表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コスプレイヤー、異世界に転生しました  作者: 叶夢
一章 王都襲来編
6/22

六話 悠里、王都を散策する

「来月、学園主催の一大イベント、魔剣大会に出場してほしい。」


ローレンスの言葉は、悠里に一つの選択を迫るものであった。このイベントは任意参加であり、彼の頼みを断ることも可能だった。それでも、悠里は戸惑いを感じながら尋ねた。「どうして私に魔剣大会に出場してほしいのかしら?」


ローレンスは率直かつ簡潔に答えた。「弱者が強者に勝ちたい以外の理由が必要かい?」


彼の言葉には挑戦的な響きがあった。強者に勝ちたいという動機が、果たして単なる勇気から来ているのか、それとも何か特別な理由があるのか、悠里の心に疑念が浮かぶ。


「同じ時間帯に魔法大会も開催されるのではないの?」


悠里は思わず口にした。ローレンスの意図が見えず、少し焦りを感じていた。彼の存在は謎めいており、彼が使用する魔法が対象の魔法を模倣するものであること以外、悠里は何も知らなかった。その能力自体が非常に脅威であり、彼が模倣できるものが魔法だけなのか、まだ判断できていなかった。


「カトレアの実力なら、その大会に出場してダントツで優勝できるだろう。」


ローレンスの発言には明らかに矛盾があった。彼はカトレアの実力を知っているはずなのに、なぜ悠里を大会に出場させようとするのか、疑問が湧く。自信に満ちた表情で答える彼の目には、何か隠された意図があるように思えた。カトレアが幻想の魔女であることを知った上での発言だと悠里は考えたが、ローレンスの実力が確かであれば、彼と渡り合える可能性もあると感じた。


かつてカトレアの師匠であるアイリスは、ローレンスよりも高度な魔法を使っていた。その魔法は単なる技術にとどまらず、事象そのものを再現できる力を持っていた。悠里はカトレアの記憶から得た知識があるため、ローレンスに対して驚くほどの反応を示さなかった。


「そう、イベントの詳細について教えてもらえるかしら?」


「僕の申し出を受けてくれるということかい?」


「それは、私が参加する利益があると判断した場合の話だけれど。」


悠里は慎重に返答した。


ローレンスは、イベントに関するルールや報酬について説明し始めた。魔剣大会のルールと報酬は以下の通りだった。


ルールと報酬


ルール

1.一対一の対人戦形式。

2.危険な行為や相手を死なせる行為は禁止。

3.試合開始後の魔法使用は禁止。

4.途中での剣の交換は禁止。

5.不正行為が発覚した場合は失格。


報酬

優勝者や上位入賞者は以下の報酬から一つ選ぶことができる。

1.豪華な魔剣:特別な効果を持つ魔剣。

2.魔力増幅のアクセサリー:回数制限はあるが、魔力を限界まで増幅させるアクセサリー。

3.冒険の権利:冒険者でなくても特別な冒険やクエストへの参加が認められる権利。


悠里は、自分に参加しない選択肢はないと確信した。むしろ、参加することで得られる利益の方が大きいと感じていた。この貴重な機会を逃すことはできないと決心し、カトレア・アールグレイの名声を守りつつ、品位を保ったまま参加することを誓った。


「幻想魔法で魔剣を作成できれば、容易に魔剣大会に参加できるだろう。でも、現時点では幻想魔法を扱うスキルがない。」悠里は胸の内でつぶやいた。もしそうでなければ、不知火しらぬいカレンのコスプレ衣装で出場することを余儀なくされる。その衣装を着用しなければ、漫画やアニメのキャラクターの必殺技を使用できないという制約があった。それでも、まだ時間はたっぷりあるので、その間に何とかなるだろうと悠里は思い描いた。


「参加させてもらうわ。それと、そろそろアメリアにかけた魔法を解いてもらえないかしら?」


悠里がそう告げると、ローレンスは頷いた。「もちろん、ああ、アメリアにかけた魔法なら、とっくに解除しているよ。今はあちらで元気にしているよ。」


ローレンスの指差す方向を追い、悠里は目を細めた。いつの間にか学園の校門の方に移動しており、そこで待っていたルピシアと楽しげに会話を交わしていた。


「あら、そう…ありがとう、とは言えないわね。」


「申し込みについては後日連絡するから。それじゃあ、また。」


「ええ、分かったわ。また明日学園で会いましょう。」


ローレンスとの会話が終わり、悠里は校門でルピシアと合流した。三人でブルームを散策し始めると、街並みは賑やかで、飲食店や雑貨店、お土産屋が並んでいた。色とりどりの店の前には人々が行き交い、楽しげな笑い声が響いていた。


「ちょっと、あれ見て!」


「どうしたの?」


アメリアが指差した先には、おもちゃ屋のショーウィンドウがあり、可愛らしい猫のぬいぐるみが飾られていた。「ええ、可愛いわね。」


「ぬいぐるみが私を呼んでいるわ。」


「うふふ、何を言っているの?」


アメリアは可愛いものが大好きで、さまざまなぬいぐるみに目がない。彼女の趣味は、可愛いものを集めることで、以前カトレアが彼女の屋敷に遊びに行った際、その部屋は可愛いもので埋め尽くされていた。


「では、あのぬいぐるみをあなたに買ってあげるわ。」


「本当に?!!」


アメリアの目は輝き、喜びが溢れた。


「ええ、もちろんよ。私の用事に付き合ってくれているのだから。」


「ありがとう〜カトレア!!!大好き!」


アメリアは周囲を気にせず、悠里にぎゅっと抱きついてきた。


「ちょ…恥ずかしいからやめてくれる?」


「大丈夫、私は恥ずかしくないから。」


悠里は、彼女の言葉の意味が今ひとつ理解できなかった。


「もう、その抱擁は十分だから、離してくれる?お店に入りましょう。」


扉を開けると、ちりんちりんと可愛いベルの音が響き、店内は穏やかな木の香りに包まれた。柔らかな光が差し込み、棚には色とりどりのぬいぐるみやおもちゃが整然と並んでいる。ぬいぐるみたちはまるで生きているかのように、さまざまな表情を浮かべていた。子供たちが好きなおもちゃを見つけると、目を輝かせて駆け寄っていく。


おもちゃを手に取る瞬間、緊張感と期待が胸に広がった。周りの子供たちが笑顔でおもちゃを選ぶ姿が目に入る。悠里は、自分が手に入れたいと思っていたぬいぐるみを手にするため、店員さんに声をかけた。


「すいません、窓際に飾られている猫のぬいぐるみを売っていただけませんか?」


「いらっしゃいませ、はい、黄金貨三枚でお譲りいたします。」


「黄金貨」とは、ブルームやその周辺で流通している通貨で、日本円に換算すると約一万円に相当する。


「…そうですか。」


見た目は可愛いけれど、値段はそれほど可愛くないと悠里は内心思った。アメリアにとっては、魅力的に映るものなのだろう。


「こちらの商品は限定生産で特殊加工が施されているため、この価格となっております。」


「特殊加工?」


「はい、ぬいぐるみ自体に魔力が宿っており、それによって動いたり話したりすることができます。」


魔力が動力源だなんて興味深い。悠里は、そのぬいぐるみがまるで生きているかのように動き、話せると聞き、アメリアにぴったりのプレゼントだと感じた。


「アニマルシリーズの新製品では、魔法も使用可能になりました。」


「どんな魔法を使えるのですか?」


「製作者によれば、このぬいぐるみはほとんどの魔法を習得できると言われています。」


アメリアに買ってあげると約束した悠里は、その機能を知るとますますそのぬいぐるみに惹かれていった。迷った末、結局アメリアの分だけぬいぐるみを購入することに決めた。


「では、こちらをお願いします。」


財布から黄金貨を取り出すと、心の中で少しだけためらいがよぎった。アメリアの喜ぶ顔を思い浮かべると、そのためらいはすぐに消えた。


お金を渡すと、店員はニッコリと笑いながらぬいぐるみを入れた袋を手渡してくれた。


「はい、これ。あなたのために買ったわ。」


「本当にありがとう、カトレア!」


アメリアは嬉しそうに袋を受け取り、目を輝かせていた。その瞬間、アメリアの喜びが悠里の心にも伝わり、少しだけ気持ちが軽くなった。彼女のために何かをすることが、悠里にとっても嬉しいことだと気づいた。


お店の外に出て周囲を見回すと、悠里は次にどこに行こうかと考え始めた。「じゃあ、他のお店も見て回りましょうか?」


アメリアは「うん」と元気に頷いた。悠里たちは再びブルームの街を散策し始めた。


「そういえば、今日はどうしてブルームを散策したいと言い出したの?」


「なんていうか…ふと、冒険者ギルドで冒険者登録をしたいと思ったからよ。」


悠里は明日から一週間、学園に通わないということを思い出した。その間、悠里は冒険者として多数のクエストをこなし、実績や魔法を高めるつもりでいた。


「わ、カトレア様、カレル村でも支部がありますから、冒険者登録はできると思いますが…」


カレル村は、悠里やアメリアが住む静寂に包まれた美しい場所だ。自然に囲まれ、穏やかな風が吹くこの村では、四季折々の風景が楽しめる。村の人々は温かく、コミュニティの絆が強いため、誰もが気軽に顔を合わせることができる環境が整っている。また、清らかな水源や豊かな緑が広がり、心を癒す空間が形成されている。カレル村は、日々の喧騒から離れ、穏やかな生活を送りたい人々にとって理想的な場所だった。


「ええ、もちろん知っているわ。でも、あえて直接本部で冒険者登録をしたいと思って。」


悠里の言葉に、ルピシアは少し意外そうな表情を見せた。


「本部での登録には、特別な意味があるのですか?」


悠里はアメリアに聞こえないように、小声でルピシアに語りかけた。「ルピシア、アメリアにはまだ内緒にしておきたいことがあるの。」


ルピシアは、驚きの色を隠せずに悠里を見返したが、すぐに頷いた。彼女は悠里の意図を理解したのだろう。アメリアは不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの、カトレア?」


アメリアの声には疑問と好奇心が混じっている。


「ううん、なんでもないわ。ただ、ルピシアとちょっと相談していただけよ。」


悠里は軽く笑みを浮かべて誤魔化そうとした。アメリアはまだ少し不安そうな表情を浮かべていたが、結局は納得したように肩をすくめた。


「そう…ならいいけれど。困っていることがあったら、いつでも言ってね。」


その言葉に悠里の心が温かくなり、彼女の優しさに感謝した。ルピシアと悠里は、アメリアの目を気にしながらも話を続けることにした。


「今回、本部で私の名前で登録をして、支部では別の名前で登録しようと思う。」


「なぜそんなことを?」ルピシアは不思議そうに尋ねた。


「平日にカトレアが冒険者として活動しているところを学園の関係者に目撃されたら、レリアに申し訳が立たないから。」


悠里は真剣な表情でそう答えた。


「それは確かに考慮しなくてはいけませんね。」ルピシアは悠里の言葉に頷き、しばらく考え込むように目を細めた。「でも、別の名前で登録することで何か問題が起こる可能性も考えられますよ。」


「そうね…」悠里は彼女の指摘に言葉を失った。


冒険者ギルドでは身元確認を行うため、身分証明書の提示が求められる。この手続きは、冒険者の安全や信頼性を確保するために欠かせないものである。もし違う名前で登録しようとするなら、そのための身分証明書が必須だ。本物でなければ、ギルド側から厳しい追求や調査を受ける可能性もあり、リスクを伴うことは明白だった。


「でも、リスクを取らなければ、私の目標には近づけないと思うの。」


「カトレア様は本当に勇敢ですね。」ルピシアは微笑みながらも、心配の色を隠せずにいた。

「ですが、無理はしないでくださいね。」


悠里はその言葉に温かさを感じ、心が少し軽くなった。「ありがとう、ルピシア。あなたがいてくれるから、心強いわ。」


冒険者ギルド本部に向かう途中、空はいつの間にか夕方から真夜中へと変わりつつあった。日が沈むと同時に、薄暗い雲が空を覆い、まるで何かが迫っているかのような不気味な気配が漂っていた。


突然、数十匹の黒竜の大群がブルームの上空を埋め尽くしているのに気づいた。彼らは黒い翼を広げ、影のように空を滑空していた。その翼を羽ばたかせる音が遠くからも聞こえ、まるで戦の号砲のように響き渡り、街の静寂を引き裂いた。


周囲の人々の表情は恐怖で歪み、誰もが何をすべきか分からずに立ち尽くしていた。子供たちの悲鳴や、大人たちのざわめきが交ざり合い、瞬時に混乱が広がっていく。


悠里はその光景を見て、心がざわつくのを感じた。アメリアとルピシアの手を強く握り、周囲を見渡す。黒竜の影が覆いかぶさる中、思わず声を上げた。「アメリア、ルピシア、黒竜を撃退するのを手伝ってもらえる?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ