でもらった使用済み羊皮紙を広げて、ホーンラビットをアイテムバックから出した。

母さんの短剣とナイフを出して、丁寧に解体していった。毛皮は洗って干して乾かした。角は麻袋に入れた。


肉を適当な厚みで切って、そこらへんに生えている月兎の葉に包んで麻袋に入れた。

毛皮が乾いたら、くるくる巻いて麻袋に入れた。

全部まとめてアイテムバックに戻して、まだ入りそうだなと、のこりの容量を確認した。



テントに戻って魔道コンロを出して、月兎の葉で包んだホーンラビットの肉を出して塩とスパイスを振って何枚か焼いた。

新しい月兎の葉に包んで少し寝かせると、ドリシャーがこちらをじっと見ている。よだれが垂れてる。


皿に出してドリシャーの前に置いたら飛びついてきた。

『焼き方は下手だと思うけど、料理人に教えてもらったやり方だからな。文句言うなよ』

『うまいよ!』


ドリシャーはあうあう言いながら食べていた。

ヒューゴも、ナイフで切りながらフォークで刺して食べた。黒パンもかじりながら、料理人のスープとかうまかったなぁと思い出した。



隣でも何か料理しているみたいだ。すこし話声はするが騒いでいるわけではない。楽しそうな和やかな雰囲気だった。


テントでドリシャーに先に休んでもらって、ヒューゴが見張りをした。

(この道は、父さんも母さんも通ったんだろうな。一度も帰らかなったのかな)

ヒューゴは焚火をつつきながら、もうすでダクタイに帰りたくなっている自分に気が付いた。

旅団にいたときは、たくさんの仲間に囲まれてそんなことを思いもしなかったのに、いまひとりになったらずいぶん気弱なことだ。


「もしよかったらどうぞ」

商人の主人だろうか。ビスケットを麻袋に入れて持って来てくれた。

「ありがとうございます」

遠慮なく受け取ってひとつ食べてみた。サクっとした軽い歯ごたえでバターの香りがふわんとした。

「うまいですね」

「よかった。妻が持たせてくれて、結構日持ちするので助かるんですよ」


「グリーの国の方なんですか?私はロンドの商人でガーディと言います」

「ヒューゴです。猫はドリシャーと言います。もともとはロンドからダクタイに移住した両親が9年前に亡くなってしまったんです」


「そうでしたか。それは残念なことです。なんというお名前で?」

「父がジス、母がルイーゼです」


「そうですか。もし知っていたらと思ったのですが、残念ながら存じませんでした」

ガーディさんは申し訳なさそうにうつむいた。


「いえ。移住したのが17年前なので、なかなか知っている人もいないだろうなと思います。いまは、両親の故郷を見てみたいのと、さんざん潜ったと言うダンジョンを見てみたいなというだけの旅です」


「これからロンドに帰るのですが、もしよかったらご一緒いただけませんか?一緒にいるだけで、なんと魔物どころか動物も近寄らないなんて、とても魅力的で。もちろん護衛の代金はお支払いしますので」


「起きたらドリシャーに聞いてみますね」

「え?従魔に聞くんですか?命令するものじゃないんですか?」


「俺とドリシャーはお互いに確認するようにしています。対等のつもりですよ」

「へええ」

ガーディさんはとてもびっくりしていた。


「ガイタントでは命令するもんなんですか?」

「そうですね。けっこうきつく当たっているのを見たことがあります。隷属っていう関係に近いでしょうね」


「俺は、グリーでよかったのかもしれないな」

ヒューゴはぼそっとつぶやいた。

「そうですね。やっぱりきつく当たっているのを見ると、目を覆いたくなることもありますから」

ガーディさんも苦笑しながら答えてくれた。


ドリシャーが起きて見張りを交代するときに聞いたら

『ヒューゴがいいなら、いいよ』

と答えてくれた。

『ありがとう。路銀も稼げそうなんだ』


『うん』

『がまんできなくなったら言ってくれよ。先方に相談するからな』

『うん。言うからだいじょうぶ』


朝になってガーディさんに護衛を引き受けることを告げた。ただ、ドリシャー次第では、途中で別れることもあるかもしれないと伏線を張っておいた。

国境を越えてロンドに行くまでの街道沿いに、小さな街がふたつあって、その街で休みながら進むことになった。

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