一四話 悠里、冒険者登録をする(前編)
魔王軍幹部ウバによる王都ブルーム襲来の翌日、悠里はカレル村支部の冒険者ギルドに足を踏み入れた。
「おはようございます。私は受付のリリアと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
リリアが気さくに挨拶をしてくる。彼女の明るい笑顔に、悠里の心はほっと和んだ。
「おはようございます、リリアさん。こちらのギルドで冒険者登録をしたくて来ました。」
「かしこまりました。それでは、冒険者登録のために身分証明書をご提示ください。」
事前に得た情報通り、冒険者登録には身分証明書の提示が必要だった。悠里はアールグレイ家の従者としての証明書を取り出した。この書類は、現当主であるカトレア・アールグレイによって発行され、彼女の従者であることを証明する重要なものであった。
「身元確認ができました。ご提示ありがとうございました。」リリアは言い、身分証明書を悠里に返す。次の話に移った。
「では、次にこちらの用紙に必要事項をご記入の上、ご提出をお願いいたします。何か不明な点がございましたら、お気軽にお声掛けください。」リリアが差し出した書類は、冒険者登録のための記入用紙だった。
少し緊張しながら、悠里は項目を確認する。
1.名前: [ユーリ]
2.年齢: [15歳]
3.職業/階級: [従者(アールグレイ家)]
4.経歴: [アールグレイ家に従者として仕え、護衛や雑務に従事。幼少期から魔法の訓練を受けており、特に変身魔法に特化している。]
5.得意魔法(技): [変身魔法。変身した人物の能力を利用することができる。]
「記入が終わりました。お願いします。」悠里はリリアに伝えた。
「お預かりします。少々お待ちください。」リリアは記入用紙を受け取り、目を通す。彼女の表情には驚きの色が浮かんでいた。
「……変身魔法!?ユーリさんは変身魔法を使えるのですか?」リリアは目を大きく見開いて尋ねた。
「ええ、まあ……。回数制限はありますが。」悠里は少し戸惑いながら答えた。
正直に言うと、悠里は自分の能力について完全に真実を話している気がしなかった。実際には、着せ替えのスキルを用いて変身した衣装に付与された能力を使い分けていた。この点については、記入用紙に書いた内容とそれほど矛盾していないと考えていた。
「……そうですか。ご回答ありがとうございます。」悠里の変身魔法に驚いたリリアは、大きく目を見開いたまま息を呑んで視線を外した。彼女は明らかに動揺しているようだった。
「最後に、ユーリさんの能力を測定します。魔法を使用した試し撃ちか、現役冒険者との模擬戦のどちらかを選んでいただく必要があります。」リリアの言葉には、能力測定の重要性が込められていた。冒険者のランクは、その後の活動に大きな影響を与えるため、悠里にとっても大切な選択となる。
「現役冒険者との模擬戦の方が上のランクから始められるんですか?」悠里が尋ねる。
「そうですね。模擬戦の結果に基づいて、ランクを決定させていただきます。」リリアは確認した。
この世界では、冒険者ランクが必ずしも下のランクからスタートするわけではなく、模擬戦や試し撃ちの結果次第で上位のランクから始められることを、悠里は理解していた。これが冒険者として活動する際の魅力の一つでもあった。
少し考えた後、悠里は決心した。「では、模擬戦をお願いします。」
「かしこまりました。それでは、模擬戦での相手となる冒険者のランクを教えていただけますか?」リリアは次のステップを促した。
カトレアの記憶が共有されているものの、悠里は冒険者ランクの制度についてほとんど知識がなく、ランクの違いを理解するのに苦労していた。
「申し訳ありませんが、冒険者ランクの階級については全く分かりません…」悠里は戸惑いを隠せずに答えた。
「それなら、僕が教えてあげるよ。」その声が背後から聞こえた途端、悠里は驚きながら振り向いた。
そこには、カトレアの師匠であるアイリスが立っていた。
「もしかしてSランク冒険者のアイリスさんですか!?」とリリアは目を大きく見開き、言葉を失い、ただ口をぱくぱくさせていた。
「そう、僕がアイリスだよ。」アイリスは穏やかに答えた。
「まさか、愛弟子が冒険者登録をしたいなんて!」アイリスはカトレアが魔力を微量に抑えていることに気づいている様子だった。
「愛弟子?まさかカトレア…?」悠里はアイリスの言葉に一瞬困惑した。
「違うよ。この子は僕の愛弟子、二号さ。」アイリスはニンマリしながら説明した。
「そうだったのですね。てっきりアールグレイ家の現当主であるカトレア様がこっそり来たのかと思いました。」リリアの鋭い勘が、危うく悠里の正体を暴露しそうになった。
突然のことで悠里は唖然とし、深く息を吐いて呼吸を整えた。その後、アイリスが冒険者ランクについて説明を始めた。
「冒険者ランクは、実力や経験に基づいて評価される制度で、基本的にはSランクからFランクまでの七つの階級がある。Sランクは最も優れた冒険者の証で、このランクに属する者は極めて高い戦闘能力を持ち、特別な依頼を任されることが一般的だ。」
「Aランクは優秀な冒険者に位置づけられ、多くの冒険者が目指すランクです。Aランクの冒険者は、難易度の高いクエストをこなすことが期待されます。」
「Bランクは熟練した冒険者の証で、基本的な戦闘能力を身につけていて、中程度の依頼をこなすのが一般的です。」
「Cランクは初心者から中級者に当たり、このランクの冒険者は、より難しいクエストに挑戦する準備ができている状態です。」
「Dランクは基本的なスキルを持ち始めた冒険者に与えられ、その多くは初心者向けのクエストをこなすことが期待されています。」
「Eランクは冒険者としての第一歩を踏み出した段階で、一般的に戦闘経験が少ないことが多いです。」
「最後に、Fランクは未熟者や見習い冒険者に与えられるランクで、まだ正式に冒険者として認められていないことがほとんどです。」アイリスは一通りの説明を終えた。
「説明は以上です。それでは、愛弟子。模擬戦は僕が相手をしよう。」とアイリスは続けた。
「断固としてお断りします!」悠里は反発した。
「せっかく現役冒険者の私が目の前にいるのに。」アイリスは不満そうに唇を尖らせた。
「不満を言っても無駄です。師匠は手加減してくれませんから。」悠里は冷静に返した。
アイリスは現代最強の魔女であるカトレアを遥かに上回る実力を持っているため、悠里の立場を考慮すると、その状況はより厳しくなっていた。
「それは愛弟子のことを考えての行為だよ。」アイリスは優しく微笑みながら言った。「それでは、愛弟子はどのランクの冒険者と模擬戦を行いたいのかな?」
「うーん、せめて夜鎧を倒せる実力の冒険者がいいですね。」悠里は少し考えた末に答えた。
「夜鎧!? Aランク冒険者が束になっても、やっと一体倒せる魔物ですよ!」リリアは驚きの表情を隠せず、大きな目で悠里を見つめた。
「まさに僕じゃないか。」アイリスは自信満々に自分を指差し、笑顔を見せた。
「リリアさん、私の要望に合う冒険者はいませんか?」悠里は期待を込めて尋ねたが、リリアは少し困った表情を浮かべた。
「申し訳ありませんが、悠里さんの要望に合う冒険者は、現状アイリスさんしかいません。」リリアの冷静な説明に、悠里はショックを受けて膝をついてしまった。
「さっきから僕の扱いが酷くないか?」アイリスは軽いツッコミを入れたが、悠里の心には何か重いものが残っていた。
アイリスは悠里の肩に手を置き、穏やかな口調で言った。「まあ、そんなにがっかりしなくても大丈夫だよ。大事なのは、愛弟子の実力を発揮できることだから。」
その言葉に、悠里は嬉しさのあまり涙を浮かべて返答した。「師匠が空気を読める人物で良かったです。」
「さらっとこの愛弟子は辛辣なことを言うなあ。」アイリスは、まるで本音を言われているかのように感じて、思わず笑いをこらえることができなかった。
こうして、彼らは冒険者登録の手続きの一環として訓練場へ移動することになった。




