21.水と女性は大切
ドンマヒ
ニシシハの街を出て、次の街ドンマヒに進んだが、それほど離れておらず夕方には到着した。
ドリシャーはいったん街に入ったが、やはりすぐに山に行くと言うので、出口まで送っていった。
この街も山からの水が豊富で農業が盛んだ。麦やイモや野菜がいろいろあって、料理人が目の色を変えて買い漁っていた。夕飯が楽しみだ。
ドンマヒはちいさな街で、テントを張れるほどの大きな広場が無かった。小さなステージを組み立てて歌を披露することになった。
これはこれで歌い手と観客がとても近いので、なかなか見ごたえがあるのだ。
数曲披露して、ステージを片付けた。泊まる宿も無いので、そのまま出発することになった。
出発しようとしたら、街の女たちが騒いでいた。
山から引いた農業用水は豊富だが、生活用水の井戸にさらさらした砂が落ち込んで埋まってしまっていた。
男たちがまわりに大きな石を積んで、砂を掻きだしているが、まだしばらくかかりそうだ。
団長と副団長が、旅団の女たちに囲まれて頭を抱えている。
「飲み水はアイテムがあるから問題ないんだけど」
「湯あみしたいんですけど」
旅団の女性陣が束になって騒いでいる。
「ラモン」
「はい」
団長に呼ばれてラモンが走り寄った。
「ラモンとヒューゴで、井戸の修理を手伝ってやってもらえるか?
バイドンには、皆に着いてもらって、このまま出発して山に向かう。川辺にテントを張って女性陣に水浴びさせる」
騒ぐ女性陣のためにさっさと出発することになった。
「わかりました。行ってきます」
ラモンが答えて、ヒューゴに来いと指示した。
たしかに農業用水はそれほどきれいとは言えなかったので、山まで行かないと水浴びできるような水が無かった。
***
夕方まで手伝って、井戸の中がすっかりきれいになった。中の石積みが壊れてしまったわけではないので、落ちた砂を取り出せばきれいなものだった。
大急ぎで街を出立して、日が落ちる前にラモンとヒューゴとドリシャーは旅団に合流した。食事をして、体を拭いて着替えて、交代で見張りをして休んだ。
***
砂漠の端からうっすらと朝陽が差してきた。ヒューゴはぼんやりと目が覚めたが、ドリシャーはとっくに起きていたようだ。
『夜が明けて来た』
『そうだな。なんだ?』
『コカトリスがいる』
『獲れそうか?』
『うん』
『じゃあ行こう』
山の上の方からドリシャーがコカトリスを追い立てて、下に向かってあおっていく。
『いいぞ』
ヒューゴがコカトリスの足元をアキヒの剣で切り付けて転倒させた。倒れたコカトリスをドリシャーが止めを刺した。
『山の上の方に洞窟があったよ』
『へえ。ダンジョンか?』
『わからない』
『一応報告だけしておくな』
コカトリスをヒューゴとドリシャーで協力して運んでいくと、旅団の仲間が気付いて手伝ってくれた。
様子を聞いていた料理人が包丁をちゃんちゃんさせながら待ち構えていて、着いたらすぐに捌かれて、さっそくスープになってみんなに振舞われた。




