10.盗賊の理由
トリシーニからバグハダ
みんなでテントを小さく畳み、荷物をまとめてラクダのそりの小屋にしまい込んた。
「終わったら出発だ」
とバレッジ副団長が忘れ物がないか確認している。
「盗賊は、護衛がふたりケガでいないのと、新人が護衛に入ってもすぐには役に立たないだろうと狙って来たんだそうだよ」
ティモス団長が、ラモンとバイドンに話していた。
「まさか従魔がいるとは思わなかったでしょうな。俺たちも思わなかったけどね」
はっはっはとラモンさんが笑っている。
ドリシャーはもう出立していて、近くの森で食事をしている。
『もうすぐ出発するからね』
『うん。わかった。あとから行く』
ドリシャーなら5日程度遅れても楽に追いついてしまうのだろう。
***
どんどんラクダのそりは進む。途中、でかいミミズとでかいサソリが襲って来た。毒のしっぽに気を付けながら、今度はドリシャーも一緒にみんなで戦った。
そのあとは大きな戦闘も無く、次のオアシスの街バクハダに着いた。また、バレッジ副団長が手続きに入って行った。
ヒューゴはドリシャーから降りて、ドリシャーの首に手を当てて歩いた。
旅団が街にいる間は、ドリシャーには森に行ってもらって好きに狩りをしてもらうことにした。
『帰るときは呼んでくれよ。勝手に街に入るな。人間がパニックになる』
『パニック?』
『ああ、獣が街を襲いに来たと思うからな』
『わかった。入るのはヒューゴと一緒にする。呼ぶから』
『そうしてくれ』
ヒューゴはドリシャーの首のあたりを優しくなでた。
ドリシャーは好きなだけ狩りをして、疲れたら帰って来て、ヒューゴを呼び出して一緒に街に入る約束をした。
帰ったらブラッシングを丁寧にやろう。自分で身づくろいはしているみたいだが、届かないところは汚れと毛玉ですごいことになっているからな。
***
この街は小さいので、テントを張って演劇をする場所が無い。
広場で、簡単なステージを作って、楽器の演奏と歌の披露を何曲か行った。
(カラファウムは歌も歌うんだな)
ラモンとバイドンとヒューゴの3人で警護に当たる。街の人が、大人も子供もたくさん集まって楽しそうに見ていた。
たくさんの花や手紙、差し入れが届けられた。花も手紙もすべてヒューゴたちが検めてからそれぞれの送り先に届けられた。
バクハダの貴族が、護衛を二人連れてドリシャーに会いたいとやってきた。
ティモス団長が出て、丁寧にお詫びしていた。ドリシャーは森に行っていて、いないのだと説明していた。
「会えないのですか?」
「いつ帰ってくるかわからないのです。それと社交的ではなくて・・・お怪我をさせてしまったらおおごとになってしまいます」
ティモス団長が丁寧に説明してもなかなか引き下がらない。
「帰ってきたら連絡をもらえないですか?」
「まだ訓練が行き届いていない若い個体なので、寛容ではなくて怒りっぽいんです。
10年もすれば落ち着くと思うので、それまで気長にお待ちください」
ヒューゴがそう言うと、
「10年・・・」
と貴族の方がつぶやいていた。納得はいってないみたいだったが、二人の護衛に説得されて帰っていった。
「明日とか待ち伏せしてないかしら。
もう暗いから出発できないけど、テントも張るところがないから、そりで交代で休んで夜明とともに出発しよう」
ティモス団長が不安そうにしている。
『ドリシャー。わるいけど、絶対に帰ってくるな。明朝出発の時に呼ぶから、そのまま森に居ろ』
『ほんと?わかった!』
と、やたらとうれしそうな返事が返ってきた。
「ティモス団長、帰らないように指示しました」
「ほんと?ありがとう~」
と返事がドリシャーの返事と酷似していたので笑ってしまった。